「殲滅作戦・序」2
「殲滅作戦・序」2
作戦は順調に進む。
だが、別方向から予期せぬALの出現!
その数は3000を超え、さらにふえつつある!
ついに祐次が動く!
***
午前10時30分。
ほぼ定刻通り、ベンジャミンたちは、ALの大群を3thアベニューに引き入れる事に成功した。そしてFDRドライブのボブとマークも、無事国連本部ビル前に到着した。こっちは脇道がないので、まだ激しい戦闘はなく少し距離を引き離している。だがここも後10分もすれば激しい戦闘に入るだろう。
それら全ての報告は、指揮所のアリシアと祐次に伝えられている。
祐次はよく冷えたレモンソーダをクーラーボックスから取り出し、アリシアに手渡した。
「ありがと」
「これも食べろ。プロテイン・チョコバーだ。今日は頻繁に水分と糖分を採ってくれ」
「いつもの薬に比べたら、夢のような薬ね」
アリシアは微笑むとソーダを一気に傾ける。その横で祐もソーダを飲む。
「今のところは成功かしら?」
「そうだな。だがパーク通りに入る頃はベンが辛くなる。銃と弾薬が乏しくなる。ただ車爆弾がかなり用意できたのは幸運だ」
あれで大分ALの関心を引ける。ただそっちに流用したから、セントラル駅の爆破がギリギリなのだが、それは今更責められない。そもそも建築爆破の専門家はいないし、爆破不足かも、と言ったのは地球人より遥かに計算力のあるJOLJUとク・プリアンだ。
「それより、体調は大丈夫か? 頭痛や吐き気や熱は?」
「どっちもあるけど、元気よ」
「あの薬を打ったのはいつだ?」
「二時間前」
「ちょっと早いが、今のうちにもう一本。打てる余裕がある今のうちに」
「はいはい、ドクター」
アリシアは苦笑いすると、懐から注射キットを取り出す。中には使い捨ての注射が6本あり、すでに一本は使っている。
アリシアが注射を打つ間、祐次は双眼鏡でマンハッタン全域を見渡す。
ここはビルが高く、マンハッタン島は先に狭くなるから大体の様子は伺える。
と……。
何気にマンハッタン東にあるハドソン川に沿いを見ていておかしなものを見つけた。
NYとニュージャージーをつなぐ最大の地下トンネル、リンカーン・トンネル周辺が、いつもよりALの姿が多い。群れというほどではないが、多い。
祐次はここ最近頻繁にマンハッタンに出入りしている。ALの数は大体把握しているつもりだ。
双眼鏡の倍率を上げて、もっとよく観察すると、ゼリー状の塊が多く見えた。
それが次々とALの姿に変化しているのだ。
「しまった! そういうことか!」
「どうしたの? ドクター」
「ハドソン川のALが、イースト川のALの騒ぎに呼応して反応し始めたんだ! ヤバいぞ!」
ALたちは会話したり連絡しあったりすることはないが、集合意識のようなもので繋がっている。戦闘モードが伝播したのかもしれない。今は第四期で戦闘には過敏だ。これは計画になかった。想定外だ。
祐次の報告を聞いて、アリシアの顔色が変わった。
「リンカーン・トンネルのほうからも来るっていうの!? 大群が押し寄せるってわけ!?」
「ゼリー状のやつが徐々に変化しているから爆発的には増えない。だがAL化していない分倒せないから厄介だ。あのトンネル全てゼリー状で詰まっているとしたら、最終的にはこっちのほうが数は上回るぞ」
一気に集結しているわけではないから、誘導して一気に殲滅する事も出来ない。間違いなくマンハッタン全域に広がる。
予想外の事態だ。
対応しようにも、その方面には監視所以外人員は置いていない。第一級の人間は誘導班と北の防衛班、セントラル駅周辺に配備している。武器は沢山用意してあるが、人員はギリギリで、いわば予備戦力といったものはない。
それに祐次は直感で分かった。
これはベンやアリシアたちでは対応できない。まともに対応するには、今行っている人員を全て差し向ける必要がある。ベンたちでは短期決戦で処理することは出来ない。
いや、それは祐次だって出来ない。
ゼリー状のALは無敵だ。攻撃は効かない。水の攻撃も効かない。
「今の作戦は2時間で終わる。その後対処したらどうかしら?」
「一時間もしないうちに5000は超えそうだ。処置が遅いと手遅れになる」
「セントラル駅の人員を半分動かしたらどう?」
「状況の説明と作戦推考で最低でも一時間はかかる。その頃にはALの第一陣が駅に到着している。これだけの大作戦後に、同レベルの大作戦をすぐに実行するなんて体力も武器も足りないし無理だ」
「じゃあ、どうするの?」
「…………」
祐次は顔を上げた。
唯一の予備戦力は、ここにしかいない。
「確かNYの地下トンネルは、どこも全部水没しているんだったよな?」
「ええ」
「なら手はある」
「ドクター……まさか、貴方が行くの!?」
「今まで様子を見てきたか、アンタが倒れそうな雰囲気はない。4時間は動けるはずだ。今、この中で動ける予備戦力で、かつ一人で何かしら対処できる人間は俺しかいない。今2000か3000くらいなら、俺一人で殲滅できる。念のためフル装備の銃も用意してあるしバイクも用意してあるし、リンカール・トンネルはここから1kmもない。全滅できるかどうかは分からんが、1時間でやれることはやってくる」
祐次はもう決意した。
幸い今朝JOLJUが用意した特製マガジンがある。弾はある。うまく立ち回れば殲滅することは出来るかもしれない。
それに一つ、いい案が浮かんだ。
祐次は念のため持ってきていた武装バックを掴んだ。中にはステアーAUG、HK MP5K、N4ショートCGB、無線機、そして医療キットや水が入っている。
「ベネリM4と12G弾を50発くれ。後セムテックスと手榴弾三つ。それでなんとかしてくる」
祐次はもう決めたようだ。
祐次がここを離れる事は不安だが、祐次の話が本当であれば捨て置けないし、確かにこんな大規模な対応は、このNYでは祐次以外できない。
「分かったわ。でも無理はしないで。無理ならすぐに帰ってきて」
「ああ。今回はアンタの護衛と補佐をやるって約束したからな。戻ってくる」
祐次は指定した武器を受け取ると、すぐに出口に向かった。
「殲滅作戦・序」2でした。
やっぱり起きたイレギュラー!
そしてやっぱり前線に行くことになった祐次です!
フル装備でJOLJU特製マガジンわ持っているので、祐次は一人で3000発近く持っているので一人でも戦えなくはないですが、無謀ですが……祐次には考えがあるでしょう。
ということで「ロングアイランド殲滅作戦」は、ベン・ルート、指揮所のアリシア、西方面の祐次、と三方面に分かれることになります。
作戦はこれからが本番!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




