「反則の5%」
「反則の5%」
JOLJUに愚痴を吐く祐次。
そのJOLJUから、たった一つ生存の可能性が。
それは普通の地球人ではできない事だった。
やるかやらないかは、祐次にかかっている!
***
祐次はJOLJUを掴み上げると、歩き出した。
どこに……というわけではない。今はベンジャミンを一人にしてやりたかったし、祐次も一人になりたかった。
歩きながら、他の誰にも言った事のない吐露を、祐次は吐いた。
「医者になんか、なるもんじゃないな。自分の無力を呪いたくなる」
さすがの祐次も、気勢がない。
JOLJUは心配そうに祐次を見上げ、ポンと脚を叩いた。
「祐次は頑張っているJO」
「頑張ったって……報われない」
「…………」
「こんな阿漕な職業じゃなきゃ……こんなつらい絶望を何度も遭わなくて済む」
「……ごめんだJO……」
「だから何でお前が謝る? すまんな、こんな愚痴が言える相手はお前しかいない」
他の誰にも言えない。今祐次がそれを言えば、聞いた人間が絶望するだけだ。
祐次だって、誰かに吐き出さなければ、心が弱る。こういう時底抜けに楽天家で陽気なJOLJUは最適だ。
JOLJUはふと歩みを止めた。
そして、ものすごく難しい顔をしていた。
「どうしたJOLJU」
「祐次は……それでも諦めない?」
「……ああ。出来る限りの事はする。医者が諦めたら失格だ」
「やっぱり祐次は……強くて立派で、いい男だJO」
そういうとJOLJUは顔を上げた。
「アリシアの生存率はどんくらいだJO?」
「0.5%くらいかな。神が奇跡を起こせば別だが」
「……5%くらいだけど、あるかもって言ったら、祐次はどうするJO?」
「何?」
祐次はJOLJUを見た。
JOLJUは数秒沈黙していたが、意を決し、顔を上げた。
「絶対の保障はできないし、うまくいくとはいえないけど、方法がなくはないかもしれないJO。本当は反則だけど、祐次だけなら可能かもしれない」
「……どういう事だ……?」
「ク・プリアンの生存者を見つけて、ク・プリの船を直して、そんでもってク・プリアンが了承して、ク・プリアンの宇宙船を地球人に使わせる許可も貰って、船内の特別生命維持装置を直して、それが使えて、アリシアの容態が間に合えば……」
「…………」
「かなり困難だしゲ・エイル星人もロザミィも知ればさすがに怒るし、宇宙のルールに違反するから、オイラがそれをク・プリアンに命令は出来ないけど、地球人の祐次が交渉するならク・プリアン次第で上手く行くかもしれないJO。反則には変わりないけど、オイラがやるより可能性あるJO。オイラがやると<BJ>にこの地球から叩き出されちゃうJO」
「…………」
祐次は黙った。
地球のテクノロジーでは治せない。ならば遥かに進んだ異星人の科学を頼るしかない。
しかし、それがいかに困難であるかは、先日JOLJUから宇宙人の倫理を聞かされた祐次には分かる。
言わば……15世紀の病人を、タイムマシンで20世紀に連れて行き、治す……というような話だ。それがルール違反であることは祐次にも分かる。
だが……これは大海原の深海の奥に投げ込まれた、本当にか細い希望の光だ。
祐次は、JOLJUと知り合い、<BJ>を知り、宇宙世界の事も知った。
地球上で唯一、宇宙世界の領域に足を入れた人間なのだ。
だから、もしかしたらク・プリ星人も手を差し伸べるかもしれない。
「そういう事か」
祐次は黙った。
本当は、いけない事だろう。
こうすることで、ク・プリ星人は地球人の身勝手さに愛想が尽きるかもしれないし、これによって世界が何かしら変わるかもしれない。<BJ>の怒りを買い、結果地球人を見捨てるかもしれない。
ただ……その危険を考慮した上で、JOLJUはその一線を地球人……いや、親友である祐次のために超えた。
後は、祐次がどうするかだ。
祐次はしばらく考えた。
そして、軽くJOLJUを小突いた。
「この弁当は何人分だ?」
「JO?」
「おにぎり」
「三人分だJO? いつものばくだんおにぎり!」
「腹が減った。じゃあ、屋上で食うか。気分がいいぞ、屋上で街を見ながら食うと」
「…………」
「そこで詳しい話を聞く」
「JO!」
「コーラでいいんだよな? 確か病院の購買部に置いてあるから、それを持って屋上に行くぞ」
そういうと祐次は歩き出した。そしてJOLJUもその後に続いた。
……か細い光だろうがなんだろうが、<希望の光>があるのならば、諦めるわけには行かない……ここで諦めるくらいならば、生きる事を諦めるのと同じだ。
だがこの行動は秘さねばならない。
ベンやアリシアたちに余計な希望を持たせたくない。駄目になる可能性のほうが大きい話だ。
さらに大きな失望をさせるわけにはいかない。
それに異星人のテクノロジーを頼るなんていえば、もう祐次をまともな医者として扱わなくなるかもしれない。
そしてエダにも。
これは異星人のことに足を踏み入れた、祐次とJOLJUだけが許される事だ。エダを巻き込めないし、災禍がエダにも及ぶかもしれない。
こうして一人と一匹……いや、一人と一柱……いや、二人は歩き出した。
糸のようにか細い希望の光に向かって。
まだ10月後半。心が冬を迎えるには、まだ早い。
医者として……地球人として……祐次は巨大な困難に立ち向かう決意を固めた。その相棒は、ヘンテコ超生命体一人だけだ。
しかし祐次は、前に進む。
それしか、自分が生きている意義を感じることは出来ないのだから。
「反則の5%」でした。
今回は完全祐次&JOLJU編!
というか、第四章は実はエダよりこの二人のほうが圧倒的に主人公として出番が多いです。
まぁ、病気治療+AL大侵攻なのでエダはあまり出番がないわけですが。
そして第四章は、この二人のコンビの行動が多いです。
地球人が15世紀、ク・プリ20世紀、JOLJU30世紀は第三章のとき出た話ですね。とはいえ皆15世紀に飛ばされたみたいなものなので未来の科学が全て使えるわけではないですが、知識はあります。ただ未来の知識も無尽蔵に使うのもルール違反なのでJOLJUも積極的に介入しないわけですが。
ということで、第四章が始まりましたが、大体方向性が見えてきました!
祐次たちは異星人探し! そこに希望を賭ける!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




