「滅亡2」
「滅亡2」
ささやかだが温かく楽しい姜の送迎会。
だが浮かない顔をする時宗。
実は……とんでもない秘密を隠していた。
その事を知った姜、そして拓は思わず絶句する。
***
その日の晩御飯は、サバのフルコースの他、とっておきのフルーツの缶詰とソーセージの缶詰を開けて、賑やかな夕食となった。
敢えて告知はしなかったが、姜の送別会のつもりだ。岩国について姜の船を見つけたら、こうのんびりと夕食会ができるとは限らない。ビールやワインも開け、未成年の篤志と杏奈とレ・ギレタルもジュースで参加した。
料理をしたのは優美とレンだ。二人は一応料理が出来る。とはいえ素人よりは出来るという程度で、苦労しながら作った。味噌鍋のサバはぶつ切りだし、刺身の大きさは違うし、小魚で出汁を取った炊き込みご飯は普通の鍋で苦労しながら炊いたのでやや固かったが、それでも皆料理を楽しんだ。
和気藹々とした夕食があらかた終わり、菓子を開け雑談会になってしばらく……拓が皆を見回して言った。
「岩国についたら、姜はこの船を離れて祖国を目指す。ここまで無事来れて、本当によかったよ」
一瞬全員が黙った。
「別れるのは寂しいけど、俺は気持ちよく姜の旅を応援したいと思う。姜、武器も食料も燃料も、好きなだけ持って行っていい」
「感謝する」
姜は頷く。いつもと変わらないように見えるが、少し微笑んでいるように見えた。
思えばここまで、彼女の苦労も相当なものだった。
拓たちとは違い、彼女は一ヶ月前初めて世界の崩壊を知り、しかもそのことを外国人である拓たちから知らされた。今はそれを疑ってはいないが、それを受け入れるには相当ハードだっただろう。拓たちですら世界の現状を理解するのに二週間はかかった。
元々愛国心の強い女軍人だ。祖国に帰れることは嬉しい。
拓や優美、啓吾も彼女との別れを惜しみつつ、彼女の新しい旅を応援した。
が……。
「姐御よ。こんな世の中だぜ? どこの国もグチャグチャだぜ? でも、日本は比較的安全だ。このまま一緒に東京で住むってどうよ?」
「時宗?」
時宗はビールを飲みながら、懐から煙草を取り出し、それを噛んだ。
そしていつもの笑顔を浮かべた。
「深い意味はねぇーけどさ。レンちゃんも一人で日本に住むのは寂しいだろうし、面倒を見る人間がいるし、俺と拓は米国に行っちまうだろ? 俺たちの家、空くから、住んだらいいぜ。仲間は多いほうが心強いし安全よ? 祐次の奴と一緒に集めた食い物の備蓄もある。環境はずっといいと思うぜ?」
東京では、時宗は祐次と一緒に一軒の家を整備して一緒に住んでいた。二人(とJOLJU)で、色々調達班として活動して、色んな物資を個人的に集め、他の生存者たちよりいい環境を作っていた。だが祐次はもう帰ってこないし、時宗も米国に行くと決めたから、この家は不要になる。
「ありがたいが、やはり祖国が一番だ。お前たちには分からんだろうが、北朝鮮はいい国だ」
姜は時宗のリップサービスだと思い、気軽に流した。拓も気にしなかった。
その後、続く発言が出るまでは。
「北朝鮮? 姜さんは中国人ではなく朝鮮人だったんですか?」
「篤志?」
篤志とレ・ギレタルが顔を見合わせる。それに合わせて、レンも発言した篤志たちを見た。
妙な沈黙が流れた。
そして、次に口を開いたのは、意外にもレンだった。
「本当に本気で朝鮮に帰る気だったの? 姜。そんなの、危険」
「……何……?」
姜の手が止まった。いや、拓や優美や啓吾たちの手も止まった。
妙な空気が流れている。
しかも、その妙な雰囲気を共有している人間が四人いる。
時宗、篤志、レン、そしてレ・ギレタルだ。
拓たちも聡明な人間だ。すぐに4人が何か隠していることに気付いた。
姜の表情が、途端に険しくなった。
「どういうことだ?」
「…………」
「お前たち、何か知っているの?」と啓吾。
「ALが多い……っていうんじゃなさそうね?」と優美。
珍しく、時宗は即答せず煙草に逃げた。
だが場の雰囲気は、ますます悪くなる。この四人が何か隠していることは間違いないし、それがどうやら朝鮮半島に関することなのも分かる。
しかし世界の崩壊後、ニュースや通信は途切れて、外国人が詳しいはずがない……はずだ。ただ、レンは中国人で中国を放浪していたし、時宗は日本臨時政府の若者の中でも祐次の相棒だったから、上層部に近かった。
「何か知っているのか? お前」
拓が問いただす。
時宗は面白くなさそうに黙って煙草を吸っていたが、その一本を吸い終り、新しい一本を口に咥えたとき、意を決し言った。
「朝鮮半島は、人が住める場所がねぇーらしい」
「何?」と拓。
「何で?」と優美。
拓や優美たちは本当に知らない。
当然だ。これは日本臨時政府の中でも、一握りの上層部しか知らないことだ。しかも口止めされている。
だが、言った。
「核戦争が起きた……らしい」
「なっ……」
その衝撃的な言葉に、さすがの姜と拓も言葉を失った。
数秒後……現実に戻ってきた姜は、思わずテーブルを叩きながら身を乗り出して叫んだ。
「核戦争だと!?」
「本当なのか、それ!?」
拓も驚く。初めて聞く話だ。
「俺も目で見たわけじゃねぇーし、詳細を知っているわけじゃねぇー。でも……韓国と北朝鮮が核ミサイルを撃ち合って、その国土のほとんどが焦土になったのは、どうやら本当らしい」
衝撃的な証言だった。
「待った。北朝鮮はまだ分かるけど、韓国には核ミサイルはないだろ? 核戦争だなんて起きるもん?」
啓吾は首を傾げる。韓国は核保有国ではない。北朝鮮だって、公式には違う。しかし核ミサイルを10発ほどは持っているという噂がある。
「これは俺の推測だけど、撃ちあったのは正しくは北朝鮮と在韓米軍だ。詳しくはしらねぇーけど、ようはこういう事だ。世界が崩壊して、衛星も電気も全てなくなり、エイリアンが町を破壊した。軍事施設は緊急発電機とかがあるから、すぐにはシステム・ダウンしなかったんだろう。この崩壊が敵の攻撃だと判断したのか、そうコンピューターが誤認したのか、戦争だと焦った馬鹿がスイッチを押したか、核ミサイルが発射された。そしてそれが落ちて、報復としてまた核が撃たれて、それが何発か続いた。それで朝鮮半島は焦土となった。どっちが先に始めたかは分からねぇーけど、とにかく核を撃ち合った」
「…………」
姜は言葉を失う。
軍人だった彼女は分かる。あり得る話だ。
現代において、冷戦状態が残り、ミサイルの照準を向け合っている場所のひとつに朝鮮半島がある。電気や衛星他あらゆる施設が停まり、町や都市が破壊されたとなれば、戦争が始まったと判断してもおかしくはない。
最初は通常ミサイルの撃ち合いがあり、報復が行われれば、最後は核ミサイルになる。
双方に軍人の生存者がいれば、現場判断でミサイルの発射を実行したかもしれない。
ボタン一つで起きる。後はお互いが沈黙するまで終わらない。
10発以上撃ち合えば、朝鮮半島は完全に破壊され、放射能で人が住める土地ではない。
「滅亡2」でした。
核戦争!
実はこのことですが、ちらっと第四章の祐次が零しています。「核を使った馬鹿がいるんだよ」と。
それが朝鮮半島のことだったわけです。
別に朝鮮人蔑視しているわけではないです。現代でこうなる確率がある地域の一つだからです。イスラエルあたりも起こしている可能性もありますが、そこには誰も行っていないので分かっていないだけです。
まさか世界がこうなっているのにこんなことで故郷がなくなった姜の運命は!?
次回、もう少しこの事件の詳細が分かります。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




