「伝言2」
「伝言2」
<京都>に寄れ。
その伝言の意味を諮りかねる拓たち。
そもそもどうして自分たちを事を伊崎は知ったのだろう?
結論が出ないが、悪いことではない……と思う。
そして姜の問題が……。
***
一旦<アビゲイル号>は出航し、穏やかな湾内でエンジンを止めた。
港につけているとALの襲撃の危険がある。どこか適当な民家に転がり込むことも考えたが、荷物を運んだり安全を確保するのに時間がかかる。
結局<アビゲイル号>にいることが一番安全で快適で手間がない。
会議には、レン、篤志、レ・ギレタルも同席した。
まずは現状を整理した。
どういうルートか分からないが、東京の防衛大臣であり自分たちの上司である伊崎が、自分たちが生きていて日本に向かっていることを知った。
しかも何故か生存者を的確に知っていた。しかし姜やレンや篤志やレ・ギレタルの事は触れられていない。
おおよそではあるが、拓たちが日本領内に戻る時期を知っていたし、岩国に寄ることも知っていた。
そして<京都>に寄れ、という。
「さっぱりわからねぇーな。誰か伊崎さんにメールでも送ったか?」と時宗。
「電話もメールも、ついでに手紙も不通よ」と優美。
「実は僕たち以外に第六班、第八班の生存者がいて、一足先に東京に帰った……とか?」と啓吾。
「横浜のとき、思い出してみろよ? それなら、あの爆発の時俺たちと一緒にいないと生きている面子までは分からない。百歩譲って誰か生きていたとして、さらにたまたま生存者が誰か分かっていたとして……それなら祐次も入れるだろ? 祐次は抜けているんだよ」
あのデッキ以外に生き残っているとすれば、下で防戦していた第六班……つまり祐次の班だ。むしろ拓たち第八班の生存者の面子が分からない。
「もっと簡単なんじゃないですか? 祐次さんかJOLJUが報せたんじゃないですか?」
と篤志。
「クロベはともかく、何かのきっかけでJOLJUだけ一旦東京に立ち寄って伝言を残した、という可能性はありえますよ? 先週転送でやってきた帰りに、転送で立ち寄ったのかもしれません」
とレ・ギレタル。JOLJUだけは何をやっても驚かない。
正直それが一番可能性があるのだが、それでもおかしい点がある。JOLJUが関与していたのなら、篤志と杏奈の事も言った筈だし、JOLJUなら杏奈の事も言って薬を用意させるだろう。他のものは揃ったが、杏奈の薬だけは余分がないし、これだけは拓たちも適当には持ってこれない。
この件に関しては、意見が色々出たが、当たっていそうな結論は出なかった。
それはいい。伊崎に会い、本人に聞けば分かることだ。
どうして拓たちが帰ってくる時期まで分かったのか、そこも分からないが、今考えても分からないので、これも伊崎に聞くしかないだろう。
どうせ戻れば伊崎には会いに行く予定だ。
「分かる事は<岩国>と<京都>だけか。岩国は伊崎さんが当てたんだろうけど」
拓は頭を掻く。
「俺たちが岩国に寄ることが、か?」
「小さいけど米軍基地があるからな。俺たちは皆調達班だし、米軍基地や自衛隊基地があれば寄ると思ったんだろう。特に岩国基地は海に近いから、海路を進んだのなら立ち寄りやすい。この先に広島の呉があるけど、あそこは海上自衛隊基地で、武器弾薬はそんなにないと思う。もっとも、シリ貧だったら呉にも寄ったけど」
「置手紙と伝言の謎は、まぁいいとしてよ。<京都>、どうすんの?」
燃料は今日この岩国で補給できた。近畿の京都まではそう遠くないが、京都は内陸だ。この<アビゲイル号>では、そこまで行けないから大阪で陸路を取ることになる。しかし 東京を目指すのであれば、そんな寄り道はせず、そのまま東京を目指すほうがいい。<アビゲイル号>でも四日ほどで到着するはずだ。
近畿は<京都>の勢力圏内で、比較的ALの脅威は少ないだろうが、とんだ寄り道になる。
「杏奈の薬が手に入るのであれば、僕は構いません。<京都>は整ったところなんでしょう?」
「私も構わない。宇宙の旅に比べれば、大したことではない。それに、こうやって地球を色々見てまわるのは楽しい」
篤志とレ・ギレタルは判断を拓に預けた。
「私もどっちでもいいわ。<京都>、行った事ないし」と優美。
「僕もどっちでもいいよ」と啓吾。
「俺<京都>行った事あるから珍しくねぇーけど、なんか修学旅行だな」と時宗。
「<京都>……なぁ……」と拓だけは複雑な顔をする。
「何、拓。京都嫌いなの?」
「そうじゃないんだけど……ま、俺も行くのはいいんだけど」
そう答えた拓は、ふとある事を思い出した。
「皆、ちょっと待っていてくれ」
拓は手で皆を制し、キッチンのテーブルに置いてあったワインボトルを掴み、奥の寝室に向かった。
そして、ドアを三回叩き、「俺だよ」と声をかけてから、中に入った。
そこは女子組の寝室だ。
中では、姜が虚ろな表情を浮かべてベッドに座っていた。そして手には、半分以上減ったウイスキーの大瓶があり、部屋はアルコールの匂いが充満していた。
拓は黙って姜の横に座った。
「私は祖国に帰る」
ぼそり、と姜は言った。その声に生気はなかった。
拓はワインの蓋を開け、瓶に口をつけ、一口飲んだ。
「ああ。それが約束だったものな」
「死んでも、構わん」
気持ちは分かる。彼女はそういう人間だ。
「姜。実は提案があるんだが?」
「提案?」
「俺たちと、<京都>に行かないか?」
「……行ってどうする……?」
「<京都>には、朝鮮半島からの難民が集まっているらしい。そこで情報を集めてみたらどうだ? どうするかは、そこで決めればいいんじゃないかな?」
「…………」
姜は黙って手に持っていたウイスキーを一口呷った。
そして強いアルコールで思わず咳き込む姜。
二人……しばらく黙って座っていた。
「伝言2」でした。
まさかサ・ジリニが生きて教えていたとは気づいていない拓たちです。
そこまでサ・ジリニと仲がよかったわけではないですし。むしろ今では旅で一緒のレ・ギレタルのほうが拓たちにとっては仲のいいク・プリですし。ちなみにレ・ギレタルは航海士なのでサ・ジリニより身分が上だったりします。ついでにいうと彼女はク・プリ星人で地球人と年齢感覚は違いますが、大体地球人年齢だと35歳くらいです。
まぁ、流れ的には<京都>に行く流れです。行かない理由も特にないですし。
ということで<京都>の話……は実は第五章。
後は朝鮮問題を知った姜の去就だけです。
果たして彼女が選ぶ運命は!? で、これで四章拓編終わりです。……短い……(笑
次回、拓編ラスト!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




