「伝言3」
「伝言3」
姜の部屋を訪ねた拓。
拓の話を聞く姜。
ついに彼女も<京都>にいくことに。
これで拓たちの次の目的地は決まった!
***
拓は、そっと姜の手からウイスキーのボトルを奪った。
「これは俺の身勝手な……無責任な発言だけど……」
拓は喋りだした。
「もし、本当に核戦争が起きていて、多くの朝鮮人が難民で日本に来ているのなら、きっと朝鮮人たちは肩身の狭い思いをしているし、不安な生活をしていると思う。ただでさえ世界が崩壊したのに、祖国が消滅して帰れないんだ。きっと俺たちじゃあ分からないほど、辛いと思う。俺たちだって他人事じゃない。同じように核戦争に巻き込まれていた可能性だってあったんだ。そしたら日本を捨ててどこか新天地を目指して過酷な生活をしていたと思う」
「…………」
「誰かが、リーダーになって導けば……心強いんじゃないかな?」
姜はようやく、拓が何を言いたいかが分かった。
「私にそれをやれというのか?」
「アンタは強いし、立派な軍人だし、俺たちと知り合う事で日本とのパイプもできた。レ・ギレタルやJOLJUも知って、この世界の事も他の人間より理解している。リーダーになれるんじゃないかな?」
「無理だ」
「できるよ。幸い今日本には1万人ちょっとしかいないから、住む場所はいくらでもあるし、日本で準備をして、何年かすれば、朝鮮半島に戻って復興事業ができるかもしれない。核戦争の被害が小さければ、もっと早く帰れるかもしれない。希望はあるよ」
「……希望……?」
「俺もまだ世界に希望があると思うから、米国を目指す。でも、ちゃんと日本政府に橋渡しはする。アンタも希望を持つべきだ」
拓はそういうと苦笑する。我ながら臭い台詞だ、と恥ずかしくなり、ワインをラッパ飲みした。
すると、姜がそのワインボトルを横から掻っ攫った。
「人から酒を奪って、自分が酒を飲むとは、いい度胸だ」
姜は喉を鳴らしてワインを飲み干すと、ボトルを拓に返し、立ち上がった。酔いのため、少し足元がふらついているが、ゆっくりと部屋を出て行く。
「姜」
「いいだろう。<京都>にいってやろう。確かに情報は必要だ」
そういうと姜は歩き出した。
拓は立ち上がる。
「どこに行くんだ? 飲みすぎだよ、ついていく」
「……お前のそういうところは嫌いだ……」
姜は少し恥ずかしそうに拓を睨み、廊下を歩き、トイレに入っていった。一日近くトイレにいっていなかったのだから、当然だ。
拓は頭を掻くと、ウイスキーとワインボトルを握り、立ち上がってリビングに向かった。
そしてリビングで待っていた仲間たちを見渡して、言った。
「俺たちは<京都>に行く。姜も一緒だ。何があるか分からないが、悪い事は起きないだろう。それに地理は心配いらない。俺、大阪京都は詳しいから」
「いいんじゃね? こんな遠方まで伝言させといて、知らん振りしたってバレたら後が怖ぇーもんな。それにあそこ、食い物旨いし」と時宗。
「どうせなら金閣寺とか清水寺とか色々見物できるわね」と優美。
「私も京都、一度行ってみたかった」とレンも声を弾ませる。
「僕は留守番でいいや。ゆっくり読書もしたいし、船の管理もいるし」と、啓吾は留守番を申し出た。
「僕も残ります。杏奈もいますし、薬だけお願いできればそれでいいです」と、篤志も留守番。
これで決まりだ。
行くのは拓、時宗、姜、優美、レンの五人ということになった。車一台に乗る人数で丁度いい。
「じゃあ、啓吾にコレやるわ。岩国基地の戦利品だぜ」
時宗はズボンの背中に押し込んでいた一丁の拳銃を取り出した。
ラバーグリップ付きのS&W M686・4インチだ。時宗が海兵隊員の個人ロッカーの中から見つけた拳銃だ。私物として持ち込まれたものだろう。武器庫は取り尽くされていたが、個人ロッカーまでは回収されていなかった。米軍兵士の中には、こういう私物の拳銃をセカンドガンとして持ち込む者もいる。S&WM686は、昔海兵隊の特殊作戦用の装備として制式されていたこともある。潜水して接近し行う近接接近用として使われていたのだ。その時代の名残かもしれないし、単に私物だったのかもしれない。
「僕、あまり重たい銃好きじゃないんだけどね」
「お前だけだぜ? 未だに5連発のチーフ・スペシャルしか持ってねぇーの。大体銃はどれも平均1kgだっつーの。重いってのは祐次のDEみたいなの。アレ、1.8kgあるんだぜ? それに比べりゃあ軽いつーの」
他は皆多弾数オートか6発リボルバーで、主に活動する拓、時宗、姜、優美は、常に二丁持っている。
「重いの嫌じゃん」
「5発なんて、ALに囲まれたらどうするんだよ」
「僕が5体以上のALに囲まれたら、どうにもならないよ。僕弱いんだから。戦わなきゃいけないときはSMGを持つし」
「啓吾。性能のいいリボルバーを手に入れる機会は滅多にないから、貰っておけよ。それに二丁持つの、慣れたほうがいいって。お前、オートマチック苦手なんだから」
オートマチックとリボルバーは反動の伝わり方が違う。オートマチックのほうが緩やかだが、ちゃんと握っていないとジャムを起こしたり、狙ったところに当たらなかったり、使用する弾頭重量によって微妙に反動も変わるから、元々銃に慣れてない日本人の中にはオートマチックよりリボルバーを使いたがる人間が多い。ヒーロー・アイテムとしてパイソンを愛用している時宗は違うが、優美も愛用銃の一番目にコルト・ローマン4インチを使っているのはその口で、使いやすいからだ。
「拓がそういうなら、もらっとくかな。ちょっとかっこいい銃だし」
不承不承、啓吾は受け取った。
時宗はちょっと面白くなかった。日本でS&WM686が手に入るなんて稀有なことだ。いい銃なんだから喜べ。そして、ちょっと優美が羨ましそうに見ていた。
日本では38口径を基本装備にしている人間が多い。日本政府が唯一生産している拳銃弾だ。ショットガンの12Gも作っているが、38口径ほど汎用ではない。
ちなみに時宗は、もう一丁、こっそり拳銃を手に入れていた。9ミリショートのワルサーPPKだ。こっちは完全に私物だろう。メジャーな銃だし小さいので、バックアップ用としてベルトに突っ込んでいる。
「俺もどっかで日本用に38口径を手に入れようかな」
拓も呟く。当分日本での活動だ。
9ミリ弾は生産していないし、襲撃ではない日常遭遇くらいなら15連発のベレッタでなくてもいい。それにオートマチックだと薬莢の再利用と回収はできないが、リボルバーは使い終わった薬莢を簡単に回収できて再利用に回される。
「今度見つけたら拓にやるよ」
時宗は笑う。本当調達にかけてはピカイチの腕だ。何せ日本でコルト・パイソンなんていうレア・アイテムを見つけ出したような男だ。
「じゃあ、次の目的地は<京都>だ。明日には大阪湾! 今晩は気にせず飯腹いっぱい食べて、ぐっすり寝よう」
「二日連続宴会?」
「気にすんな優美。<京都>にいきゃあ食料はいくらでも手に入るじゃん」
「私、今回の騒動でポイントカード、どこかにいっちゃったんだよね」と嘆く優美。
「俺、持っているよ」と拓。
「俺も持ってるぜ」と時宗。
「僕も持ってるわ」と啓吾。
「何それ! アンタたち意外に抜け目ないのね」
ポイントカードは、日本政府ないで使う通貨代わりのカードだ。これで買い物をしたり労働の報酬をもらったりする。
「心配いらないよ。今回銃と弾薬をたっぷり手に入れたから、これを換金すれば生活に困らない程度のポイントにはなるはずだし」
「はーい」
「じゃあ、いいな、皆」
拓は全員を見回して、高らかに宣言した。
「次の目的地は<京都>だ!」
拓たちの旅は、祖国日本に移った。
しかしここが旅のゴール地点ではない。
マイナスから始まった旅が、ようやくゼロ地点に戻ろうとしている。
そして、前途には、まだいくつも困難が待ち受けている。
「伝言3」でした。
次の目的地は京都!!
まさに東に向かう旅行記ですね。
さて、京都には何が……というか、それは分かっています。ユイナちゃんが待っています。これで拓たちとユイナちゃんの接触編となるわけです。
実はこれで第四章拓編、終わりです。
しかも第四章は、二章三章のように最後にもう一度拓編、はなく、この後はエダ編のみになります。そしてエダ編は初のALに対する反抗作戦スタートです!
気まずくなったエダと祐次の関係は!?
そして寿命が尽きようとしているアリシアの命運は!?
第四章は祐次とJOLJUがメインです。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




