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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第一章・エダ編
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「加速する惨劇」

「加速する惨劇」


トビィ戻る。

そしてキャンプ場からの脱出。

脅威はすぐ近くまで来ていた。危機一髪だった。

町に戻る一行だったが、そこはALが充満していた。

そしてついにタイプ3が姿を現す。

***




 不安と恐怖で押しつぶされそうな重い雰囲気のまま、陽が暮れようとしている。


 トビィはまだ帰ってこない。


 そして雨は徐々に弱くなっている。


 子供たちの緊張と不安はもうMAXだ。


 様子を見に行く案が浮かび、バーニィーとカイルで用意をしていた時だ。車のエンジン音が聞こえ、全員が騒然となった。


 車は間違いなく、このログハウスを目指している。


「バスの音じゃねぇーか?」

 と、カイルが玄関から体を乗り出す。その後ろにバーニィーもいる。


 彼らの目に、まっすぐこっちに向かってくるスクールバスが見えた。



「トビィ!?」


 スクールバスを運転しているのはトビィだった。

 スクールバスは多少フラつきながら、B棟前20mのところに停車した。


 トビィは出て行ったときと違うミリタリー柄の防水上着を着ていた。そして肩には自動小銃のAR15セミオートがあった。


「皆、乗れ!」

「えっ!?」

「いいから皆乗れ! 今のうちだ! 早く!!」


 突然のことに全員戸惑う。だがトビィの鬼気迫る表情でしきりに周囲を警戒している。


「行こう」


 バーニィーは頷くと周囲を一度見回してからバスに向かって走った。

 それを見てフィリップも決断した。全員バスに乗るように命じる。

 ジェシカも、小さいクレメンタインの手を取り駆け出した。その後をエダが続く。


「…………」


 エダは一度だけ振り向き、無線機を見た。


 ……ユウジさんと連絡は取れなくなる……。



 だが振り切り、そのままバスに向かった。


 バスはエンジンをかけたままだ。


 フィリップが乗り込むなり、トビィはフィリップに運転を頼んだ。


「大型車の免許は持っていない!」

「俺は無免許でここまで来た。無免許の人間に夜間走行させる気か?」

 そういうとトビィはバスの後ろに積んである荷物を指差した。

「あっちの扱いのほうが得意ならあっちでもいいんだぜ?」


 そこにあったのは銃だ。ショットガン2丁、ライフル1丁、9ミリと357マグナムの拳銃が2丁だ。弾もある。

 フィリップはそれを見て、黙って運転席に座った。


 トビィはバーニィー、カイルにショットガンを手渡し、ライアンにライフルを渡す。デービットとマイルズはそれぞれ拳銃を手にした。これで12歳以上の子供は全員武装したことになる。


「全員伏せろ! フィル! 25マイルから30マイルで走行しろ! 事故ったら洒落にならない」

 

 スクールバスはすぐに時速25マイルになる。時速だと約40キロだから速くはないが、道は舗装されておらず広くもないからそれが精々の速度だ。


「銃を持っている奴は全員警戒しろ! そこらじゅういるが焦るな。襲ってきたら容赦なく撃て」


 突然の臨戦態勢だ。だが皆それに従う。


 バスが安定して走り出した。


 ジェシカがトビィのところに駆け寄る。


「どういう事? 説明してよ、トビィ!」

「あのままあそこに篭城したら、今夜のうちに俺たちは全滅だ」


 そういうと、トビィはジェシカの服を掴み、森の中を指差した。

 そこにあったのは、大きな黒いゼリーの塊だ。


 ジェシカの後ろで、エダもそれを確認した。



「あれはALの塊? ……だけど、湖のものより大きい?」



 確か湖に浮かんでいたのは直径7mほどだった。今は直径10mはある。

 もし7mのもので25体くらいだと仮定したとすれば、10mなら35体から40体になるかもしれない。


「あれ一つじゃない。他にもログハウスの周りに同じやつが3つはあった。しかもゆっくりだが、ログハウスに向かって動いてやがる」


「…………」


 それが事実なら、100体を超える。そんな数に襲われては、たとえ十分に銃弾があったとしても対処できない。今は雨だからあの状態なのだろう。雨が上がれば襲ってくる。


 これこそ、トビィがキャンプ場からの脱出を決断した理由だ。


「連中は俺たちに気づいた。多分、雨が上がると同時に襲い掛かってくる。いくら銃があったって防ぎきれない」


 祐次も言っていた。


 一度撃退すれば次は強くなって再襲撃してくる事。そして雨上がりも戦闘力が上がるという事。最終的には防戦ではなく逃げることになること。


「逃げるとしたら、雨が降っている今……?」とエダ。

「町のほうの連中はまだ俺たちを認識してない。まだ望みはある。少なくとも、ユウジさんは生き残っているからな」

「ここを離れてどうするの?」

「学校か病院か保安官事務所か……どこか安全な場所に逃げ込む。ユウジさんが優秀ならきっと見つけてくれる」


 そういうとトビィは後部座席から大きなスケッチブックとマジックを持ってきた。

 それを見てエダはトビィの意図が分かった。


 森の入り口にキャンプ場への案内看板がある。土地勘のない祐次は絶対確認するだろう。そこに張り紙をしておけば行き違いを防げる。


 エダは頷き、スケッチブックとマジックを持って座席に移った。



「状況は分かったけど……この銃はどうしたの?」とジェシカが尋ねる。

「ウチから取ってきた。全部我が家の護身用さ」

「さすが保安官助手の家」


 米国は銃社会だが、全ての家の銃があるわけではない。西部や南部と違い東海岸の田舎町は平和で銃のない家も多く、あったとしても狩猟目的が多い。トビィの家だって保安官の家にしては少ないほうだ。


 平時なら銃を見ると眉を顰めるほうだが、今は別だ。これほど頼もしいアイテムはない。



 と……ジェシカは重要な事に気がついた。



 トビィが自宅に戻ったということは、近所である自分の家やエダの家は見てきたはずだ。



 だがトビィからは何も言っていない。


「あの……さ? 私の家やエダの家はどうだった?」

「誰も居なかった」


 その言葉に、一気に表情が固まるジェシカ。

 トビィはジェシカの手にあるスタームルガーSP101を取り、ポケットから1発取り出し装填する。そしてフル装填にしてジェシカの手に握らせた。



「いなかった?」

「誰もいなかった。エダのところも」


「……いなかった……?」


「死体もない。だけど……いなくなってから二、三ヶ月は経っているみたいだった。町もそうだ。どこにも人はいなかった。ところどころ町は壊れていたけど、あれが地震のせいなのかエイリアンの襲撃なのか、それは分からない」


「…………」


 話づらいことだ。トビィも気を紛らわせるためか、腰のホルスターに入れたコルト・キングコブラを取り出し、弾を一度抜いて確認するとゆっくりと詰め直す。


「町全員が消えたみたいだ。忽然と。でも……生存者は俺たちだけじゃなかった」

「え?」

「途中、バリケードで閉ざされたダイナーがあった。バーミント通りの<ブリッジス・ランチ・ショップ>だ。その隣のジョースターさんの雑貨屋は酷く荒らされていて、その二軒だけはパニック状態さ。でも静かだった」


「…………」


 トビィは銃をホルスターに戻し、大きく息を吸った。


「中で四人死んでいた。町の誰かは分からない。余所者かもしれない。半分白骨化して、どう見ても死後二ヶ月くらいは経過している風に思った。三人は多分ALに切り刻まれて死んだ。一人は銃で自殺していた。自殺した人だけは切り刻まれていなかった」

「ちょっと待って? 私たち二日でしょ?」

「分からねぇー。でも、ユウジさんは半年以上だと言っている。俺たちは気絶したんじゃなくて時間を跳んだ、とも言っていた。本当は、俺たちはあの大地震の夜、気を失って……翌日目覚めたんじゃなくて……」


「もっと……長い間寝ていたって事?」


「分からねぇ! ただ……ユウジさんは時間の跳躍に疑問を抱いてなかった。<80日間世界一周の旅>じゃねぇーけど、ユウジさんが西回りに地球を半周してきたのが本当なら、半年くらいはかかる。だから世界中で何が起きたかあの人は知っている」


「…………」


 気の遠くなるような感覚をジェシカは覚えた。もう頭では理解できない出来事が身の回りで起きている。



「良い方に考えれば……大地震は世界中で起きた。ここまでは事実だ。生き残った人たち……俺やお前やエダの家族は、なんらかの理由で町に住めなくなり集団でどこかに避難した。軍が連れて行ったのかもしれないし、大統領が戒厳令を出したのかもしれない。そして……どこかに避難した。空母とかどうか安全な土地か島か。俺たちは時間を飛んだからその時のことを知らないし、町の皆も俺たちが生きていることを知らない。俺たちは運悪く取り残されただけだ」



 そこまで言って、トビィは肩を落とした。



「悪く考えれば……そして……まとめて人類は滅んだ」


「…………」


「ぶっ飛んでいるけど、これなら一応話は繋がる。ユウジさんが<世界は滅んだ>っていう言葉も理解できる。あの人は少なくとも人類が大量に消滅した理由を知っている」


「なんでそんなことが分かるの?」


「それくらい生存している人類が珍しくなきゃ、大西洋を旅している日本語しか喋れない日本人が見ず知らずの田舎の子供ばかりの俺たちを助けに来ようだなんて冒険しねぇーよ。もし政府や軍がまだ存在しているなら、ユウジさんが軍に救援依頼を出して終わりだ。あの人が来なきゃいけない理由はない」


 大西洋上からロンドベルまでかなり距離がある。

 たかが100km程度……それは普通の世界の話だ。あのエイリアンだらけで危険だらけの世界では、危険が大きすぎる距離だ。

 それでも「助ける」ということは……それだけ生き残った人類は少なく貴重だからだ。


「政府も軍も、国もなくなったから……ユウジさんが来る?」


 なんと凄まじい話だろう。信じるには突飛すぎるし、全然科学的じゃない。


 だが、少なくとも今の現状を整合させれば、そういう話になる。


 ただエイリアンが襲来した、というだけではない。


 すでに人類は敗北した。どういう偶然か自分たちはその事を知らず時間だけが経過した。そして目が覚めた。世界がほとんど滅んだ後に。


「どこかのクソッタレが俺たちを騙してるドッキリ……だったら、よかったのにな」


 トビィは自虐的に笑う。全然声は笑っていなかったが、確かに笑うしか仕様のない状況かもしれない。


「誰にもいうな。俺の勝手な妄想だから」

「…………」


 トビィはそう言ってジェシカの肩を叩き、バスの前方に移動した。陽がさらに沈み、森に包まれた道はもうかなり暗い。バスのライトが点灯し、道を照らし始めた。


 ジェシカはしばらく無言だった。


何を発しろというのか。トビィの想像を否定し、世界の無事を信じればいいのか。


 しかし、ジェシカの豊富な想像力を持ってしても、トビィの仮説を否定する要素を見出すことはできなかった。





 つまり……自分たちは今、絶望の只中にいるという事ではないか。





***





 バスは森を抜けた。

 雨は止んだ。


 森を抜ければ、地図上ではロンドベルの町となる。。


 森の入り口、そしてそこから1キロほどのところにある看板に、エダの書いた祐次への日本語のメッセージが貼り付けられた。




 <町に行きます。場所は学校か病院か保安官事務所>

 <生存者12人。大人は一人、後は子供ばかりです>



 夜で張り紙に気づかないかもしれないと思い、張り紙の下に懐中電灯を点けっぱなしにして置いて来た。他に明かりもないから目立つだろう。



「どこに向かうんだ? トビィ」



 フィリップは周囲を警戒しながら言った。


 まだロンドベルに入ったばかりでほとんど森だ。だが10分も走れば市街エリアに入る。


 時々ALの姿を見ることはあるが、まだそれほど熱心に襲ってはこない。バスに気づいて駆け出すALもいるが、すぐに走るのをやめる。まだそれほど戦闘モードではないのだ。


「保安官事務所は町のイーストエリアだ。距離があるし居住性はよくないが強固だ」

「いや、学校がいい。ベッドもあるし非常用の食料も水もある」

「しかし学校から病院は遠いぜ?」


 学校は町のセンターエリアで、病院はイーストエリアだ。


「学校に行く。今晩は皆を落ち着かせて休ませたい」

「教師らしいこともいうんだな、アンタ。いいよ、学校で。アンタが引率の責任者だし、これは学校行事だからな」


「…………」


 トヒィは笑いもせず後部座席のほうに向かう。それをフィリップは面白くなさそうに睨んだ。


 ここ数日……リーダーは完全にトビィだ。フィリップにはほとんど面目がない。それを一番敏感に感じ取っているのは子供たちだ。皆が頼ったのはトビィでフィリップではない。トビィは決断力があり判断力もあり、アウトドアや銃にも詳しい。普段からトビィは人気者で人望があった。一方フィリップは着任2年目の英語教師でまだ若く子供たちとのコミュニケーションが完璧に築けているわけではない。このキャンプで生徒たちと馴染もうとした、矢先の事件だ。歳はトビィより11歳も上だが、二人の力関係は実質逆転してしまっている。



 当初は和を乱すことを恐れ、トビィはフィリップを立ててきた。



 だが世界がこうなった以上、<教師だから>という理由で支持はできない。



 この男が無線機を壊したとき……トビィは彼を支持することを止めた。



 どうせユウジさんが来たら、彼が率いてくれる。

 それまで皆がまとまるだけの役目をしてくれたらいい。

 だから正直のところ、トビィは学校には行きたくなかった。学校に行けば<教師>が権威を帯びる。本来の教師と生徒、大人と子供の関係を嫌でも意識する。だが良案もない。


 バスは市街中心部に入った。


「学校まで後2マイルだ」


 だが、そうは上手く事は進まない。

 中央通りに入ったとき、それはあった。



「……嘘だろ……」



 暗闇に淡く光る無数の赤い眼が蠢く。それがライトに照らされたとき、思わずフィリップはその数に圧倒されブレーキを踏んだ。


 凡そ、120体ほどのALが、そこにはいた。


 タイプ1だけではない。2.5mほどもあるオオトカゲを二足歩行にしたようなタイプ2も4体いる。


 連中は、群れて徘徊していただけだったが、突然現れたバスに一斉に気づいた。

 無数の赤い眼が、バスに集中する。

 バスのほうでもそれに気づいた。小さな悲鳴が至る所で上がる。


「バックしろ!!」


 バスの前方にいたバーニィーが叫ぶ。

 バスは急停車後、すぐに後ろに急発進した。

 しかし後ろにもALは現れている。

 バスがALをなぎ倒す。構わずALは群がり襲い掛かってきた。

 幾重ものALの奇声が鳴り響いた。


「振り払え!!」

「やっているよ!」


 フィリップも必死にハンドルを握る。だがALはそこらじゅうにいる。どこに逃げても奴らはバスへ体当たりを続ける。


 バスは小さな路地に入り、町の北にあるもう大通りを目指した。


 1kmほど走ったとき、ようやくALの姿が消えた。


「なんて奴らだ。大分轢き殺したのに」


 突撃してきた数は分からない。沢山だ。バスにぶつかり、タイヤで轢かれ何体も破裂して死んだ。だが連中は一切怯むことはなかった。自分たちの死などまったく恐れていない。


 車体の揺れが酷い。どうやら後輪の一つがパンクしたらしい。恐らくALを轢き殺したとき散った酸の血で穴が開いたのだろう。揺れはひどいがすぐに止まるわけではない。だがもう速度は出せない。


「学校までまだ1マイルはある! 走れるのか!?」

「無理だ! あんなにエイリアンがいてはどこにもいけない!!」

「教会は!? ウェスター教会は近いけど!?」とジェシカが叫ぶ。


 教会はここから300mほど。普通の家よりは頑丈だ。


 その時だ。


 バスの後部座席で、恐怖に震える最年少10歳のクレメンタイン=レッグスは、ソレを見た。




「Tレックス……」



 全員が、その呟きを聞いた。


 その時だ。

 強力な横からの衝撃がバスを襲った。


 そこにヤツは現れた。


 

 全長約6m。

 巨大な頭と尻尾、そして巨大な爪を持つ黒緑の体を持つ化物……。



 ALタイプ3だ。


 ついにこの町にタイプ3が出現した。

「加速する惨劇」でした。



はい。犯人は教師のフィリップでした。

なんとなく挙動が怪しかったりエダに馴れ馴れしい男だったわけですが。

それを言えば他の子供たちが騒ぐのでトビィとジェシカは黙ったわけです。

町に戻ってきましたが、町はALだらけです。祐次がそもそも町のほうが多いといっていた通りなわけです。

ついに戦闘は避けられない状況になりました。もう安全な場所はありません。

エダやトビィたちはどうなるのか……これからは完全ハード・サバイバル・モードです。

そしてついにタイプ3登場です!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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