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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第四章エダ編
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「男たちの涙」

「男たちの涙」


アリシアの死の宣告。

それを受け入れられないベンジャミン。

だがそれは祐次にとってもつらい宣告。


そして、ついにエダが知ってしまう。

***



 祐次は怒鳴った。


「いいか! もし世界が崩壊していなければ! ……生存率が10%くらいはあったかもしれない! だが世界は崩壊しているんだ!! いいか、ベンジャミン! ハッキリ言う! 世界が万全で、ガンの専門医が何人もいて、最高の医療を施せたとしたら、アリシアの余命を一ヶ月から三ヶ月に伸ばせるかもしれない!! その後奇跡が起きて、これ以上どこにも転移もせずに、白血病だけであれば、半年まで伸びるかもしれない! その後何年も徹底的にガン治療をして、全て上手くいけば一年までいけるかもしれない。だがそれ以降の生存率は5%以下で3年以上闘病は続く! それでもし生きていたとしたら奇跡だ!」


「なら奇跡を起こせ!! 0%じゃないだろう!!」


 ベンは叫んだ。零れる涙を右手で拭い、さらに叫ぶ。


「ゼロじゃないだろ!! お前、医者だろう!!」


「ああ医者だ!! だからハッキリ言ってやる!! ゼロじゃない!! 可能性はな!」


 祐次も叫ぶ。


 そして感情極まり、壁を殴った。



「そんなに言うなら揃えて見せろ!! まずはガン専門病院を24時間体勢で最低半年起動させろ! ガンの専門医とまでは言わん! 俺と同レベルの医者を最低5人! 熟練の看護師を最低10人! そして薬学の専門を1人! 今すぐここに連れて来い!! そうすれば、余命を三ヶ月までは伸ばしてみせる!!」


「……見つければいいんだな……!? 集めればいいんだな!?」


「だがいない!! 俺と同レベルの医者なんて、今の世界、米国内どころか世界中探したっていない!! リチャードなんか100人いても役に立たない! 俺は世界中旅をしてきた! 俺と同水準の医者なんてどこにもいなかった! 医者はいないんだ、ベンジャミン!! これから教えても間に合わない! 今すぐにいるんだ! ここに今すぐだ!!」



「…………」



 無理な話だ。


 祐次の存在自体が奇跡のようなものだ。それはベンも分かっている。



 それに病院を完全稼動させるには、膨大な電力が必要だ。非常用電力や発電機レベルではどうにもならない。放射能治療をするのであれば尚更だ。もう電力発電所を動かさなければ出来ない。だが発電所を稼動させるには火力発電所にしろ原子力発電所にしろ専門技師がいるし、それを維持するために最低20人は必要だし、施設を守る人間がさらに20人は必要だ。日々のガソリンも節約して生活している崩壊した今、そんなことは不可能だ。人もいないし、燃料ないし、ALの襲撃もある。


 これだけやって、アリシア一人の命を三ヶ月しか延ばせない。


 さらにALの大襲来が迫りつつあり、季節は秋から冬になっていく。とても病人が耐えられるとは思えない。



 ようやく……ベンジャミンも現実を理解した。

 いや、頭は現実をとっくに理解していたが、感情が納得していなかった。だが、ようやく感情もそれを理解した。


 ベンジャミンはその場に泣き崩れた。


 祐次も、いつのまにか流れている涙を拭った。



「アンタはリーダーだろ? リーダーとしての仕事をしろ。俺は医者としてできる限りの事はする。アリシアが希望すれば、放射能治療だって何だってやる。だが……現実は現実だ。可能性はゼロだ」


「……ゼロか……」


 祐次が足掻いて、足掻いて、足掻いた結論だ。希望はどこにもなかった。


「ああ。……すまない。治療をすれば、少しだけは余命を伸ばせるかもしれない。だが、冬までは無理だ」

「……そうか……」


 それが現実……それが結論だった。


「アリシアにはまだ言っていない。俺から言う。立ち会うなら立ち会ってもいい。治療をどうするかは、彼女に決めさせたい」


 苦しい延命治療を受けるかどうか……それとも普通の生活の中、残された余命を過ごすか。もうアリシアには未来はないが、自分の人生の終わりを選択する自由だけはある。


 その時だ。


 人の気配と、何かが床に落ちる、かすかな音に気付いた。

 祐次は振り向いた。


 そこには誰もいなかった。

 だが、駆け出す足音だけが聞こえる。


 やがて……その足音が消え、ランチボックスを持ったJOLJUが神妙な顔をして現れた。



「JO……」


 その瞬間、祐次は全て悟った。


 一番聞かせたくない相手に、全てを聞かれてしまった。


 JOLJUは申し訳なさそうな表情で祐次のところにやってくると、静かにランチボックスを持ち上げた。



「祐次のお弁当におにぎり持ってきたんだJO。……エダと……」

「…………」


 エダは知ってしまった。

 だが、いつまでも隠しておける事ではない。


 祐次は黙ってランチボックスを受け取った。


「ごめんだJO、祐次。オイラ……無力で……」

「お前のせいじゃないだろ? 気にするな」

「エダ……大丈夫かだJO?」

「大丈夫じゃない。だけど……逃れられない」


 アリシアを姉のように慕っていた。アリシアも人一倍エダを愛していた。


 そのアリシアが、死ぬ。


 エダはまた、大事な友人を失う。トビィのように、自分を愛してくれた人間を。


 しかも、戦って死ぬのではない。死の宣告を受け、本人も周りも絶望に打ちひしがれながら、ALとは関係のない、病で彼女は死ぬ。その苦しみは、なんと残酷だろうか。


 ALに殺される事は仕方がない。運がなかった、と諦められる。こんな世界でALの危険から逃れられる人間はいないし、誰もがいつ死んでもおかしくない。


 だが病死は違う。

 死ぬまで本人と周りは絶望と無力に苛まれ苦しむ。


 医者がいなければ、それも運命だと受け入れられただろう。だが不幸な事に、今NYには医者がいる。




 その唯一の希望である医者はどうしたらいいというのだ。


「男たちの涙」でした。



多分一番悔しいのは祐次です。

白血病なので治せない病気ではないけど、専門ではない。

しかも専門家が必要だが、専門家どころか、まともな医者はいない。そしてアリシア一人のために膨大なコストとリスクを負う。だからなんともならない。だけど白血病なので、見た目はまだ元気……。


祐次もベンジャミン、二人共普段は冷静ですが、感情的になるとどっと出るタイプですね。

男らしい二人の関係。


そして、知ってしまったエダ。

どうすることもできないJOLJU。


こうしてみんなにとってつらい戦いが待っています。

だけではなく、ALの大侵攻もあります。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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