「殲滅作戦・序」1
「殲滅作戦・序」1
自宅で静かに作戦を見守るエダ。
激しい銃声は離れた居住地まで届いていた。
ついにALの大群が橋を渡り、マンハッタンに流れ込む!
殲滅作戦、本格始動!!
***
11月1日 午前10時11分
NY マンハッタン ハーレム
「始まった」
エダは手にしたジュースを抱えたまま、虚空を見上げた。
まるで激しい落雷の嵐の中にいるようだ。
激しいフルオートの銃声は、ほとんど途切れることなく続いている。
こんな激しい戦闘は初めてだ。
「……祐次……」
「すごい。ホント、戦争じゃん」
ミレインはソファーに座り、コーヒーを啜る。
ここはエダと祐次の自宅だ。だがここにいるのはエダだけでなく、デズリーやミレイン他彼の仲間4人が集まっていた。
二日前から、デズリーたちの仲間6人は、エダの家で居候している。
エダを入れて7人だが、皆若い十代で仲が良くフレンドリーで、エダもすっかり打ち解け仲良くなった。
三人用に宛がわられた家で広くはないが、祐次とエダの家は清潔で設備もよく綺麗で、インテリアも一流のものが揃っている。デズリーたちの隠れ家より快適だったから、彼らもそれほど窮屈には感じていなかった。他の住人より豪華なのは、それだけ祐次たちがVIP待遇ということと、祐次が働いて稼いだ金で色々そろえたからだ。それに十代の少年少女にとって口喧しそうな大人のドクターは帰ってこなかったので、彼らも気楽だ。しかもゲームやらDVDやら本やら、子供が喜ぶ暇つぶし(主にJOLJUの物だが)になるものも多いし、食べ物や飲み物は豊富だし、ご飯やおやつはエダの手作りで美味しい。24時間電気が使えるから遊ぶのには困らない。
が……さすがに陽気なデズリーたちも、今日は緊張感に包まれていた。
今日だけは、皆手の届くところに拳銃を出している。
エダも、自宅だがレッグホルスターとヒップホルスター両方を装備し、いつでも飛び出せるように屋内でも愛用のパーカーを羽織っている。そして祐次が手配したのかアリシアが手配したのか、ステアーTMPと呼びマガジン3本、計弾120発の入ったバッグが、今朝届けられた。
これはエダだけでなく、各エリアのリーダー格の人間にはフルオート銃の武装一式が届けられている。逆に言えば、エダはリーダー格並の待遇を受けているということだ。
「大丈夫だよ、エダ」
デズリーは愛用のM1911をズボンに押し込みながら顔を上げた。
「あのドクター、化物だぜ? 俺、先日一緒に戦ったからよく分かるぜ。あの人は死なねぇーよ。エイリアンよりよっぽど強ぇーし」
「デズリー、あのドクター追い抜くって言ってなかった? 負けんじゃないわよ」
「ミレイン……お前、あのドクターの凄まじさ見てねぇーから言えンだヨ。あんなの無理無理。もうアメコミ・ヒーローの域だぜ、アレ。それはエダが一番分かっているだろ?」
デズリーはここ数日で祐次の能力を嫌というほど知った。アレは医者ということを置いても特別だ。
エダは苦笑した。
「あははっ……デズリーもすごいよ。ベンジャミンさんやアリシアさんたちに一目置かれているし、祐次と一緒に作戦できるんだから。祐次だってデズリーが優秀だって認めていると思うよ」
「ありがとヨ、エダ。ま、エダも心配しすぎるよ。胃に穴が空くぜ?」
「うん」
エダは僅かに笑みで返した。
だが、心の中は違う。
心配で心が締め付けられて苦しい。
アリシアはエダがどういう心境になるか、分かっていた。
だからデズリーたちと一緒にして、エダを一人にさせないようにした。
デズリーたちと一緒にするよう祐次にアドバイスしたのはアリシアだ。一人だったら、エダの心はもっと苦しんだだろうし、きっと我慢できず飛び出していたに違いない。
そう……エダは知っている。
多分エダとJOLJUは、祐次という人間を深く理解している。
祐次は強い。
ALにも暴徒にも負けない。
サバイバル術にも長け、あらゆる銃器の扱いに長じ、冷静な判断力と誰にも負けない勇気を持っている。経験も豊富で頭の回転も早くなんでも的確に、もっとも適切な行動を取れる。
だが……祐次は人一倍『人を助ける意志』が強い。
誰にもどうにも出来ない状況になっても、祐次だけは諦めない。
そして、他の人間ではどうにもならない、自分しかいないと判断したとき……祐次は自分の命など一切念頭から消え、平然と死地に飛び込んでしまう。
祐次に欠けている点は、自己愛だ。
祐次は自分の命に価値を見出していない。けして自分の身が大切だとは言わない。死にたがり屋の無鉄砲ではないが、他に選択肢がなかったり他人が死ぬぐらいであれば自分が死地に飛び込む。誰かのために死ねる男だ。
……あたしがしっかりして、祐次を止められる存在にならないと……いつか祐次は誰かのために無茶をして死ぬかもしれない……。
祐次は言った。
……俺はエダのためなら、死ねる……と。
自分は何が何でも生き残る、とは言わない。
そこが、エダにとっては最大の不安であり危惧だった。
今祐次は、そんな作戦の真っ只中にいる。
「死なないで……祐次……」
嫌な予感が、エダにはあった。
それはただ心配なだけではない……そんな気がした。
***
モーガン・スタンリー・ビル 屋上 午前10時16分。
「3thアベニューの迎撃を始めて!! ALを全て北上させる!! ベンたちが通過したら、第一弾爆弾爆破!」
アリシアが叫ぶ。
命令は無線を通して、NY全体に散らばった仲間たちに、即座に伝えられる。
ALの大群は、予定通り1/3はそのまま北上して川沿いの高速道路FDRドライブを進み、残る2/3は街を過ぎり、3thアベニューに到達した。
ここからは難しい。
まずALを四方に散らすわけにはいかない。このあたりは街の真ん中で、絶対防衛線である北のイースト57ストリートほど強固なバリケードも水の妨害もない。
一応大通りはトラックなどを並べ、フェンスなどでバリケードは作ったが、完璧に塞いだわけではない。路地が多すぎる。苦肉の策で、布を張った場所もある。
ここでは囮班と、周囲に点々と配備と配備した自警団が攻勢に出て、自分たちに引き付けるしかない。この最初の重要ポイントには、機関銃だけではなく、グレネードランチャーやロケットランチャー、そして爆薬なども配備されている。
すでにベンジャミンたち6人は、最初の手持ちの銃弾を全て使いきった。
ベンジャミンたちは一旦3thアベニューに先行し、路地に用意された武器の補給地点で銃と弾薬を整える。これまで使っていた銃は1000発近く連続で撃っていて限界だから、まだ壊れていなくてもここで遺棄し、交換する。
その間、通りのビルの屋上から、自警団たちの機関銃掃射が行われる。
ALの数は、ざっと7万以上。屋上からだと、その膨大な群れが見えた。
機関銃は撃てばどれかに当たるが、それでも一丁200発。今この場には4拠点あり、8人が屋上からの援護を行うが、7万の数に1000発程度では火事を水鉄砲で消火しているようなものだ。
だからベンジャミンたちにも策がある。
このあたりには、何台も車が路上に停めてある。そして車内には水の入ったドラム缶やウォーターボトル、さらに釘やネジやボルト、鉄くずなどがたっぷり詰められている。そして車体にはC4爆薬がたっぷり仕掛けられている。いわば特製の爆弾だ。
アリシアは、第一弾の爆破を命じた。
先頭を吹き飛ばすのではなく、群れのやや真ん中を狙う。全体の関心を引き付ける為だ。
まず4台の車爆弾が炸裂した。
爆発は通り全体に及び、ALが舞い上がる。
この爆弾一発で、200体ほどのALが消滅した。4台で700体ほどを倒した。
だが7万いる中の700など、微傷だ。しかし僅かに間隙は出来る。
「突っ込むぞ!!」
ベンジャミンと自警団のグレンが、バイクでそのALの群れの隙間目掛けて猛スピードで突入し、近距離でALを薙ぎ倒すと、すぐにまた戻る。この一撃離脱で、さらにALの関心を引くのだ。
タイプ1だけでなく、タイプ2、タイプ3も姿を現す。
この巨大なALが現れたら、屋上部隊の一隊が、用意していた50口径のセミオートライフルで狙撃し、進撃を阻止する。祐次ほど手馴れてはいないが、自警団もこれまで多くのタイプ3を撃退してきたから、倒すことはできる。
車爆弾、一撃離脱、屋上からの機関銃射撃、トラックからの援護射撃……時に手榴弾やグレネードランチャーを撃ち込み、ALを釘付けにしつつ、じわりじわりと後退し、3thアベニューに引き込んでいく。
この攻防戦が、15分ほど続いた。
今のところ順調だ。
各所の監視場からの報告から、他地区への流入も最小限で抑えられている。とはいえ1000ほどはマンハッタン南部に流れていったが、この程度であれば後日殲滅できる。
「殲滅作戦・序」1でした。
エダ、登場!
エダが主人公ですが、実は今回の作戦編ではあまりエダの出番はないので、今回は傍観役です。
ついにマンハッタンに上陸したAL!
このまま計算どおりいくのか!?
小規模はともかくこれほど大規模に戦闘するのはめったにありません。総数でいうと米軍編のほうが多いですが、あちらは米兵1000人もいたのに対しこっちは少数精鋭とはいえ実質20人前後。激しさが分かります。
ということでタイトル通り、今はまだ序章!
すんなりとは終わりません!
長いクライマックス突入!
これからも「AL」をよろしくお願いします。
 




