「モンスター」1
「モンスター」
現れた巨大なタイプ3が立ちはだかる。
バスが壊れ、もう車では移動できない。
そしてさらに死者も。
トビィは起死回生の反撃を提案。生き残った仲間は教会に走る。
が……衝撃の展開が待っていた。
***
「武装があれば対応できなくはないが、第三段階以降は俺でも逃げる」
祐次ですらそう言っていた。それがALタイプ3だ。けして珍しい存在ではない。だがその戦闘力は、ほとんどの人類にとって第一段階でも脅威以外の何物でもない。
タイプ3は突進すると、その巨大な爪を振り上げバスを殴りつけた。
その衝撃でバスの天井は真っ二つに切り裂かれ、衝撃でバスは横倒しになると街路樹に激突した。
スピードが出ていなかったから、中の衝撃は幾分マシだ。それでも全員座席から吹っ飛び、マイケル=バーモンドは車外に飛ばされた。彼は二度と起き上がらなかった。
あっさり、死んだ。
誰もが悲鳴を上げ、泣いている。
「くそ!! なんだあの化物は!!」
普段冷静沈着なバーニィーですら叫ぶ。
暗くて誰がどこにいるかよく分からない。
動くものがなくなったせいか、タイプ3は動きをやめ、周囲を見回しながら歩いている。
「エイリアンどころか恐竜じゃねぇーか!!」
カイルも叫ぶとショットガンを掴む。
「あいつ何とかしねぇーと全滅だぜ!?」
「マイケルが!」
「駄目だ! マイケルの奴、頭が割れて……!!」
マイケルはピクリとも動かない。生きていればALが襲う。確認するまでもない。
……残り10人となった。
「ああ! 少し黙れ」
黒闇の中で声をあげたのはトビィだ。
「馬鹿な真似すんな! どうやら俺たちには気づいてねぇー。マイケル以外、皆、無事か?」
「あたしは大丈夫」
すぐ近くでエダが答えた。
「私もよ。頭をちょっと切ったみたい」
ジェシカも答えた。彼女は泣きじゃくるクレメンタインを抱いている。
返事ができたのはこれだけだ。後の子供たちは恐怖とショックで泣いていて返事もできない。
「このままじゃあ全滅だ。あの恐竜エイリアンをなんとかしねぇーと一歩も動けねぇーぞ、トビィ!」
「すぐに大通りのALも来るよ。逃げないと」
その時だった。
「うわぁぁぁっっ!!!」
ライアン=ストーンとマイルズ=グローバーが悲鳴を上げながらバスの外に転がり出た。
パニックの限界を迎えた少年たちは、もう理性など関係なく、この場から逃げ出した。
止める間もなかった。
二人は手を繋ぎ、近くの路地に飛び込み全速力で駆けた。
だがその逃走も無駄だった。
30秒後……通りの向こうからライアンが持っていたライフルの乱射音が聞こえたかと思うと、ALタイプ1の群がる奇声と共に二人の断末魔の悲鳴が聞こえた。
通りの向こう側はタイプ1で溢れているようだ。……残り8人だ。あっという間に減った。それもこんなにあっさりと。
前方にタイプ3。背後にタイプ1の群れ。そして陽も暮れ辺りは濃い闇だ。
「……エダ……」
「何? トビィ」
「ALは水で破裂したな? 放水で。ユウジさんは、放水は有効だと言っていたよな?」
「第三か第四段階までは……原則的には真水が弱点だって」
「ここがジョファーソン・ストリートなら……大通りだ。街路樹があるってことは左側。交差点まで行けば、消防用の放水管がある」
「……そこまで、行ける……?」
「ああ。だからお前たちはその隙に教会まで走れ」
そういうとトビィはバーニィーとカイルを捕まえ、作戦を耳打ちした。
二人とも恐怖と混乱で限界ぎりぎりだったが、特攻役がトビィだと知り無言になった。こんな状況下で他にプランなどあるはずがない。
「おいフィル、子供たちの先導を……」
そう言って運転席のほうを振り向くトビィ。だが、そこにフィリップの姿はなかった。死体もない。運転席側の窓が砕けてなくなっている。
逃げたのだ。子供たちを見捨てて。
この事実にさすがのトビィも言葉を無くした。だが構ってなどいられない。
子供たちの先導役をジェシカに頼み、バーニィーとカイルがショットガンを掴む。
もう残った子供は7人。銃は4人分で、エダだけは奇跡的に怪我をしていないが、13歳組は全滅し、12歳はデービットのみ。怪我の重いアドラーと10歳のクレメンタインは一人ではろくに行動できない。
「俺たち三人が飛び出して、あのデカブツがこっちに向かったら皆は走れ。教会で篭城だ。ユウジさんが来るのを待つ」
もはやそれ以外、生き残る希望はない。
誰も無言だった。
構わすトビィ、バーニィー、カイルの三人は外に出た。
「二人は動き回ってあのデカブツの気を引いてくれ! 俺が放水を始めたら走って教会まで行け! 水で倒せても倒せなくても」
二人は頷いた。
トビィは背負っていたAR15をバーニィーに渡す。
トビィは物陰から飛び出した。
本当に動くものに敏感なのだろう、道路の真ん中にいたタイプ3は、その巨大な頭をもたげトビィを睨むと、すぐに体の向きを変えた。
そして動き出す。
と同時にバーニィーとカイルもバスの物陰から出る。タイプ3はすぐに気づいたが、一番速く走るトビィを標的に定めたようで、僅かに顔を向けただけですぐにトビィを追った。だが駆け出すと同時にバーニィーとカイルの銃撃がタイプ3の顔面に炸裂した。
これまでのALは体に一発でも弾が当たれば破裂した。だがタイプ3は大きい分皮が厚く、ショットガンの弾は全く効かない。それでもトビィから自分たちに関心を引くことには成功した。
その隙にトビィは交差点まで辿り着き、消防用ホースを引き出し始める。
「くそ! 使ってねぇーから硬いっ!!」
トビィは舌打ちした。だがもうこれを開けるしか自分たちが助かる方法はない。
ジェシカとエダたちの避難も始まった。
トビィが予想より手間取っていると感じたバーニィーとカイルは、二手に別れ銃撃を続ける。ショットガンの装弾数は5+1だ。6発などあっという間に撃ち尽くした。すぐに彼らはマガジンチューブに新しい弾を装填していく。
だがALタイプ3は想像していたよりはるかに強靭で、獰猛だった。
銃撃してくる二人が五月蝿く思ったのだろう。一人に狙いを定めると、一気に跳躍した。20mという距離を、僅か二歩で縮めるとその巨大な爪を振るった。
カイルは悲鳴を上げる間もなく、一瞬で肉塊となり砕けた。
バーニィーは絶叫するとショットガンを捨てAR15を乱射する。マガジンには30発入っているが、だがそんな銃撃など意にも介さない。セミオート・オンリーのAR15の引き金を引きまくるが、効果はほとんどない。
今度はバーニィーを仕留めるべくタイプ3が体を屈めた時だ。
357マグナムがタイプ3の頭に命中した。
「こっちだ!!」
トビィは叫ぶ。続いて5発、頭部目掛けて357マグナムを放った。しかし357マグナムなど、この巨体を誇る化物には痛くも痒くもない。それでも関心がバーニィーからトビィに移った。
タイプ3は50m離れたトビィに向かい近寄っていく。
トビィは撃ち終えたキングコブラを地面に置き、ホースを掴んだ。そして思い切り栓を開いた。
水が凄まじい勢いで噴出した。その水柱を、突進してくるタイプ3に向ける。
小さな滝のような水がタイプ3を襲い、弾き飛ばした。
断末魔の悲鳴を上げるタイプ3。
化学反応だろうか、全身から水蒸気が上がり、苦しそうにのた打ち回っている。
トビィはホースを掴むと、一気に近づき水を掛け続けた。
効果は覿面だ。のた打ち回っていたタイプ3の体は縮み、すぐに弱まる。トビィが駆け寄り、さらに強い水流を当てると、やがて他のALと同じように、ついに破裂して消滅した。
「やった!」
まさかここまで巧くいくとは……驚きと一種の感動にトビィとバーニィーは包まれ、お互いの顔を見合った。これこそが人類の反撃の手ではないか!
トビィは警戒のため周囲にも放水し、辺りをびしょ濡れにすると、バーニィーと合流し教会に向かって駆け出した。バーニィーはAR15を捨てショットガンを掴み走った。
だが100mほど行った所で、二人は驚愕の光景を目にした。
地面にジェシカが倒れていた。
「ジェシカ!?」
トビィは駆け寄りジェシカを抱き起こす。頭部から血が出ているが少量で、これは横転の時の怪我だ。他に顔に痣がある。殴られた跡だ。脈はあり気を失っただけだ。
「ジェシカ!! どうした! ジェシカ!!」
トビィが揺らす。
するとジェシカは目覚めた。
最初は混乱していたが、すぐに彼女は重大な事件を告げた。
「攫われた!! エダが攫われた!!」
「何だと!? 誰に!?」
「姿は見ていないけど声は聞いた。間違いない、フィリップの馬鹿がエダを攫ったの!」
それを聞いたトビィは無言で駆け出した。
「モンスター1」
タイプ3撃破です!
まぁ、水が弱点ですから。
しかし今回すごくボス的に書いてますが、実はタイプ3も結構数がいて「出てきたら厄介な不定期遭遇小ボス」みたいなものです。それでも子供たちにとっては脅威でしかないですが。
ここで三人死にました。
もう遺体がどうとか言っていられません。
そしてまさかのエダ誘拐!
極限状態のとき、むしろ人間のほうが恐ろしい……ということです。
ということでエダは無事なのか!? で次回です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。