「連絡」1
第四章スタート!
「連絡」1
航海を続ける拓たち。
その日は来た。
そしてついに時間がきて呼び出す!
来たのはJOLJU!
以前約束していた一週間後だ。
そこで拓たちは一ヶ月ぶりに無事な祐次の姿を見る!
***
東シナ海 洋上
大型クルーザー<アビゲイル号>は、東シナ海洋上をゆっくりとした速度で北東を目指し進んでいる。
航海は順調だ。
拓たち9人は、沖縄本島を目指し、船を進めていた。
最初の二日間は悲惨だった。
雨が降り、海が荒れた。大型クルーザーは少々の海の荒れには問題なく進んだが、中に乗っている人間はそういうわけには行かず、長く乗っている篤志と訓練を受けた姜以外、全員船酔いで苦しんだ。丁度二日目は東シナ海のど真ん中で逃げようがない。
その後天気が回復し、拓たちも船に慣れてきた。
慣れると楽で快適な旅だ。天候さえ荒れなければ東シナ海は穏やかな海だ。
30mのクルーザーに9人が居住している。定員は15人だが、これは乗せられる人数で居住定員ではなく、個室四つの内二つは病人の杏奈と異星人のレ・ギレタルが専有し、残る個室は船の持ち主の篤志用と女性用の部屋になっているが、個室はどれも狭く、寝るのが精一杯だ。結局拓たちは日中ほとんどリビングで過ごすしかない。大体15畳くらいの広さに7人。家具もあるし倉庫に収めきれない物資や武器はこのリビングにも置いてあるから実質一人1畳くらいのスペースだ。それでも寝起きは出来るし、これまでの生活を考えれば快適だ。
それに船が動けばエンジンの稼動で電気が使える。
リビングには大きなテレビがあり、DVDデッキも備わっていたので、香港で手に入れておいた映画を見て過ごしたり、音楽を流したり、読書したりして過ごす。リビングの設備は一流ホテル並みだから、居心地は全然いい。ソファーもカーペットもフカフカだ。暇になれば、海に竿を出して釣りを楽しむ。餌釣りではなくルアー釣りで運任せだが、それでも半日竿を出せば何匹か釣り上げることができた。
新鮮な魚が手に入れば、豪快に漁師鍋を作ったり刺身にして堪能する。篤志と杏奈はともかく、拓たちは久しく新鮮な魚など食べていなかったから、これには大喜びだ。何より、こうして魚を食えば食料を節約できる。
現在地は方角と地図だけが頼りだ。GPSも無線も電話もないのだから確認しようがない。その点、宇宙船とはいえ航海士であるレ・ギレタルが星の位置と方向と地図だけで正確に計算してくれた。彼女は篤志との長い航海で、地球の地図と星座は完全に覚えていて、頼りになった。
こうして4日目が過ぎた日……あるイベントが迫っていた。
陽が暮れて、夜。晩御飯を食べ終わった拓たちはリビングを整理すると、それに備えた。
「時間だ」
拓は全員に合図を送ると、時計で時間を確認して、スマホを取り出した。
そしてスマホのアプリのボタンを押した。
10秒後……周囲の空気がゴーッと音を上げ震えたかと思うと、ポン! という音と共に奴は出現した。
JOLJUだった。
そう、一週間後召還する……その約束の日だ。
今回は事前にJOLJUに知らせている。だから現れたJOLJUも準備万端だった。
出現したJOLJUは、自分の身長よりはるかに大きい、大きなリュックを背負っていた。
「よ! 元気かJOLJU!」と時宗。
「やっふー♪ 時間ほぼピッタリだJO! やってきたJO!」
今回で4回目の召還だ。そして今回は事前に打ち合わせした時間だ。JOLJUのほうも驚かず、相変わらず元気いっぱい間抜けな笑顔を浮かべている。
「計画成功か?」
「バッチリだJO!」
「しっかし……すごい荷物の量だな」
今回JOLJUが背負っているのは、全長80cmはありそうな大型リュックだ。もうJOLJUがメインなのか、リュックがメインなのかわからない。
「祐次からのお土産だJO。幸い今丁度自宅で活動してるときだから色々手に入れやすかったんだJO」
「自宅?」
「NYに家があるんだJO」
「ニューヨーカーかよ。リッチだな、おい」
「米国中色々行きまくってるケド、一応自宅はNYだJO。とりあえず薬とか色々持ってきたけど、コレ観れるかだJO?」
そういうとJOLJUはリュックの中からUSBメモリーを取り出し、それを拓に手渡した。
「これは?」
「祐次からのビデオメッセージだJO。杏奈の診察結果と診断と指示を撮影したんだJO。オイラの伝言やメモだと伝わらないかもって思ったんでビデオにしたんだJO。船におっきいテレビがあったから、そこ使えるかな?」
「ビデオはやるよ」
と啓吾が受け取り、さっそくテレビのほうに向かって作業を始めた。
「僕は杏奈を呼んできます」
と、篤志は双子の姉、杏奈を呼びに行った。
じゃあその間に……と、JOLJUは使い捨ての注射の束を取り出した。
「結核の予防ワクチンだJO。腕に打てって祐次が言っていたJO。後、念のためインフルエンザのワクチンも全員打てって」
これはレ・ギレタル以外全員分ある。全員二種類の注射を受け取った。
「自分で打つ? なんか怖ぇーんだけど?」
時宗が眉を顰める。だが自分の分は自分でやるしかない。ここには医者はいないのだ。どっちも普通に打つだけだから、素人でも出来る。それに結核予防はしておかなければ命に関わる。
「平等に自己責任自己責任。子供じゃないんだから我慢して、さっさと終えよう」
拓は全員に注射を配ると、まず自分が率先して腕に注射を刺した。やはりプロと素人は違う。細い針で使い捨てだったが、思っていたより痛かった。
そして使い終わった注射器はまとめて袋に入れると、JOLJUがそれを回収した。NYのほうで処分するのだろう。
全員が注射を打ち終えたときには、啓吾の準備も終わり、篤志も杏奈を部屋から連れて出てきていた。杏奈はマスクをしていた。
テレビの前に杏奈を座らせて、拓たちは一応用心のため杏奈から1.5m離れてテレビを取り囲んだ。
「始めるよ」
啓吾がそういって離れた直後だ。モニターに祐次の姿が映った。
『元気か、皆。俺は元気だ。一応死んでいない』
現れたのは、紛れもなく祐次だった。
拓たちにとって祐次は一ヶ月ぶりの再会だ。
しかし祐次にとっては、一年ぶりの対面だ。もっとも祐次から拓たちの様子は見えないが。
「あいつ、少し髪伸びたな。元々ロンゲだけど」
時宗は笑う。
時宗にとって祐次は親戚だし幼馴染で親友、そして日本での相棒だ。こうして無事元気な姿を見られた事は嬉しい。
「でも一年だともっと伸びない? あいつ髪、切ってない?」
「なんか小綺麗だよね。祐次ってこんなにいい男だっけ? 元々イケメンだったけど」と優美。
「医者に見えない。芸能人みたい」とレン。
「いい服着ているよ。シャツにちゃんとアイロンがかかっているよね。なんだかすごく清潔だよ」
啓吾も言う。
確かに祐次の服はシワ一つない黒のコットンのシャツで、汚れてもいなし破れてもいない。髪は長いがちゃんとブラシが入っていて乱れていない。
「世話する女でもいるのだろう? 女がいる顔している」
煙草を吸いながら何気にコメントする姜。
それを聞き、祐次を知る日本人は全員顔を見合わせた。
確かにモテる男だったが、女に言い寄られてもホイホイ靡かないし、女の尻は追いかけないし、そんな浮いた話はなかったのが祐次だ。確かにこの祐次からはサバイバル臭がなく清潔な生活感があった。
拓たちにはこんな余裕はない。服だって着たきり雀だ。
「女だな、女。男変えるんだよ、女がいると」
「え? てことはもしかして年上外人金髪グラマー!?」
「時宗。どうして外国人はみんな金髪グラマーだけなの?」
「なんで年上確定?」
「俺たちが着くころにはガキができてたりしてな」
「ノーコメントだJO」
そんなくだらない雑談で拓たちがワイワイ騒いでいる事など関係なく、祐次はすぐに杏奈の病状について説明をはじめる。
現在の杏奈の結核の症状は中期。ドイツの頃より少し回復している。投薬と栄養と休養を取れば心配はいらない。秋までに軽度まで回復させる。体力をつけて投薬を続けて、インフルエンザや風邪で肺炎を起こさない限り半年ほど日本で療養すれば完治する。
祐次の計算では五ヶ月ほどで日本に到達すると思っていたから、薬が足りなくなるのは当然だった。実際は9カ月ちょっとだ。結核は完全に体内から菌を滅ぼさない限り完治しないし、栄養不足や薬不足で回復していてもすぐに悪化する。
『ビタミンとタンパク質補充のため、毎日ビタミン入りプロテインを飲むこと。JOLJUにプロテインと粉末ビタミンを持たせた。毎日200ccコップ1杯。日本について、もしドラッグストアに行く事があったら青汁も混ぜて飲むんだ。フレーバーはオレンジとチョコとコーヒーがあるから飽きないと思う。栄養ドリンクで割ってもいい。食事だけでなく、色々な方法で栄養を採るんだ』
「いいなー、コーヒー味! 私も飲みたい」と優美。
「病人優先」と拓。
「分かっているわよ。言っただけ」
容態を安定させるための注射が5本。とりあえず体内の結核菌を殺すための点滴が500cc分。当面一日一回、集中的に行う。そして飲み薬は30日分用意したが投薬治療は最低半年。祐次は飲み薬の名前を挙げて、日本の病院に行ったら手に入れるように言った。薬についてはJOLJUがメモでも預かっているし、新しく作成した診断カルテと薬の指示書も預かっている。
『後は前島さんに引き継いでもらってくれ。紹介状とカルテは書いた。あの人は内科専門だから大丈夫だ。口煩いが悪い人じゃない。女の子には優しいしな』
これで杏奈の診察は終わりだ。
それからは、祐次は拓たちの健康管理についての話をして、病院や薬局にいったら集めておくと役に立つ薬や医療器具を説明し、簡単な外科の応急処置を解説した。
JOLJUはリュックから、基本的な風邪薬、消毒液、血液凝固剤、抗生物質、縫合道具一式、包帯、使い捨てマスク30個、米国御用達万能ダストテープを取り出して置いていった。
と、そこで一旦JOLJUはビデオを止めた。
質問タイム、という事になった。
「連絡」1です。
第四章スタート!
スタートは拓編短編です。
第四章は
拓編→エダ編→拓編外伝→拓編→エダ編
です。
とはいえ65%くらいはエダ編です。まぁ拓たちは日本に戻ってくると、治安的には危険はなくなりますしね。
今回、拓編で祐次登場!!
つまりこの瞬間だけエダ編とクロスオーバー!!
さらっとやっていますが、注目点はエダ編の半年後という点!
ということは……エダ編でNYの危機が描かれますが、NYは壊滅していなくて、祐次もエダも生きているということが、実はこの話でバレてしまっています。
「AL」という作品にはこういう作中ネタバレがいくつかある(大体「黒い天使」で公言されていたり)けど気にしない作品です。
ということで、祐次が拓に伝える重要な話とは?
これからも「AL」をよろしくお願いします。




