「地球脱出」
「地球脱出」
現状の悲惨な状態を説明するク・プリたち。
彼らもまた被害を受けた生存者にすぎない。
だがもっている科学力は違う。
そしてココに一人、とんでもない超生命体JOLJUがいた。
JOLJU、IQ3000!?
宇宙SF話です。
***
ド・ドルトオは頷く。
「中々興味深い話だ」
彼らク・プリも、<BJ>のことは知っている。
<BJ>が比較的中立的立場である事も。
どうやら<BJ>の関心は地球人にあるようだ。
「しかし、レ・ギレタルが生きていたとは驚きです。いいニュースだ。これで<デダブ>が生きていれば、可能かもしれません」
「<デダブ>?」と祐次。
「ナンバー1、<船長>って意味だJO」と、JOLJUが横で通訳する。
「さっき、一人は旅に出たと言ったでしょう? それが<デダブ>……我々の船長でリーダーのニ・ソンベです。我々の仲間も戦争で多く死にました。目的のためには、まだいくつも超えなければならない事案があるが、しかし、レ・ギレタルが生きていたということで、一つ事案がクリアーされます」
「レ・ギレタルは航海士だからね。宇宙移動するには必要不可欠な人材だJO」
「それは地球の航海と同じか」
「船のシステムが不安定だから、航海士が計算しないと迷子になっちゃうんだJO」
レ・ギレタルは今、篤志たちの家族と一緒に日本を目指している。どこにいるかまでは分からないが、何事もなければ、そのうち日本に辿り着くはずだ。そうすれば日本臨時政府と伊崎透が保護してくれるだろう。そのための手紙は書いておいた。
「やっぱり、アンタたちク・プリアンは母星に帰ることが目的なのか?」
「それは当然だよ。君たちだって、海で遭難して無人島に流れ着いたら、自分の国に戻りたいと思うだろう? そこのJOLJUは別かもしれないが」
「テヘヘだJO」
「ただ宇宙種族は見境なしに活動していいわけでもなくてね。科学文明未発達の惑星に漂着した場合でも、その惑星の科学文明力を超える影響を与える行動はしてはならない、という決まりがある。だからテラリアン……地球人に協力は頼めない。そして、帰還が叶わないと判断したときは、その未発達文明の科学に影響を与えることなく、静かに生活し、その星で正体や痕跡を明かすことなく死ぬ。今の我々のようにね。それがルールだ」
「完全に諦めたのか?」
「そうなっても仕方がないとは思ってはいたが、ようやく運が巡ってきたようだ。君と出会えた事で、ほんの僅かだが、希望が生まれた」
「俺?」
「いい情報をくれた。これでク・プリアンが合計10人生き残っていると分かった。その中に航海士のレ・ギレタルがいる。宇宙船を動かす最低限は揃っているという事が、今日分かった。希望と呼べるだろう?」
そう言ったド・ドルトオは苦笑いする。
「とはいえ、無人島に遭難して、ようやくここが無人島だった、と分かった程度の希望ですがね」
ほとんどゼロ地点と変わらない。ただ目指す方向が変わる程度だ。
が……ここには、すごい重要人物がいる。
「ク・プリの船って全部墜落したんじゃなかったっけ?」
そろ~っとJOLJUが挙手して発言した。
「母船も避難船も全て墜落しました。小型船は緊急脱出用で、どの船も宇宙にもいけないでしょう。ただ、ニ・ソンベは、『母船は修理すれば宇宙航行は可能かもしれない』と言っていました。船に最後まで残っていたのが船長のニ・ソンベです。母船はもっとも頑丈で船体も大きく、エンジンも複数あり、エネルギーも豊富です。飛ばすことはできると思います。ただしワープ・エンジンは完全に破損しています。ワープ・コア粒子も流出して、今はありません。彼の旅は、その可能性を見出すものだと我々は理解しています」
「宇宙空間で飛べたとしても、秒速200kmも出ません。この速度では、このテラ星系の外には出られない」
別のク・プリアンが後ろから言う。
地球は太陽の周りを秒速30kmというスピードで周り、太陽系も秒速360kmというスピードで周っている。ただ地球の重力を振りきるだけでいい、地球の宇宙開発とはレベルが違う。宇宙移動には光速だって遅いのだ。この程度の速度の船では太陽系は広すぎるし、外宇宙ともなれば絶望的な広さになる。そして太陽系同様の速度で動いている星系に入ることも出来ない。手製の手漕ぎイカダで太平洋横断をするようなもので、自殺に等しい。
が、ここに次元の違う超生命体がいる。
「次空間防壁は生きてる? もしくは亜空間多重エネルギー・バリアーは張れる?」
「怪しいですが、一度の跳躍くらいならばなんとかなると思います」
「じゃあ、アレかしらん? ゲ・エイルの船が一隻手に入れば、なんとかなるかも?」
「何ですと? ゲ・エイルの船……ですか?」
初めてク・プリアンたちの表情が変わった。
JOLJUは一度祐次の顔を見た。
が、すぐに「ま、いいや」と、ド・ドルトオのほうを向いた。
「ゲ・エイルの船メイン・エンジンってブラッホール推力じゃん? あれ、頑丈だからちょっとやそっとじゃあ壊れないし、多分ブラックホール・コアは取り出せるJO。そこにちょっと細工して、バリアーで囲ってオーバーロードさせて時空の歪みを作って、ワームホールを作るんだJO。それで次元時空跳躍移動でワープできるJO」
「ワームホール・ワープですか?」
「どこに繋がるかわかんないけど、それでとりあえず別の星系にいって避難信号打てば、救助がくるはずだJO。彷徨う可能性もあるけど、少なくとも<BJ>が支配しているテラ星系にいるよりはなんとかなるかも、だJO」
「ワームホールだと別の銀河系……ク・プリの領域外に行きませんか?」
「そこはブラックホールエンジンの暴走調整とレ・ギレタルの計算で割り出すしかないけど、一番短距離にセッティングすれば200光年くらいの距離でなんとかなるかもしんないJO。どうせ使うのは小型戦闘船でブラックホールも大きくないし、オイラの計算だと木星あたりまで行けば地球に影響は及ばないし、ここ、銀河の端っこのほうだし、銀河中央目指せばそんなにヘンなトコにはいかないと思うJO。オイラの計算だと、暴走して吹っ飛んでも600光年内には収まるJO。そこなら銀河連合には救助信号は出せるJO」
「確かにそのあたりであればク・プリの行動圏内ですね」
「少なくとも銀河連合の管轄から外れているテラ星系よりは良い傾向です」
「だJO」
「200光年が短距離……か?」
祐次には、大きすぎて規模が分からない。
「このガバデ(天の川)銀河は直径約10万光年だから、200光年はワープ距離としては近距離だJO。でも、別の惑星星系にいくには十分だJO。で……多分だけど、ゲ・エイル星人がまだ地球にいて何か企んでいるのって、同じ事考えてるんじゃないかと思うんだJO。ゲ・エイル星人は戦闘船ばかりで宇宙航行船は沈んじゃったでしょ? ゲ・エイル星人たちにしたら、ワープに耐えられる、乗って帰る船がない。だからク・プリの船を奪いたい……けど、あいつら戦闘員ばかりだから上手く直せない……から、ク・プリを誘拐して直させようとしている……と、思うJO」
ク・プリアンたちは全員顔を見合わせた。そして彼らだけの言葉で何か囁きあう。
祐次には分からない。が、雰囲気で分かる。彼らはJOLJUの案を前向きに検討している。
JOLJUは腐っても神と呼ばれる超生命体で、科学知識に関してはク・プリもゲ・エイルも地球人も到底適わない。JOLJUが「できると思う」といえば、できるのだ。断言しないのは癖のようなもので、出来ない確率が高いときは「無理じゃないかしらん」という。
しかもこのJOLJUの提案は、そこまで難しい事ではない事だ。
少なくとも……この地球の科学で、ク・プリの宇宙船を直して、太陽系外に自力で行くよりは、はるかに現実的だ。
「一つ確認していいですか? JOLJU」
「なんだJO?」
「その計画を我々が進めるとして、貴方の協力は得られるという理解でいいですか?」
「まぁ……オイラで出来る範囲で、<BJ>に蹴飛ばされない程度になら。オイラ、フリーランスだし」
一応全宇宙レベルの神様で、ク・プリアンも保護対象といえば保護対象だ。こいつにとって、特定の保護種はない。好きな種は人類のようだが。
その事を誇るでなく、どちらかというと面倒臭そうに答えるJOLJU。本当にこいつは<神様>らしくない奴だ。
「この話を、わざわざ地球語で行ったということは、貴方の協力も得られる、という事でよろしいか? クロベ君?」
「俺に出来ることならな。だが、俺は地球の代表じゃないから、地球人の総意じゃないが」
「それは分かっています。いや、こう言ったほうがいいでしょう。我々は貴方以外とはこの話をしようとは思わない。貴方はJOLJUの友であり、宇宙世界側にきた地球人で特別です。ベンジャミンたちは人間としては優秀だが、あくまで地球人としてだ。ところで、君には他に仲間がいるのか?」
「エダという少女が俺の仲間だ。米国人でまだ幼いが、聡明で強い女の子だ。彼女は先日ゲ・エイル星人とパラリアンと遭遇している。宇宙世界のことを理解している娘だ」
「そうか。だが、我々にとって必要なのは、戦闘力だよ?」
「知っている」
ク・プリアンは平均的な地球人より体力面で劣り、個人戦闘力という点でいえば、地球人の男子のほうが上だ。AL……タイプ1とタイプ2は、地球人にとっては、慣れれば対応できる程度の強さだが、ク・プリアンたちはタイプ1にも苦戦する。科学兵器が通用しないこの世界では、ク・プリの戦闘力は女性レベルだ。だから日本では日本人が守っているし、横浜の事件では拓や祐次たちがサ・ジリニの護衛として働いた。
「あー、大丈夫だJO。祐次もエダも、<テラッサテ>は地球人の平均より高くて、ク・プリアンと同等かそれ以上あるJO」
「<テラサッテ>?」と祐次。
「IQと精神成熟度を足したようなモノだJO。このあたりの宇宙公認の知能指数の尺度だJO。ク・プリアンたちはその数値で立場や優劣を決めるんだJO」
「我々は<テラッサテ>を重視し、年齢や性別は関係がない」と、ド・ドルトオ。
成程……と祐次は黙る。祐次は自分のIQなど知らないが、塾にも行かず現役一発で医大に受かり、今一流の医者となっているから、低くはない。それにエダが聡明なのは、よく理解している。あの日本語読解力や英語力、知識吸収の早さと理解力と判断力……相当賢い。多分IQは130以上あると思う。
ク・プリアンの知力が、どうやら平均的な地球人よりやや高い事も確かだ。
「お前は高そうだな、その<テラサッテ>」
「まぁ超生命体だし、知識だけはあるし。IQだと3000くらいはあると思うJO」
それだけの知力があれば、ク・プリやゲ・エイルも直接関係ないフリーの神といっても、尊敬するだろう。
「精神年齢10歳だけどな」
「テヘヘだJO」
「ではクロベ君。君は我々と協力関係になる、という事実を受け入れよう。そうなる予定で君はここにやってきた。そして我々は君に協力に対して、相応の協力をする。私たちの目的は地球を脱出する事だ。そして君の要求は<ラマル・トエルム>を見つけること、だな?」
「そうなるが、まずその前にやらなきゃいけない事がある」
そう、ここからが今回の訪問の目的だ。ただ交流をしにきたわけではない。
今は<ラマル・トエルム>より、アリシアの件だ。
そして一ヶ月以内に起きるであろう、AL凶暴期の対処だ。
「地球脱出」でした。
今回は完全SF話!
というかほとんど「スタートレック」の世界!w
そして、科学が進んだ世界の中だとJOLJUはその世界レベルにあわせてくるので、メチャクチャ有能になります。何せ全宇宙で活動している奴ですから。
もしかしたら地球を脱出できるかもしれない、ということは大きな事件です。
ク・プリたちはいわば漂流民ですから、帰国が悲願なわけで、その点可能性が初めて生まれたわけです。そしてそのためには祐次(とJOLJU)と協力し合っていく必要性も出てきたわけです。
ちなみにク・プリは、IQが平均120前後だと思ってもらえると分かりやすいです。
さて、次回もク・プリ編。
今度はNY共同体も関わる話!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




