「殲滅作戦・激」1
「殲滅作戦・激」1
ついにセントラル駅到達!
ベンジャミンたちも構内に逃げる。
押し寄せる膨大なAL!
だがまだ完全ではない。
そこに祐次から連絡が。
***
11月1日 午前11時42分
NY セントラル駅
「来たわね」
アリシアはタオルでゴシゴシと濡れた頭を拭きながら、眼下に群がるALの大群を見つめた。
連中は、セントラル駅周辺に集結し、四方から飛んでくる銃撃に対し、威嚇を繰り返している。
ALの第一陣が駅にこのエリアに到達したのは11時30分過ぎ……マークとボブたちFDRドライブ班だった。集まったALは約3万だ。
マークとボブたちはバイクを捨て、近くのビルに駆け上り避難する。
ここには自警団が防衛陣を布き、現れたALに対しビルの屋上やセントラル駅の上や中から激しい銃撃を加え、この場に釘付けにする。
そしてベンジャミンたちの本隊も、11時39分に到着した。その後ろにAL約4万が迫っている。
ベンジャミン方面のALが1万ほど減ったのは、ベンジャミンたちが倒したのではなく、祐次が爆破したハドソン川の大爆発で舞い上がった水の雨と、その後押し寄せてきた水の濁流によって先頭を走っていた群れが消滅したからだ。祐次はこれを狙ったわけではなかったが、この濁流と雨で、ベンジャミンたちはかなり余裕と体勢の立て直しをすることが出来た。もっとも彼らもびしょ濡れになったが。
ベンジャミンとグレンは交戦しながらセントラル駅構内に入った。
ここで武器を補給しつつ、とにかく銃撃して駅内にALを引き込む。
ベンジャミンは二階フロアーの一角で座り込んだ。
よくやく一息つく。これまで休憩なしだ。
ベンジャミンは用意されていたペットボトルの水を一気に飲み干した。
そして無線機を取り、アリシアに現状の報告を聞いた。
『すごい状態よ。ALのラッシュアワー! ざっと7万くらいはいるわ!』
「全部ここに来たか?」
『4000くらいは散ったわ。200くらいは北上、残りは西に行ったけど、西はまださっきの濁流で氾濫した水で荒れているから、引き返してくるはず』
2000の数は多く脅威だが、完全武装の自警団が10人いれば駆逐できる。そして北側にはAL避けの放水と、ガブスたち自警団の予備隊20人が陣取り警戒に当たっている。十分な武装もあり、撃退できるだろう。
一部はすでに防衛ラインに接触し、銃撃が始まっていた。アリシアが見る限り、北の防衛線はこのままガブスに任せて大丈夫だろう。
「問題はあるか?」
ベンジャミンは口を拭ってペットボトルを捨てた。
『ドクター・クロベから連絡がないの』
「もう30分近いじゃないか!? あの若造は最後はどこに?」
『公立図書館。そこから1ブロックしか離れていないわ。休憩するって連絡があったきりよ。エイリアン君に連絡しても応答ないし。様子を見に行かせたほうがいいかしら?』
ベンジャミンは外を見た。もうそこいらじゅうにALが充満している。ベンとグレンは駅外に出る事は不可能だし、周囲に配備した自警団の人間たちも、この群れの中を西に突破するのは困難だ。
それにここから西に向かえば、ALの群れをそちらに引き寄せてしまう。それだとこの作戦の意味がない。
……あの男が死ぬとは思えんが……。
「30分経過して何も連絡がなかったら、誰か確認に行かせろ。万が一があると、俺たちはお嬢ちゃんに殺される」
『了解』
ベンジャミンは無線機をタクティカル・ベストのポケットに入れた。
「グレン」
ベンジャミンは相方の自警団員、グレン=マルティに声をかける。
彼は30代前半で、ベンジャミンと縁が深い。何せ世界の崩壊の同期だ。ただし警察関係ではなく、元犯罪者だった。しかし色々知識もあり戦闘もできて度胸もある。今では信頼し合える仲間で、幹部クラスの一人だ。
「残りの銃と弾は?」
「ここにあるのは残り400発。3階にはまだ500発ある。車爆弾はまだ8箇所残っているはずだ」
「そっちはアリシアの判断に任せよう。俺たちはギリギリまで戦って、その後は地下だ。お前、泳げるんだろうな?」
「あんまり愉快なルートじゃねぇーな。11月にダイビングだなんて」
「7万のALの中を突破するよりはマシさ」
そういうとベンジャミンは用意してあったコルトM733を掴んだ。
弾はともかく、銃はまだ豊富に用意されている。
***
アリシアも焦っていた。
ALが予想したより駅構内に入らない。駅周囲には集まっているから失敗ではないが、半分は路上にいて、これでは完全に爆発で倒せるか怪しい。
そしてそろそろ周囲に配備した狙撃組を撤退させないといけない。狙撃組の武器も少なくなってきたところだ。
11時52分。
さすがにアリシアも祐次から連絡がないことを不審に感じ、捜索隊を出すべく自警団内で相談をしていた時だった。
アリシアが持っていた無線機が鳴った。
出てみた。相手は祐次だった。
「ドクター!? 今まで何していたの!? 今、どこ!?」
『まだ図書館だ。ちょっと用があって、ここにいた。状況を教えてくれ。ベンやALはどうなっている?』
「…………」
アリシアは手短に説明する。
話を聞いた祐次は、意外な事を言った。
『マークはまだ避難していないな?』
「ええ」
『あいつに用がある。俺はあいつと一緒に駅に向かう。援護を頼みたい』
「アンタ、何するの?」
祐次は作戦を語った。
その作戦を聞いたアリシアは、思わず黙った。
確かに祐次の作戦が成功すれば、ALの殲滅は間違いない。その威力は十分確認した。ただし、そのためには当初の脱出案は使えず、人員の撤退プランも変更しなければならない。アリシアたちも避難を行わなければ巻き込まれる。
だが……確実に作戦目標は達成できる。
『ベンとグレンとマークの避難は俺が責任を持つ。地下ではなく地上を南に逃げる。現場指揮は俺がやるから、アリシアたちは時間になったら避難を始めてくれ』
「どれだけ危険か分かっているの!?」
『ここまでやって失敗するよりマシだ。ALは放置していても敵がそこにいるかぎり退かないから、マークの作業時間は焦らなくていい。後は俺とベンだけだ』
「任せていいの?」
『ああ』
他の人間ならともかく祐次の進言だ。信頼感はある。
「分かったわ。手配する。調整するから10分待って」
『了解だ』
アリシアは無線機を置いた。
数秒……一言も発さず考えた。
作戦が困難だから……ではない。
……あのドクターは、特別すぎる……強さも発想も、私たちは到底及ばない……。
普通の人間には無理だ。だが、あの男ならばやってのける……そう思わせる何かが、あの男にはあった。
「殲滅作戦・激」1でした。
ついに作戦佳境!
巨大な落とし穴予定のセントラル駅に来ました。
すでに本編でも説明しましたが、NYという街は中州で、しかも地下をかなり掘って地下水がすごく、普段はかなりの量を排水していたんですが、それが止まると水没してしまう都市なんです。だからトンネルも水没していたわけです。まぁ水が多いので逆にALから防御するには適した街ですが、逆にキャパオーバーするとどうにもならない問題が。
そして祐次どうやら復活……ですが、祐次の作戦とは!?
30分で手術し終えたワケですね。本当やすまない男だ。
ついに四章も佳境です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




