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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第四章拓編+外伝伊崎・ユイナ編
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「京都の姫2」

「京都の姫2」



ユイナが告げる、拓たちの消息。

そして意外な、英雄という存在。

祐次は縁が切れてしまった? 

そしてユイナと伊崎との縁も……。


***



 不思議な場になった。


 伊崎の前に、ユイナが座っている。伊崎の後ろに宮本、ユイナの後ろには、徳川が黙って座している。


 伊崎は、上着のポケットから一枚の写真を取り出した。


 伊崎が若者たちとパーティーをやったとき、一緒に撮った写真だ。18人の若者たちと伊崎が映っている。この中に、拓も祐次も時宗も優美も啓吾もいる。


「話は父から伺っています。この方々の所在でしたね?」

「分かるのですか?」

「やってみます」


 そういうと彼女は、首からかけたペンダントを取り出した。銀製で、真ん中に大きなエルラルドがはめ込まれている。


 そして、それを強く握りしめて、目を閉じた。


 数秒……沈黙。

 一瞬……ペンダントのエメラルドが僅かに光った……気がした。

 ユイナは目を開けた。



「ほとんど死にました」

「…………」


 ユイナの第一声には、感情も何も篭っていなかった。


「でも、生きている人もいます」

「ええ。5人は生きていると思われます」と伊崎。


「<英雄>……を探している」

「は?」


「<英雄>……<米国>……<サムライ>……<希望>……。その言葉が頭に浮かびました」


「これ、占い……ですか?」と宮本。

「すごく当たるんですよ? 姫の占いは」


 彼女は周りの会話に加わることなく、じっと写真を見つめている。



「<ラマル・トエルム>? 遠い世界の魔人……これが希望?」


 独り言のように呟くユイナ。ユイナはすっと写真に指を這わせ、二人の顔の前で手を止めた。



「この二人が、私たちを救います」

「…………」



 その指の先にいたのは、拓と祐次だった。



「一人は黒部さんですよね? この二人は<英雄>と出会う……そういう気がします」


 伊崎と宮本は顔を見合わせた。信じられない、といった表情だ。


 だが全く信じていないわけではない。


 サ・ジリニの話を信じるのであれば、拓、祐次、時宗、優美、啓吾は生存している。だがその事は徳川も知らないし顔までは分からない。徳川と対面したことがあるのは祐次と時宗だけで、拓たち三人は知らないはずだ。


 だが、ユイナは5人を間違えることなく指差した。



「実際にお会いしたいです。この方たちと。何かすごい力を感じます」

「どうしてですか?」

「分かりません。でも、強い人たちです」


「それで……こいつらが今どこにいるか、分かりますか?」


 ユイナは再び強くペンダントを握った。今度は目を閉じなかった。



「海。陸は見えない。ゆっくりと、こっちに向かっています。遠くはない……と思う。船でしょうか?」


 やはり拓は海路を選んでいるようだ。昨日伊崎たちの推理とも合致する。


「この男は、今どこです?」


 伊崎は写真の祐次を指差した。

 ユイナは同じようにペンダントを握り、今度は念じるように目を閉じた。


 ただ……これまでと違い、やや長かった。

 そして、僅かに表情に変化があった。困惑しているように見えた。



「指導者……の傍? そして天使。……だけど、よく分からない。ビジョンがよく見えない。何かもっと強い力の渦の真ん中にいて、複雑で怖い。……生きています。でも、日本との縁は切れている」


 やはり祐次は遠く、帰国を諦めて独自に生きているようだ。

 この話を信じる、とすれば、だが。


 伊崎は拓たちの情報、ザ・ジリニから聞いた話を総合した推測などを告げると、ユイナは少し思考して、厳かに答えた。


「広島から山口にかけて。多分大きな基地のあるところを目指していると思います。ごめんなさい。私、地名までははっきり分からないし、日本の地名には詳しくなくて」

「いや、いいんですよ」

「でも」


 ユイナは静かに顔を上げ、じっと伊崎を見つめた。


 とても綺麗な瞳だ。


「貴方の力を必要としています。伊崎さん」

「…………」

「この方たちだけではありません。私たちでも、東京の皆さんでもありません」


 そういうとユイナは微笑んだ。


「人類が、貴方の力も、必要としています。伊崎透さん」

「…………」

「そして、私も」


 ユイナの言葉に、伊崎は言葉をなくした。


 何故か、それ以上その事を追求しようという気分にならない。


 頭のどこかが告げている。


 この言葉を忘れるな。自分には、これから何か途方もない運命が待っている。


 そして、直感的に伊崎は思った。


 この不思議な少女と自分は、何か不思議な縁があるのではないか。



 ……恐らく鍵になるのは拓たちだ。



「きっと、再会できます」


 ユイナはそういうと、そっとペンダントから手を離し、背筋を正すと、また微笑んだ。



「人類は、きっと救われますよ」


「…………」



 予言のような……願望のような……。


 それが、彼女が発した不思議な言葉の最後だった。







***




 トラックは東を目指し、進んでいる。

 他に走行車のない、無人の東名高速道路を。


 時々放置車があるから、馬鹿みたいに飛ばすと事故を起こす危険がある。ALが飛び出してくる場合もある。トラックの荷台には荷物が沢山詰まっているから、100キロ前後のスピードで安全重視で走らせている。とはいえゆっくりしすぎて日が暮れれば危険だ。


 約480kmだから、5時間ほどで東京に戻る。



「<京都>……良かったですね」


 窓が開いている。宮本は煙草を燻らしながら笑った。


「徳川さんは、あれはあれで人望がある。夏から秋にかけて、交流は増えるから、宮本さんがその気なら、交流団に入れるけど?」


 伊崎も煙草を吸っている。

 ちなみに二人が吸っている煙草は、<京都>が生産している煙草で手製の紙巻煙草で、フィルターはなく、100円均一店で売っているようフィルター代わりのパイポに挿して吸う。味は濃く、ニコチン量は多そうだ。


 実は二人共、元々喫煙者ではなかった。


 世界が崩壊した後覚えた味だ。二人だけでなく、全体的に喫煙者は増えた。多分、食べる嗜好品が少なくなり娯楽も減った反動で、煙草を吸い始める人間が増えたのだろう。煙草は自販機や小売店にいけばいくらでも手に入るが、それもいつかは無くなる……という事で、一年前から<京都>では実験的に生産を始めてみたらしい。今伊崎たちが吸っているのはソレだ。


 別に<京都>は喫煙者のことを考えて、自作しているのではない。むろんそれもあるが、東京との物々交換の際必要な品目を増やすのが主な目的だ。東京は食料と銃弾、ガソリンに重点を置き、西の<京都>は酒や煙草、干し果物など嗜好品を作る。それで双方バランスをとっている。


 伊崎と宮本は、結局二泊した。


 鯉の養殖場を視察したり、防壁の相談を受けたり、夏と秋の収穫プランの打ち合わせなど、大臣として忙しかった。


 そして今朝別れた。


 荷物は鯉の味噌漬けが6樽。鯉の干物がダンボール5箱。虹鱒の西京漬けが3樽。自作煙草がダンボール5つ。漬物が4樽、梅干3樽、自家製のどぶろくが2樽だ。そして荷台の中にソファーを入れてサ・ジリニが入っている。今回は物資の分けあいではなく、サ・ジリニの迎えと情報交換が目的だから、これでいい。今回の物資は、いわば手土産だ。東京には5000人住んでいるから、皆に配れば一掴み一食分にしかならない。



「拓たち……無事帰ってくるといいんだが」


 ユイナは「基地」と言った。それを信じ、メモと食料と無線機を岩国の米軍空軍基地と呉の海自基地周辺に置いてきてほしい、と徳川に依頼した。岩国は米軍基地だから、そっちのほうに立ち寄る可能性は、確かに高い。拓の愛用拳銃はベレッタM9だ。9ミリ拳銃弾は、警察県警本部か軍基地でしか手に入らない。


 徳川もその要請を受けた。


 彼は拓のことは知らないが、ユイナが「重要な人物」と言い切った。それを信じ、リスクを犯す価値があると判断したようだ。



 徳川 ユイナ。

 不思議な少女だ。


 ただ、占いというか不思議な能力があるから特別……というだけではなさそうだ。


 一つ、徳川はユイナについて、意味ありげな言葉を呟いたのを伊崎は覚えている。



(ユイナ)がいるかぎり、ALは襲ってこない」と……。



 事実……彼女が<京都>に住み始めてから、ALの凶暴期の襲来は一度もないらしい。過去<京都>も一度大襲来を受けたし、凶暴期ではない中規模の襲来は何度もあった。だが、ユイナが来て以降、中規模の襲撃もなくなったらしい。市外や偵察部隊が小規模の群れと遭遇するくらいだ。

 ちょっと信じられない。中規模の襲撃は、東京では三ヶ月に一度は起こる。


 不思議な少女だった。

 しかも、彼女と伊崎とは、何か縁があるという。



「恋人には10年早い……しな」


 伊崎は呟いた。それに、そういう縁とは違う別のものだと思う。


「伊崎さん?」

「いや、なんでもない。そろそろ富士山が見えるな」

「見たいですか?」

「あれはあれで、すごいからね」


 そういうと伊崎は煙草を窓の外に投げ捨てた。


 彼らの道の先に、日本一の霊峰であり日本を代表する東海道の名所、富士山がある。


 だが、その姿を見た日本人は、きっと大きな衝撃を受けるだろう。


 富士山は、8合目あたりから消し飛び、あの美しかった面影はまったくなくなっているからだ。


 知らない間に富士山が火山爆発したのか、異星人が破壊していったのか、それは分からない。伊崎も初めて見たときは驚きのあまりしばらく言葉が出なかったのを覚えている。


 ただ、もうこの世に、あの秀麗な富士山は存在していない。

 そんな富士山も、もう見慣れた。



「このまま平和が続けばいいが」


 しかしどの状態が平和なのか。ALや異星人が全ていなくなればそれでいいのか。もう日本人は1万人ちょっとしか生き残っていない。元の1億3000万人まで戻るのには、何百年もかかるだろう。


 だが諦めるわけには行かない。



 諦めたとき……この地球上に、日本という国は無くなってしまう。



 現に……世界では多くの国が、もう無くなってしまっただろうから。





「京都の姫2」でした。



これで伊崎&ユイナ編、完結です。


というか、これで二人の紹介が終わって、これから次は元のタイムラインに戻って拓編……となります。拓たちも丁度日本に向かっている最中です。


実はこの伊崎編の頃は、正確には拓たちはまだ香港ですが。


それよりもっと重要な伏線というかネタバレが!

祐次とエダは、現時点で死んでいない! そして、明らかに何か進展している!


エダ編からみれば半年以上未来です。昨年のエダ編が晩秋で、拓編は春です。段々エダ編は追いついていくわけです。


ということで今度は拓編。ほぼこの話の続きです。

ついに日本上陸の拓たち!


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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