「秘密の超兵器」
「秘密の超兵器」
始まった「ロングアイランド殲滅作戦」
祐次とアリシアは超高層ビルの屋上で動向を見ていた。
そんな祐次とJOLJUに客が。
現れたのはク・プリのド・ドルトオだった。
***
パーク通り沿いにあるモーガン・スタンリー・ビルの屋上がアリシアと祐次たちのいる全体指揮本部だった。このビルから北100mの範囲が爆破予定になっていて、このNYの中心街の名所は、ほとんど破壊されることになっている。
この指揮所には、アリシアと祐次とJOLJUの他は、連絡用の人員と無線担当者、監視担当、そして護衛が二人。予備兵力や迎撃班は周囲のビルに分散し、状況しだいで動くよう大気している。監視所はロックフェラーセンターにもあり、ここからは望遠鏡で状況を見ている。
「始まったわね」
アリシアは双眼鏡でウィリアムバーグ橋のほうを見ながら呟いた。
距離はそうないが、このあたりはNYの中心街で、高いビルが多く、よく見えない。だが凄まじい銃声はここまで聞こえている。
「こんなに激しい銃撃は初めてよ」
「3000発は撃ったな。普通の定期的な襲撃なら、これで大体片付くんだがな」
祐次も銃声の方向を見ながら煙草を咥えた。
定期的な襲撃ならば、精々2000から3000。これで決着がついている。
だが今回はその50倍だ。桁が違う。
「もう後戻りはできない。ちゃんとこっちに来てくれればいいが、NYの問題は道と路地が多いことだ。北は水浸しとバリケードで封じたが、他は完璧じゃない。大通りはバリケードを作ったが、西側に雪崩れ込まれたら最悪のゲリラ戦だ。ま、完璧じゃないが対策は取ったし、1/3はFDRドライブ・ルートを進んできてくれれば、そいつらに引き寄せられて北上するはずだ」
「FDRドライブ・ルートは一回左折させるだけだしね」
「後は皆がビビらない事を祈るだけだ」
祐次は咥えた煙草に火をつけた。今は報告を待つしかない。
まだ銃声は遠い。これが段々近づいてくる。そしてセントラル駅に集中したときが、この作戦の執念場となる。
その時だ。JOLJUのスマホが鳴った。
「電話?」
祐次がJOLJUを見る。JOLJUは驚くことなくスマホを取った。
電話に出たJOLJUは、聞いた事のない言葉で何か喋っている。それで相手が誰か理解した。むろん電話ではなく別の通信機からだ。JOLJUのスマホは万能でどんな機器でも受信できる。
電話は15秒ほどで終わった。
「祐次、ちょっといいかだJO?」
「どこにいくんだ?」
「下の階だJO。お客さんだJO」
「…………」
祐次はアリシアと街のほうを一瞥する。すぐに何か異変は起きないだろう。今は離れても大丈夫だ。
祐次はアリシアに「5分で戻る」と言い、JOLJUと共に屋上の出口に向かった。
階段を降りてすぐのフロアーで、その客は待っていた。
ド・ドルトオだ。いや、今外見は地球人に化けているから、ロイ=ブレッドと呼ぶべきか。
ド・ドルトオは、笑みを浮かべながら二人に近づく。手には小さな布袋があった。
「間に合ってよかった」
ド・ドルトオは笑みを浮かべる。
「用があったのはJOLJUにだが、地球人の力も必要でね。君にも来てもらった」
「作戦遂行中だ。ここは危険だぞ?」
「分かっている。だからさっさと済ませよう」
そういうとド・ドルトオはJOLJUに布袋をJOLJUに手渡した。
「先日セントラル駅とその周囲を崩壊させるべくトリメチレントリニトロアミン主成分の爆薬とペンスリット主成分爆薬をフォーファードで量産して設置した」
C4爆薬とセムテックス爆薬の事だ。どちらも地球では一般的な化学爆薬だ。
「この後やってくる凶暴期の大襲来にも使用すると思って大量に生産し、渡した。そして先日私たちも設置に協力したのだが、計算してみたところ、作戦遂行ギリギリの量で、駅や周囲のビルは私が思っていたより頑丈だと感じた。完全破壊には至らないかもしれない」
「追加の爆薬か?」
「失敗されては私たちも困る。特別製だ。使うのは、君とJOLJUだけに許可する」
そういうと、ド・ドルトオは会釈をすると、背を向け立ち去っていく。
布袋を開けたJOLJUが、一瞬「あっ」と、驚いた。
出てきたのは、ソフトボール大の金属の球だ。3つある。
「うわぁー……<ケリン・レザド>だJO」
「何だそれ? 爆弾か?」
「<ケリン・レザド>。地球にはないものだから適切な翻訳語がないんだけど……ええっとね……んんっとね……反物質光子爆弾……といったらいいのかしら? あ、<スタートレック>の光子魚雷が近いかもしんない」
「おい。ちょっと待て。反物質爆弾!?」
祐次も『スタートレック』のファンだ。そもそも『スタートレック』をJOLJUに薦めたのは祐次である。そして反物質光子爆弾となれば、宇宙船を一発で破壊する強力な威力を持つ宇宙用の爆弾だ。反物質ということは理論的には無限大に近い威力を持ち、核反応より威力は大きい。
「そんなもの使ったら、マンハッタンが丸ごとなくなるんじゃないのか!?」
「これ、多分ク・プリの避難船の非常用武器だJO。いったら護身用レベルだけど……あー……うん、確かに……これ一発でマンハッタン島は消滅するJO」
つまりほとんど核爆弾に等しい威力だ。宇宙戦争用だと考えれば当然だ。
「作戦が失敗した時は、これで自爆して全て排除しろっていう事か?」
「それはないJO。ALに光子爆発効かないもん。吹っ飛んだガレキに当たれば死ぬけど、爆発直接では死なないから全滅しない。それはク・プリアンたちはよく知っている」
「じゃあコレをどうしろって?」
「まぁ、爆弾が足りないときは使えってことだろうだけど……他になかったからコレ持ってきたんだろうなぁ~……というか、明らかにオイラにぶん投げた。無責任だJO」
ちょっとJOLJUは不愉快そうに顔を顰めた。
祐次もド・ドルトオの考えが分かった。
連中も30世紀の神の科学者の肩に放り投げたのだ。JOLJUならいいように改良して運用する、と勝手に任せたのだ。相手は未熟で未発達な地球人ではなく、自分たちより遥かに高度な科学と高い知能を持つ超生命体だ。
「使えるのか、それ」
「反物質爆弾だから爆薬と違って反物資の対消滅比率を調整すれば威力を下げる事はできるJO。そしてそれってかなり高度な科学で、多分24世紀くらいの科学と施設が必要なんだけど……オイラなら、調整ここでも出来るJO。そんなに時間はかかんない。原理知っているとオイラなら調整は簡単なんだJO」
30世紀の神はレベルが違う。こういう科学技術を弄る事にかけては、JOLJUの右に出るものは居ない。JOLJU的には、反則的な能力を使うわけではなく、飽くまで知力だけを使うことだから、そこまでルール違反ではない、と思っているのかもしれない。
「頑張れ」
「分かった、やるJO! 最低レベルまで威力落とすしかないか……もぉー! これもある意味反則だJO! 起爆装置もないから、速攻でオイラが作らないと駄目じゃん」
……反則だろうな……だから俺とJOLJUだけに教えるわけだ……。
しかし連中もJOLJUがどんな奴かよく分かっている。このタイミングで持ってきたら、JOLJUも突き返さないし、地球人の親友のため、すぐに改良を始めて使えるようにする……ということを見越しているのだ。JOLJUはク・プリアンに対しては普通程度の親切だが、地球人の祐次やエダのためなら特別親切で、平気でルール違反する奴だ。まぁ、そのくらいはちょっとJOLJUを知れば誰でも行動が予測できるくらい分かりやすい奴だが。
この会話に祐次を巻き込んだのは、JOLJUが作業する口実を与えるためだろう。祐次がいい、といえばJOLJUもやりやすい。
「ちょっと突貫でやるJO! 確かにオイラもちょっと爆薬少ないかなーって不安はあったんだJO。間に合うよう急ぐJO」
JOLJUの計算でも、使うかもしれないと判断したようだ。
そういうとJOLJUはリュックからラックトップを取り出し、その場で作業を始めた。
「俺は上にいる」
「へいへいほーだJO」
ここにいてJOLJUを見ていても手伝える事はない。
祐次には祐次の仕事がある。
「秘密の超兵器」でした。
祐次とJOLJU、なんと光子爆弾ゲットです!
JOLJUがいなければ使えないモノですし、周りに知られるわけには行きませんが、とにかくも一応これで祐次とJOLJUは、いってみれば放射能の出ない戦術核を三つ手に入れたも同然!
しかし本編で言っているとおり、爆発の熱ではALは死にません。爆発の規模ほどダメージは与えられません。
ちなみにJOLJUは何もみなくても戦略核兵器を解体してしまう奴なので、兵器を改良するくらいなんてことありません。
さて、次回から「ロングアイランド殲滅作戦」本格突入です!
四章もクライマックス突入!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




