「秋の冬」
「秋の冬」
第四章エダ編スタート!
倒れたアリシア。その病名はガン!
そして検査をした祐次は驚きの結果を知る。
彼らに冬の時代が訪れた。
***
NY ハーレム
「…………」
祐次は帰ってこなかった。
JOLJUも今はいない。
エダは無言でソファーに座り込んでいた。
……よくない事が起きている……とてもよくない事が……。
だが、今の自分にはどうすることもできない。
今日は10月22日。あの事件から一日経過した。
あのBanditたちとの事件の直後、アリシアはNYヘルス病院に入院した。
ベンジャミンは「風邪だ。体調不良で用心のためだ」と仲間たちに説明したが、皆そんな軽いものではないことを薄々察している。病院のリーダー、リチャードと新顔だが優秀な医師である祐次がすぐに病院に向かい、二人共詰めっきりで自宅に帰ることはなかった。それに風邪や体調不良程度ならコロンビア大学内の病室を使うはずだ。緊急用のヘルス病院は使わない。
21日の深夜、一旦JOLJUは帰宅した。
「大丈夫だJO。祐次はちょっと病院で仕事があるらしいJO。オイラ、カレーライス持って行くJO」
と言って、カレーライス弁当を持って病院に行き、その後帰ってきて「疲れたJO」と言ってベッドで眠ってしまった。
祐次は帰ってこない。
帰れなかったのだ。
帰れば、話す事になる。
アリシアがガンに侵されているという、冷たい現実を。
***
10月22日 午前10時14分 NYヘルス病院。
NY共同体のリーダー、ベンジャミン=アレックは、無人の病院のロビーにいた。
昨夜アリシアをここに運んでから、ずっとここにいる。昨日の後始末のため何度かコロンビア大学にある自治体の<リーダーズ>の事務所に行ったが、用が済むとすぐに病院に帰ってきて、このロビーで待っていた。
ベンは、三箱目になる煙草の封を破ると、煙草を咥えて火を点けた。このロビーは禁煙だが、そんなこと構いはしない。
一本吸い終わり、もう一本を咥えたときだ。廊下に白衣姿の病院医療部リーダー、リチャード=バーナーが姿を現して、無言でベンの横に座った。
「すまんな、ベン。遅くなって」
「別にいい。クロベはどうした」
「彼は……まだ粘っている。後一時間な」
「どういう事だ?」
「座ってくれ、ベン。落ち着いて話をしよう」
「…………」
「アリシアが……ガンなのは聞いたな?」
「ああ、クロベから聞いた。しかし本当か? あのアリシアが? 病気のほうが逃げ出しそうな女だぞ? そりゃあ元気が出ない日や調子の悪い日があるっていうのは知っているが、ガンはないだろう? 第一、あの若造の診立てだぜ? 医者ってのは、経験が一番だろ? それにガンの診立ては誤診が多いんだろう? 若造の診断なんて信じられん」
「ああ、その通りだ」
リチャードは頷く。
「だから、私もクロベも何度も検査をしたよ。血液も骨髄液も調べたし、色々やった。それで……私は出てきた。諦めたんだ。私の手には負えない」
つまり……彼女がガンであることは紛れもない事実……という事だ。
「手に負えない?」
「私は……元々美容皮膚科の医者だからね。美肌のサポートは出来ても、ガンなんてとても治せない。何の助けにもならん。自分の無力が恥ずかしいよ。今回……責めを負うべきは私だよ。アリシアがガンにやられていることに、全く気付かなかった。毎日顔を合わせているのに、何一つ気付かなかった。あのクロベはたった数日で気付いたのに」
「そのクロベはまだ諦めていない。希望は、まだあるんだな?」
「違うな。希望じゃない。……諦めるため、足掻いているだけだよ」
「…………」
ベンは少し首を捻った。
逆ではないのか?
何故『諦める』ために足掻くのだ?
「私はもう諦めた。彼は諦め切れない。だから何度も調べて、自分で自分の希望を潰しているんだ。頭では分かっているのに、気持ちとプライドが負けを認めたくないんだ」
「負け?」
「あの若造のほうが医者としてはるかに優秀だ。だから必死に希望がないか探っている。だが、これには希望なんてないんだ。足に100kgの錘をつけられて、海のど真ん中に投げ捨てられた。深海に沈んで死ぬ運命には逆らえない。私は年寄りだ。足掻くより素直に死を受け入れて、沈む運命に委ねた。だがクロベは若くて才能があり自分の能力に自信がある。だから、肺の酸素が残り一息になるまで足掻いているが、浮かぶはずがない。それだけだ。死ぬ運命は変わらない」
「…………」
ベンは頭を垂れた。
リチャードは殊更無表情を作り、そっとベンの肩を揉む。
「詳しい話はクロベから聞いてくれ。あの男が主治医だ。一時間で出てくる」
そういうと、リチャードは静かに立ち上がり、無言で立ち去っていった。
きっかり一時間後……祐次が姿を現した。リチャードとは違い、白衣は着ていない。
顔面は蒼白で、疲労困憊がハッキリ見て取れたが、それでも足取りはしっかりしていた。
ベンは立ち上がると、廊下で祐次を待った。
「アリシアはガンなんだな?」
「ああ」
「治せるんだろう?」
「治らない」
「なんだと?」
祐次は一度深呼吸すると、言った。
「余命は一ヶ月。ステージ4の末期だ」
その宣告に、数秒ベンジャミンは呼吸を忘れた。
「ガンだろう? 切ればいいんじゃないのか!? お前、天才だろ!? 天才外科医だろ!? 成功率が10%でもいい。切ってくれ! 何でもする!」
「彼女は悪性の急性リンパ性白血病だ。すでにリンパと腎臓にも転移している。骨髄も、癌細胞で一杯だ。治せない」
悪性の白血病……つまり血のガンだ。外科医の領域ではない。
「ふざけるな!!」
ベンは叫ぶ。そして祐次の胸倉を掴んだ。
「治せ!! 何をしたっていい!! 治せ!!」
「無理だ」
「放射線治療とか抗がん剤治療が色々あるだろ!! 設備は使い放題だ! 薬はどんな高価なものでも何でも使え!! 可能性はゼロじゃないだろう!!」
ベンは祐次を壁に叩きつけながら叫んだ。
祐次は黙ってベンを睨む。
「無理だ」
「治せ!!」
「無理なんだ!!」
祐次も叫ぶと、ベンの腕を振り払った。
二人は殺気立った。
だが、現実がそれで変わるわけではない。
「秋の冬」でした。
第四章エダ編スタート!
アリシア闘病編です。
といっても判明したのは白血病他ガンで余命1カ月!
医者は事実上祐次一人で、しかもガン治療専門家ではない!
こんな時ですが、ALの大侵攻も迫っています!
エダにはつらいシリーズですね。
ということで第四、第五章はエダ編のほうが多めになっています。
これからも「AL」をよろしくお願いします。
 




