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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第四章拓編+外伝伊崎・ユイナ編
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「滅亡3」

「滅亡3」



明らかになった朝鮮半島の現状。

証言は時宗だけではなく、レンや篤志、レ・ギレタルも。

姜の行動は!?

そして拓たちの次の目的地は?

***




「お前は何でそれを知っているんだ?」


 拓は冷静に時宗に問う。

 ニュースなんかないし、いくら核爆発でも日本からは見えないはずだ。


「四ヶ月くらい前かな? 医者が必要だって連絡があって、俺と祐次は<京都>に呼ばれたんだ。そこで、朝鮮からの難民が多数いて、韓国人の患者もいた。祐次の奴は英語が喋れるし、JOLJUは朝鮮語も喋れるから……診察で韓国人から聞いた。被爆治療もしたから間違いねぇー。で、俺はその話を祐次から聞いた」


「韓国からの難民?」と啓吾。

「だけじゃねぇー。北朝鮮からの難民もいた。俺が見たのは400人くらいだ。みんな船で日本に逃げてきた。それを<京都>が保護した」


「本当かも……ね」


 啓吾はため息をつく。

 もし朝鮮戦争が再び起きれば、ボート難民が日本に押し寄せるだろう、というシミュレーションがある。日本海はその気になれば漁船でも渡れる。


「<京都>はとっくにそのことは把握している。だから山陰地方と九州北部の人間は皆近畿に避難させた。漁も日本海にはいかねぇー。パニックが起きるっていうんで口止めされていたから、東京でも上層部しか知らねぇー」


「…………」



 姜は完全に言葉を失う。


 時宗だけではなかった。


 レンが、気まずそうに姜を見つめ、静かに言った。



「知っていると思っていた。だから姜は日本に行くんだって。中国でも、瀋陽市から東は行ってはいけない、核戦争があったから……って噂があった。北京や上海にも、朝鮮人難民が多くいた。皆……ひどい扱いを受けていて……悲惨。だから日本なんだって思って」


 レンは矢崎と中国大陸中を放浪した時期がある。中国最大の都市圏である北京や上海にも行った。そこで朝鮮難民をじかに見ている。世界が崩壊した上、亡国で、しかも核戦争後の被爆地帯からやってきた言葉の通じない難民たちだ。その生活は同じ外国人として蔑まれたレンと矢崎(レンは香港人だが)よりはるかに酷く悲惨だった。


 そして、トドメはレ・ギレタルだった。



「核爆発が複数、大陸の端で起きたのは事実です。3スーカなので地球だと約6年前になります。その時、まだ私たちの母船は墜落していましたが辛うじて生きていました。そして地上で核爆発を複数確認しています。放射能レベルは半島全域で非常に高く、人類が生存できる数値を超えています。生存者のスキャンもしましたが、反応はありません」


 つまり……今、朝鮮半島に人は住んでいない、という事だ。


「僕が長期香港で留まっていた理由も、それです。香港より北がひどい惨状だと聞いたので、大陸沿いに北上することは出来ませんでした。核戦争の話も聞きました」


 篤志たちは香港に留まっていた。しかし船は完全に燃料切れだったわけではない。進もうと思えばまだ北の都市に行けたし、大陸周りに行くほうが東シナ海を横切るより楽かもしれない。だがそうしなかったのは、この情報を聞いたからだ。


 篤志とレンは秘密にしていたわけではない。拓たちは当然知っているものだと思っていたのだ。


 全員、言葉を失った。



「何故黙っていた!! 貴様!!」


 突然、姜は時宗に飛び掛ると胸倉を掴み上げた。


「何故だ! 何故黙っていた!! 時宗!!」


 姜は叫ぶ。


「言えるかよ!! 『祖国は核戦争で滅んで消滅した』なんてよ! 特に軍人の姐御によ!」

「私を騙していたのか!? さぞ愉快だったろうな、日本人!!」

「ああ! 騙して日本に連れてきた!! 中国にいた時言えばどうなった!? 姐御は一人で北朝鮮を目指しただろーが! そしたらALに襲われなくても死ぬ!!」

「私が死ぬのを恐れると思っているのか!?」

「無知と無鉄砲は別だ! 無駄死にだぜ!? わざわざ死ぬと分かっているのに行かせられねぇー!」


「お前は私に命令する権利があるのか!?」


「あるね! 同じ釜の飯を食って、同じ屋根の下で寝て、一緒にくそったれALと戦った仲間だ! 死なせたくねぇーんだよ!!」


 二人は叫びあう。


 周囲も必死に落ち着くようにいうが、二人の感情の爆発は収まらない。



「何が仲間だ!!」


 姜はそう叫ぶと、時宗を殴り飛ばした。そしてショルダーホルスターに突っ込んであるSIGP226に手をかけた。



 が……さすがに銃は抜かず、堪えた。



「嘘をつくのが仲間か!? ふざけるな!!」


 姜はそう言い捨てると、その場を蹴り、一人寝室に向かって立ち去る。


 誰も、間に入ることは出来なかった。


 時宗は、切れた唇から流れる血を手で拭うと、黙ってビールに手を伸ばした。そして一本を一気に呷った。


 その時宗の横に、拓が座る。



「本当なんだな?」

「多分な。そりゃあ見たワケじゃねぇーし、行ったワケでもねぇーし。でも、篤志やレンちゃんやレ・ギレタルの話も事実なら、間違いない」


「何で俺たちにも言ってくれなかったんだ?」


「言ったろ? 政府から口止めされていたって。祐次だって、皆に言ってねぇーだろ?」

「……だな」


 だが……確かに祐次も知っていた。思い返せば、先日のビデオ・メッセージで「朝鮮半島周りに帰れ」とは言わなかった。拓たちが香港にいることはJOLJUから聞いて知っているのに、危険のある東シナ海渡航を前提に話をしていた。米軍基地ならば韓国にだって在韓米軍はあるし、日本より銃の所持が容易で武器も手に入るが、その事には一切言及しなかった。祐次は時宗が拓たちに朝鮮事情について当然話したと思っていた。


「西日本ならともかく、東日本の東京には直接朝鮮事情は関係ないからね。知らなくても問題はないけど」


 啓吾がため息をつく。政治学を学んだ啓吾は日本臨時政府の判断はよく分かる。このことが生存者に知られれば不安は広がるし、もし朝鮮半島からの難民がたどり着いたとき、差別や迫害行動やパニックを防ぐためだ。韓国の先は西日本だが、北朝鮮の先は新潟で、新潟には農業村がある。恐らく難民はゼロではない。


「でも、どうするの? 彼女」


 優美が寝室のほうを見た。

 拓も寝室を一瞥する。


 あの寝室は姜だけの部屋ではなく、レンと優美も一緒に寝ている。


「すまん。今夜は姜を一人にさせよう。悪いが優美とレンちゃんもリビングで寝てくれ」

「うん。分かった」

「それなら僕の部屋を二人で使ってください。僕はリビングでいいですから」


 篤志も個室だ。ただ他の部屋より狭い。


「篤志がいいなら。じゃあ、それで」


 優美とレンは歳若い十代の女性だ。もうこの仲間内で男女混合がどうとかプライバシーとかないようなものだが、そのほうがいいだろう。


「篤志。一応ボートと倉庫に鍵を掛けておいてくれ。後、俺たち男性陣は、できるだけ一人は常に起きて見張りをしておこう」


 もしかしたら姜が飛び出していくかもしれない。


 止める権利はない。元々彼女とは別れる予定だった。


 ただ事情が変わった。朝鮮の事情がそういうことであれば、安易に彼女を送り出すわけには行かない。それに逃亡するように送り出したくはない。そしてここまで来て、仲間割れはしたくない。


 拓の気持ちは、時宗と同じだ。


 姜は仲間だ。むざむざ死なせたくはない。


 そして、その気持ちは全員同じだ。



「一先ず……岩国に向かう。そこで、どうするか考えよう」


 そういうと、拓はため息をつき、自分も懐から煙草を取り出した。


 こういう事態は想定していなかった。


 この世界を破壊しているのは、何もALだけではない。



 人間の暴挙と暴走でも、世界は滅ぶのだ。




「滅亡3」でした。



朝鮮半島事情説明編です。

難民問題で知ったわけですね。

そりゃあ核戦争が起きたらもう住めません。

ちなみに朝鮮半島自体の生存者はそんなに多くありません。多分2000人くらいですかね? 土地の広さの割に多いのが日本。1万2000人で元3億いた米国とほぼ同じですから。……人間同士の殺し合いが少なかったという理由もありますが。


ということで岩国に向かう拓たち。

岩国といえば……そう、前話の伊崎編で伊崎が「岩国によるはずだ」と言っています。

ここで何かが起きる?


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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