「秘密の話」
「秘密の話」
突然、語り始めるJOLJU。
ロザミアのこと。
エダのこと。
ゲ・エイル星人のこと。
何度も驚く祐次。
***
「どうせ近くだ。帰りに宇宙船の様子を見て帰ろう。ク・プリかゲ・エイルが来たかどうか分かればそれも収穫だ」
「あ」
カウンターの奥で漢方薬の棚を漁っていたJOLJUが間抜けな声を上げた。
「いい忘れてたJO!」
「ん?」
「先日の騒動の時、ゲ・エイル星人が来たんだったJO」
「何!? 何でそんな大事な事を言わない」
「忘れてた。あー……でも、トラブルなく帰っていったけど……オイラが勝手に船を使った事は文句言っていなかったけど、エダは目をつけられたのは確実っぽい」
「そいつらはどこにいったんだ?」
「転送で消えたJO。でもあれ、多分惑星上陸用の小型携帯用の近距離転送だから、そう遠くじゃないと思う。3ウルド・ウーカーくらいの範囲内だと思うから……ええっと……メートル法だと約130kmくらいかしらん?」
あの異星人たちもALの標的だ。母船の近くに潜んでいるかもしれない。
日本臨時政府が保護したク・プリ星人については、ある程度知っている。彼らは一応地球人を見下すことなく対等に接してくれていた。しかしゲ・エイル星人とは接触は一度しかなく、その時もJOLJUが応対して去っていった。基本JOLJUやク・プリ星人から聞く程度しか知らない。あまり友好的ではないことだけは分かっている。
日本で数度接触があった。そのうち一度は祐次も立ち会っていたが、祐次がいたときはJOLJUもいて、JOLJUがさっさと話をつけて、連中は消えた。
「で……もう一つ、情報というか……」
と、JOLJUの歯切れが急に悪くなった。
だが祐次の顔をそろーっと見上げ、「ま、オイラたち相棒だし。オイラ祐次やエダには嘘つかないし」とため息をつくと言った。
「そん時、ロザミィが現れたJO」
「ロザミィ? 誰だ、それ。女か?」
そういえば先日ぼろっとJOLJUがそんな名前を零していたのを思い出した。どうやら種族ではなく人の名前のようだ。
女の名前だ。JOLJUは頷く。
「他の人には絶対に秘密だJO? オイラと祐次だけの秘密だJO?」
「ああ」
「ロザミィっていうのは、若い女性で、歳は多分祐次より少し若い。宇宙移動してるから、正しい地球年齢では説明しづらいけど、宇宙年齢だと確か今20歳になったばかりかしらん? 蒼い髪の人間だJO」
「ちょっと待て。宇宙移動ってことは異星人だろ? 人間なのか?」
「髪の色が違うこと以外は地球人と同じだJO。<パラリアン>っていうんだけど……ロザミィもエダに興味を持ったみたい」
「なんでエダばかり狙われるんだ?」
「わかんない! 美少女だからかな?」
「異星人から見ても、あいつは美少女なのか? 美的感覚は星によって違うだろ?」
「美形だJO。美形って、バランスとか目鼻や輪郭の比率だったりするし、美人っていってもエダの場合は魅力の才能だし」
「ああ、美の黄金比とかいうな。才能?」
「エダはク・プリから見ても美少女だと認識されていると思う。<愛される>って一種の才能なんだJO? 子犬とか子猫とかアニメや漫画のキャラって可愛く見えるでしょ? 実際全然人間と造型は違うけど。あれって愛されるバランスとか比率が適用されてて、自然に愛情を感じるような構造になってるんだJO。それも才能なんだJO。祐次もいい男だけど、祐次の場合は地球人の現代人の美的感覚上のもので才能じゃないJO」
「エダはその才能に溢れている?」
「うん。今まで色んな人がエダと会ってきているけど、皆初対面からいい感情しか抱いてないもん。ただ顔が綺麗なだけじゃあ、こうはならない。多分エダのもつ天然の才能だJO。<愛される・癒される才能>といえば近いかもしんない。美人でも毛嫌いされる人とか、そこまで美人じゃないけどえらく人に好かれる子とかいるでしょ?」
「俺は大体初対面は警戒されるしな」
祐次も端正で整った容姿を持っているが、表情の奥に鋭さや警戒心や攻撃性があるのか、初対面で好意をもたれることは少ない。もっとも、祐次自身がやや人見知りで、見えない壁のようなものを作っていることもある。
確かにエダにはそれがない。誰に対しても最初から警戒感を持ったりしないし、毛嫌いする雰囲気も出さない。
「それに、エダはすっごく明るくて聡明でいい雰囲気あるもん。それにパラ人はほぼ人類と美的センスも一緒だし」
そういえば、そもそも100%異星人で宇宙育ちのJOLJUが、エダの事を『美少女』とか『美人』と言っている。こいつの美的感覚は地球基準ではない。
祐次もそれは認める。女性の容姿にそんなにこだわらない祐次でも、最初にちゃんとエダと会話したとき、こんな美少女もいるのか、と目を瞠ったくらいだ。
子供になんか全く興味を持たないBanditのスティーブたちですら、エダには邪な妄想を抱くくらいだ。
こう考えると、エダは良くも悪くも目立つし、ある意味魔性なのかもしれない。本人にその自覚が皆無なのはいいことだが。
「ロザミィはエダには危害を加えないし、多分エダの味方になってくれるとは思うけど、人類の味方じゃないと思うJO。場合によっては祐次の敵になるかもしんない」
「何故だ?」
「ロザミィは、<BJ>の使徒だJO。つまりAL側の人間だJO」
「なんだと!?」
「多分人類がどういうものなのか、ロザミィは調べているんだと思う。だから今のところ、オイラとロザミィもプチ喧嘩中なんだけど…………ややこしいんだけど、ロザミィ……ロザミア=パプテシロスの育ての親は…………オイラなんだJO」
「……な……なんだと……?」
話がこんがらがってきた。
つまり、元々JOLJUとロザミアは唯一の家族ではないか。
「ロザミィの親はオイラ。だけど数年前にオイラからは自立して……ロザミィは<BJ>のほうを選んだから……ずっと連絡とってなかったし、会ってなかったんだけど、先日ゲ・エイル星人が来たとき現れて再会したJO」
「…………」
これは別次元の、重要な話だ。
<パラリアン>という新しい異星人の存在。そしてその異星人は<BJ>と繋がっている。さらに元々JOLJUが育ての親だという。
だが、それを聞いた祐次は、ずっと疑問だった事が、その瞬間氷解した。
どうして<BJ>が初老の人間の姿だったのか。どうしてJOLJUがこんなに人間が好きなのか。
答えは簡単だ。
地球以外に人間がいて、元々その異星の人類と深い関係をもっていたからだ。そしていがみあっているが、JOLJUと<BJ>も顔馴染みだ。
「その<パラリアン>はどうして地球を滅ぼす? 違う星だが人類なんだろ?」
「人類の事を宇宙では<パラレイト>っていうんだJO。地球は宇宙未到達の未発達文明だけど、パラは宇宙進出していたから、宇宙世界ではパラ人が人類種代表になっているんだJO。パラレイトの近接種は地球以外にもいるけど、ちょっと違うし交配は不可能。ほとんど遺伝子が同じ同種で、一応高度な科学文明を持っているのは、この天の川銀河だとパラ人と地球人だけだJO」
「だから! それが何で地球を滅ぼす?」
「それはいえないJO。それ、オイラが言った瞬間、間違いなく<BJ>にこの地球から叩き出されるJO。それならまだいいけど、ルール違反ってことで<BJ>が地球を消すかもしんない。でも<ラマル・トエルム>はこの秘密を多分知った人間のことだと思う。秘密だけど、祐次が自力でその答えにたどり着くための協力なら、オイラもできるJO」
「…………」
そう語るJOLJUの言葉に嘘はなさそうだ。
……一応こいつも<神>だったな……そういえば……。
今、一瞬だけ……JOLJUから<神>らしさを感じた。
JOLJUは元々無責任な神同士の討論にも参加していたから、<BJ>が本当は何を考えているかくらいは知っているのだ。そして地球人たちが到底知りえない、宇宙人たちの勝手な思惑も、JOLJUだけは知っている。そしてその結果人類の味方になっているが、立場上守らなければならないルールがあるようだ。
このことを黙っている事が、辛かったのだろう。JOLJUは大きなため息をついた。
「秘密の話」でした。
人がいないので、JOLJUが色々告白回でした。
そう、祐次はロザミアとはまだ会ってませんが、これで存在を知りました。そしてJOLJUとロザミアの関係も知りました。まぁエダが先に知っているのでタブーではないですが、JOLJU的には本当に親しい信頼できる人間にしか教えていない秘密です。
美人才能説……実は科学的な話で、この説でいうと<モテるのも才能の一つ>ということで、この説の説明を真面目に書くとこれだけで膨大な文字数になるので書きませんでしたが、未来の科学では立証されているという事です。
さて、次回もまだ二人の雑談。
今度はNYに迫るALたちの話。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




