「殲滅作戦・転」3
「殲滅作戦・転」3
アクシデント!
祐次、重傷!
慌てるJOLJU!
だが祐次は冷静に自分の処置をする。
この男は自分で自分の手術を始めた!
***
公立図書館の一階のホール。
建物は爆発の影響はなく無事だったが、窓ガラスは全て割れて凄まじい状況だ。
そして祐次は壁に凭れ掛かり、座っていた。
床に、血が流れている。
「くそ……」
祐次は左太ももと右わき腹に刺さったガラス片を触る。どっちも20cmほどの、大きいガラス片が突き刺さっていた。
……左太もも動脈損傷に……腹は腸まで切れたな……。
自分で触診して確かめる。どっちも致命傷ではないが重傷だ。
窓際にいたのが間違いだった。衝撃波で割れて吹き飛んだガラス片が突き刺さったのだ。
祐次は冷静に携帯していたロープで足を縛り、出血の勢いを抑える。
「祐次!! 大丈夫かだJO!! 気をしっかりもつJO!! 早く病院に行くJO!!」
JOLJUは、祐次の負傷を見て取り乱していた。
JOLJUの目から見ても重傷だ。出血も酷い。
祐次は武器バックの中に入れた応急処置バッグを取り出し、素早く自分自身にモルヒネを打った。
「病院に行ってどうする? 誰が手当てするんだ? 足は縫えるが、腹は開腹して腸の傷を縫合しないと腹膜炎と敗血症を起こす」
痛いがガラス片は抜けない。刺さっている事で大量出血を防いでいる。しかし刺さっているかぎり激痛で動く事もできない。
「とにかく病院だJO!! オイラ、車を取ってくるから安静にしてるんだJO!!」
「それより……何が5ブロックだ。半径5ブロックじゃないか。威力が倍違う」
「オイラだって一発本番でそこまで分からんJO! 突貫で時間も足りなかったし。そんな事より病院だJO!! エダとリチャードに連絡だJO」
スマホを取り出し操作するJOLJU。それを祐次は止める。
「エダにいうな。大騒ぎになる」
「そんなこというとる場合じゃないJO!!」
「お前、忘れているだろ?」
そういうと祐次はミリタリーベストのポケットから、懐中電灯サイズの何かを取り出した。
それは見たJOLJUは、「あー」と言い、落ち着いた。
ク・プリの船で手に入れた細胞再生装置……治療器だ。これがあればどんな傷でも治る。そして祐次のDNAはすでにセットされている。
「すまんがこれで傷を治してくれ。足のほうから頼む。こっちのほうが動脈でヤバい。今は刺さっていて吹き出ていないが、抜いた瞬間血の海だ。すぐに処置すれば死にはしないが」
「でも、すぐには傷、塞がらないJO!?」
「だから……今から動脈を縛る」
そういうと祐次は医療バッグの中から局部麻酔とメス、縫合セットを取り出した。
メスで切開して動脈を縫合する。簡単でいい。後は細胞再生装置が治してくれる。
しかし他人を処置するのではなく、自分で自分の足を手術するのだ。尋常な神経ではない。
祐次は治療器をJOLJUに手渡すと、ズボンを切り、傷口近くに麻酔と止血剤を注射する。そして傷口と手を水で洗い、よく拭くと、医療器具を手に取った。
JOLJUも治療器をセットした。
「でも、ダメージは体に残るJO? それに傷が二箇所だからエネルギーが足りないJO。応急処置で酷いところだけ治したら、病院にいくJO!」
「行かん」
今度は腹の傷に注射を打ちながら、祐次は答える。
「今のでかなりALを倒せただろう。だがまだ5万以上いる。あれを倒さないと駄目だ。それにセントラル駅爆破がどうも怪しい」
祐次は今居る図書館を見つめて言った。今の爆発でも、この建物はビクともしていない。米国の古くて大きい建物は予想以上に強固だ。プラスチック爆弾ではどうにもならないかもしれない。
「動脈と腸の傷を塞いでくれたらいい。外傷は自分で縫う。その間に……もう一発、光子魚雷の改良をしてくれ。今の爆発の半分に出来るか?」
「出来るけど……まだやるの? 祐次?」
「他に誰かやる奴がいるか?」
あの爆弾を使っていいのは祐次とJOLJUだけだ。あの爆発力があれば、セントラル駅は完全に破壊できる。ただし今より弱めなければ周囲にいる仲間たちも巻き込まれるし、下手をしたら生活圏であるセントラルパークまで破壊する。
JOLJUは不安と不満で渋い顔をして黙った。それを祐次は了承だと受け取った。
祐次はタクティカル・ベストとDE44を外し、応急キットの中から圧迫帯と包帯を取り出す。腹を刺されたままでは痛くて手術どころではない。こっちは止血していれば最悪の状態にはならない。
わき腹に刺さったガラス片を引き抜こうとした。だが深く刺さっていて抜けない。無理に握って指を切ったら手術どころではない。
祐次は、プッと込みあがってきた血を吐き捨てた。
「お前がいてよかったよ」
「マブダチだJO! 今更何いうJO!」
「あの宇宙船の探検が、こんなにも役に立つとは思わなかった」
そういうと祐次は腰のベルトに付けていたヴァトスを取ると、30cmほど刃を出現させた。そしてそれをわき腹の傷口近くに突き刺した。
肉は切れていない。今、ヴァトスの接触対象をガラスにした。
体内に刺さったガラス片を、ヴァトスの刃で梃子の原理で外すのだ。半分押し出せば、後は掴んで抜ける。
ガラス片が抜けた。
すぐに圧迫帯と包帯で傷口を縛り、圧迫止血する。
それが終わると、同じようにして足のガラス片を抜いた。
「くそ……本当に<ブラックジャック>だな」
噴き出す血を拭いながら、祐次は一気に自分の足にメスを入れた。
麻酔とモルヒネを打っても電撃のような痛みが全身を駆け巡る。だが祐次の手は止まらない。
傷自体の処理は難しくない。ただ急がなければ、死にはしないが血液不足で動けなくなる。とはいえ麻酔や痛み止めを過度に使えば意識が散漫になり戦うことができない。どれだけ根性があっても薬には抗えないから、痛みのほうを我慢するしかない。
まだ、祐次はやる気だ。
そう、まだ作戦は終わってはいない。
「殲滅作戦・転」3でした。
祐次、まさにブラックジャック!
爆発でガラスが刺さった事故です。足も腹も少しズレていれば実は致命傷でした。足は動脈ですからね。血管縫合しないと出血死するし、放置すると足が壊死するし。
ここで役に立ったク・プリの船の万能治療器!
しかし一回こっきりなのと、傷が二箇所なので内部の深手は治しますが外傷は結局応急処置で自分で縫う処置しかできません。これを自分でやるんだから、まさにブラックジャック(笑
しかもまだ祐次はやる気です。
このあたりが祐次の悪い点ですね。こいつ、ワーカーホリックすぎるというか、動き出すと休むという選択肢がない。だからエダやJOLJUが止めるしかないんですが、もうJOLJUでは祐次は止められないのでエダしかいない! が、ここにエダはいないので祐次は暴走です。
ということで作戦はついに佳境!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




