「ホワイトハウス」
「ホワイトハウス」
ワシントンDC、ホワイトハウス。
祐次とJOLJUはそこを訪れていた。
そこでいくつか情報を得る。
しかし、やはり米国はALの数が多く、前途多難だ。
***
時間は午後18時13分。
「You know it's true. Everything I do. I do it for you.(君は知っている。それが真実だと。僕がすることはすべて君のためにしているのだと)」
祐次はしっかりと銃を構え、鼻歌を歌いながら進む。
まだ夕方だが、街には一つも明かりはなく、霧雨もあり薄暗い。
「Look into your heart.You will find.There's nothin' there to hide.(心の中を覗いて。君は見つけるだろう。何もない、隠すことなど)」
そこまで歌って止めた。
すると隣室から、ひどく間抜けで音痴な歌が聞こえた。
「You know it's true.Everything I do.I do it for you.(君は知っている。それが真実だと僕がすることはすべて君のためにしているのだと)」
その余りに酷い音痴に祐次は顔を顰めた。
ついでに一章節、飛ばしていきなりサビである。
ここはワシントンDCでもっとも有名な建物……ホワイトハウス内だ。
祐次とJOLJUが歌っていたのは1991年ブライアン・アダムスの『I Do It For You』だ。映画『ロビン・フット』の主題歌で有名な曲だが、JOLJUが歌うと何の曲かさっぱり分からなくなる。
別に楽しくて歌っているわけではない。これがALの探知方法の一つなのだ。歌に反応し物音がすればそこにALはいる。JOLJUはどういう仕組みかポテポテと歩くから音で聞き分けができる。
ホワイトハウスに侵入して大体15分。どうやら室内にALはいないようだ。
JOLJUの持っているALセンサーに反応はなかったからいないと思ってはいたが、念には念を入れて、だ。
祐次はステアーAUGに装着してあるライトを点けた。
「武器を探すぞ、JOLJU!」
「それより今記念撮影してるんだけど祐次もどうかだJO?」
仕方なく祐次は隣の部屋に行った。そこは大統領執務室だ。
その世界一有名な椅子に、JOLJUは座りスマホで記念撮影をしていた。
「祐次もどうだJO? 多分日本人でここに座るのはきっと祐次が初だJO!」
「異星人が座るのも初めてだろうよ」
大統領や米国政府関係者が見れば目玉が飛び出したことだろう。
しかしそれを見咎める者はいない。居てくれたらどれほど頼もしかったことか。
さすがに写真を撮るような軽率さは祐次にはなかったが、感慨深げに大統領執務机を撫でた。
世界で最強の国と軍隊を握る世界一のVIPは、もうこの世界では存在していないのだ。
もしかしたら米国政府の政治家か政府関係者が生き残っていてホワイトハウスを機能させているかもしれない……という淡い期待はあったが、どうやら無駄だったようだ。
もっとも、米国政府を充てにしてここに来たわけではない。武器を取りにきたのだ。
このホワイトハウスには軍やシークレットサービスが常時滞在し、トップクラスの武装を持っている。下手に警察署に行き探し回るより内容も効率もいい、と判断したからだ。
その企みは当たった。ホワイトハウス前の軍の詰め所で軍用の自動小銃とショットガン、各弾薬を手に入れた。しかし出来れば50口径のライフルや迫撃砲、爆薬など手に入れておきたい。
建物の地図はある。一般公開用のパンフレットを一般用玄関ホールで見つけた。
「とにかく武器だ。俺は屋上にいく。お前は地下を探せ。他に何か見つけたら連絡しろ」
祐次は携帯トランシーバーを左手に握り歩き出した。周波数はすでにセットアップしてある。
しかし簡単に屋上には出られなかった。電子ロックの類は機能していないし、さすがはホワイトハウス、建物は頑丈で、銃で撃ったくらいではビクともしない。結局祐次は居住エリアと政務エリアを回っただけで収穫はなかった。
10分ほどして、トランシーバーが鳴った。
指定された場所に行くと、JOLJUは大きな電子扉を開けて待っていた。
「電気も通っていないのによく開けたな」
「非常電源を見つけたJO。この手の設備は任せろだJO♪」
さすがに一応<神>にカウントされる宇宙旅行者で、以前からこういう電子系や機械系には強い。
地下はよく映画で描かれているような軍施設で、通称<バンカー>と呼ばれる非常用施設だ。JOLJUが電源を入れたので、モニターや計器は光っている。
ほとんど反応がないと思ったが、米国中部に一箇所、点滅しているポイントがあった。
詳しくは分からない。
が、なんとなく分かる気がする。
……これは今機能している米軍施設……か?
とすれば、米軍の一部……もしくは政府の生き残りが、今も活動しているのかもしれない。あいにくここからは遠くJOLJUの無線範囲外だ。
「ここの操作、分かるか?」
「時間をかければ分かるかもしんない」
腐ってもホワイトハウス……世界最高の軍事システムだ。JOLJUでも簡単に弄れるわけではない。
ここを起動させたことで先方もこっちの存在に気づいたかもしれない。
もし気づけば向こうから通信が入るかもしれない。こっちから連絡を試みてもいいが、日本人がホワイトハウス内のバンカーにいる説明をするのは面倒くさそうだ。
「今はいい。武器を探してかき集めてここを出よう。待機室や武器庫はあるはずだ」そう言ってから、ふと思い出し祐次はモニターを指差した。「モニターの写真は撮っておけ」と言い、そこを離れた。
別に米軍に用があるわけではない。今はロンドベルに向かうことが先決だ。
そのためには、まずここからまずフィラデルフィアに向かわなければならない。ロンドベルはさらにその向こうだ。
とはいえ夜間走行は危険が多い。本当はこのままここで情報を集めながら一泊としたいところだが、そんなゆとりはないかもしれない。
このホワイトハウスに来るまで相当な数のALを見た。戦闘には入らず逃げてやり過ごしたが、同レベルのALがフィラデルフィアにもいるとすればそこでも足止めを食らうだろう。予想していた以上に、米国の状況は厳しいようだ。
恐らく途中どこかで一泊することになるだろう。二人しかいないのだから、こんな馬鹿でかく目立つ街中の施設より、目が届く程度の大きさで大通りに面したモーテルやダイナーのようなところのほうが防衛しやすい。二人しかいないのだから、二人が寝起きできる部屋があればそれ以上は必要ない。
結局19時過ぎに祐次とJOLJUはある程度の量の武器と弾薬を入手し、ホワイトハウスを後にした。
「ホワイトハウス」でした。
今回は完全に祐次とJOLJUのターンです。
ホワイトハウスが無人という衝撃と、一つあった反応。
これは今回の第一章用というより今後の伏線ですね。後、一応ここで祐次たちはかなり武器を手に入れたという説明代わりです。ちょっと区切りがあってこの話数は短くなりました。
次はエダたちです。
時間は夜になろうとしています。
祐次がワシントンDCまで来ましたが、子供たちはもう限界に近いです。
どうなる!?
これからも「AL」をよろしくお願いします。




