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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第四章エダ編
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「心の冬」

「心の冬」



ついにアリシアに告知された病名と状態。

余命は一ヶ月。

仲間たちもそれを知る。

延命か、自分らしさか。

アリシアが選んだ道は!?

***



NY マンハッタン ヘルス病院

10月23日。午後13時。


 アリシアの昼食後だ。


 ベンジャミン、リチャード、ミショーン、マギー、ギブス、物資担当ハーベイ=コルベス、運営担当エリック=ウィットリー……自治組織の<リーダーズ>全員、そして祐次とエダが彼女の病室を訪れた。バス・トイレ付きの大きな個室だから、これだけの人数が入れる。


 重要な告知をするために。

 切り出したのは、医療部のリーダーであるリチャードだ。


「アリシア。君はガンだ。かなりひどい」

「…………」

「私の責任だ、アリシア。気付けず情けない。そして、すまない。私の手には負えない。だから、君の事は全てドクター・クロベに託したい。彼が君の主治医だ。後は彼が説明する」


 リチャードと妻のミショーンは手を握り合い、そっと後ろに下がった。


 今度は祐次がアリシアのベッドサイドに立った。その横にはエダが付き添い、今にも泣きだしそうな顔でアリシアの手を握った。


「アリシア」


 祐次は言った。


「君は悪性リンパ性白血病で、ステージ4の末期ガンだ。残された時間は少ない。もう、医者が治療で奇跡を起こすか、治療をやめるかという段階だ」

「…………」

「ハッキリ言う。このまま治療を全くしなければ、余命は一ヶ月だ。万全の医療体制と優秀な医師が何人もいて、過酷で厳しい抗がん剤治療をすれば、僅かに命を延ばすことはできる。それは俺が保障する。だが、医者は俺一人だ。この世界で、完全に君を治す事はおそらく出来ない」

「…………」

「ここにはガン専門の病院はない。それでも俺は全力を尽くす。白血病だから苦しさや痛みはそれほどじゃない。だが次第に弱り、やがて体が徐々にガンに冒されて、強烈なだるさが襲い、体力を失い、寝たきりになり、そして多臓器不全で命を落とす。生存率は5%だ。それも半年乗り切れるかどうかで完治じゃない。今の状態では、医者として、完治の可能性をアンタに伝える事はできない。ゼロではない。だけど、そんな状態だ」


「5%?」


 そういったのはベンジャミンだった。祐次は頷く。


「あらゆる可能性を検討した。海の中で細い糸を掴むような可能性だが、漢方治療という手がある。中国や日本に伝わる自然の薬草や野生動物なんかを使う治療法で、中国や日本ではよくガン治療に用いられる。科学的根拠は少ないが、漢方によってガン細胞が減った実例が日本や中国にはある。漢方薬なら抗がん剤治療と併用しても副作用で悪化することはない。だから漢方を試そうと思う。アリシア、これが俺の基本治療方針だ」


「さすがサムライ・ドクター。東洋アジアの奇跡の医術ね」


「問題は放射線治療や延命治療だ。行うのならば、相当辛い闘病生活が待っている。<リーダーズ>は全面的に協力してくれることを約束してくれた。だが、病と闘うのは君だ。残りの人生を、苦しくても闘って少しでも延ばすか……奇跡に賭けて余命を静かに過ごすのを選ぶか」


「つまり……無菌室でチューブだらけになって、皆に迷惑をかけながら苦しむか、残り一ヶ月の人生を楽しく過ごすか……ってこと? ドクター?」


 そう答えたアリシアの声は、むしろ清々しいほど澄んでいた。


 アリシアは、動揺も恐怖もしていなかった。まるで知っていたかのように。



「決めてくれ。それで俺たちも決める」


「負担は気にするな、アリシア。設備は俺たちが完璧に用意するから」とエリックが言う。


「そうだアリシア。それに、クロベがいる。この若造が天才なのは知っているだろう? 私やミショーンだけでは可能性はゼロだった。だが彼は可能性があるというんだ。もし彼がこのNYに来てくれなかったら、この可能性はなかった。君は運がいいんだよ、アリシア」


 リチャードが静かに言う。妻で看護師のミショーンも頷いた。


「アリシアさん……」

 エダもアリシアの手を強く握った。


 皆が何を望んでいるか、分かっている。


 だが……アリシアは微笑むと、皆の希望とは別の選択をした。



「私の母は……私が14歳のとき、死んだわ。やっぱり白血病だった。だから遺伝ね」

「そうか」

「よく覚えているわ。母は無菌室に入って、点滴と酸素チューブだらけで……髪も全部抜けて、痩せこけて……酷く苦しんだわ。勿論治って欲しかったけど、ボロボロになっていく母を見て思った。同じ死ぬのなら、最後まで女らしさがあるうちに楽になるほうが幸せかも……って。母は娘である私のことが心配で先立つ事に不安をもっていたけど、同時に弱って醜くなる自分の姿を父に見せることを後悔していたわ。父を愛していたから。結局、余命三ヶ月は五ヶ月に伸びたけど……その二ヶ月が母にとって幸せだったかどうか」


 そういうと、アリシアは静かに祐次を見つめ、微笑んだ。


「元の世界だったら……あの平和な世界だったら、私は治療を望んだと思う。だけど、世界は崩壊したわ。今の私たちにとって<死>はいつも傍にある。だから、残りの寿命が残り一ヶ月なんだったら、その一ヶ月を普通に<アリシア>として生きるわ」


 祐次以外の人間が、全員顔を上げてアリシアを見つめた。


「気にしないで、皆。私が一人、死ぬだけのことよ? 毎年何人も死んでるじゃない?」

「アリシア」


 ベンジャミンがアリシアの手を強く握る。


「後二ヶ月で秋は終わり冬になるわ。皆は冬になるための用意が必要よ。そしてクロベ……アンタはドクターだけど、忘れた? <天使を守ると誓った騎士>よ? このマンハッタンはALに取り囲まれて、いつ大規模な襲撃があるか分からない。襲撃があれば、自警団や住民も無傷ではすまないわ。私より、皆を守って。どうせ助からない人間に、無理して労力を割くより、もっと多くの仲間を救うために使って。アンタしかいないんだから」


 皆、その言葉に黙った。


 アリシアは、一人の人間であるより、NY共同体のリーダーとしての生き方を選んだ。


「それにイヤよ。無菌室だと自由に皆に会えないし、坊主頭にもしたくないし。私、このストレートの髪が気に入っているんだから」


 アリシアはそういうと自分の髪を撫でた。アリシアは黒人だが、インド系も混じっていて、髪はやや癖がある程度で黒く美しいストレートだ。



「受け入れる。残り一ヶ月……精一杯生きるわ。治療は受けるけど……病院に寝たきりでミイラみたいに衰えて死ぬのは嫌。私はこれでもいい女だから、いい女のうちに……私の死にたい時に、死ぬわ」


 アリシアは、はっきりと断言した。


「分かった」


 祐次は頷いた。十分だ。


 彼女は残りの人生を充実させる事を選んだ。


 他人が決めた人生ではない。彼女が自ら決めた人生だ。


 祐次は沈痛な面持ちで塞ぎこむ<リーダーズ>たちを見回す。


「そういう事だ、皆。彼女の意志を尊重して、無理な延命治療はしない。だが、俺は諦めない。抗がん剤治療はするし、漢方治療も行う。俺は希望を捨てないが、これは俺だけの事情だ。現実は現実。アンタたちがどういう判断をするかは、そっちで決めてくれ」


「分かった。とりあえず、この事は当面ここにいる人間だけの情報にする。他には漏らすな。そのうち公表するが、その時は相談しよう」


 ベンが言う。皆、黙って頷いた。

 祐次はアリシアに見た。今は病院の検査服だ。


「アリシア、私服に着替えていい。パジャマじゃなくて、部屋着でいい。ただしベルトはしない事、点滴や注射をするから袖が緩くて捲れるもので、大きめの服がいい。悪いがブラジャーはなしで。一旦自宅に帰って、入浴して、着替えや荷物を持って病院に戻ってくれ。夕方から本格的に治療を始める」


「分かったわ、ドクター。そうね、ゆっくり入浴したかったところだし嬉しいわ」


「一日二度は俺が診察しに来る。ただし絶対に一人にはさせない。今は倦怠感くらいだろうが、いつ容態が急変してもおかしくない。付き添いは必ず誰かついていてくれ」


「あたし、付き添う」

 エダが即答した。祐次は頷く。


「リチャードやミショーンはコロンビア大学のほうで他の人間を診ていてくれ。だからエダの他に誰か三人くらい世話してくれそうな人間がいたら声をかけて集めてほしい。ただし、介護者は全員毎日シャワーを浴びて、服は毎日洗濯する。ここに来るときは殺菌する。風邪一つ、感染症一つで命取りになるから、徹底的にワクチン注射は受けてもらう。病室は限りなく無菌に近い状態を作らせてもらう。部屋と廊下を消毒液で徹底的に殺菌して、アリシアが移動する範囲内を区切りビニールシートで囲む」


「分かった。アリシアが帰宅している間に用意しよう」とハーベイ。


「エダ。お前、今日はアリシアに付き添っていろ。俺とJOLJUは行くところもある。入院中暇だろうから、本とかDVDとか、二人で買い物してこい」


「うん。そうする」


「ベンジャミン、リチャード。ちょっと話がある」

 そういうと祐次は廊下を一瞥した。二人は頷く。


「じゃあ解散だ。エダ君、アリシアを頼むな」


 ベンはそういうと、リチャードと共に祐次の後を追って廊下に出た。


 これで堅苦しい時間は終わった。


 仲間たちはアリシアの周りに集まり、それぞれ胸のうちを吐き出したり、涙を流しながらアリシアへの愛情を語り合ったりした。


「心の冬」でした。



アリシア、強い!

なんとなく自分が病気だとは分かってはいたと思いますが、それでも病名を効いたのはこれが初めてです。それがいきなり余命一ヶ月なのに動揺一つせずこの明るさと決断はすごいです。

まぁアリシアが強いし予感もあったのもありますが、もう一つはこんな世界だし、人は簡単に死んでしまう世界ですから。むしろ外をぶらついているほうが死亡率は高いくらいですし。


祐次がひねり出したのは漢方治療でした。どこまでも諦めない男、祐次!


その祐次がベンとリチャードに話とは?

これからも「AL」をよろしくお願いします。

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