「船出」2 第三章最終話
「船出」2
チェン・ラゥと会話する拓。
そこには驚きの情報が。
改めて、拓はこの世に運命がある、と思わされた。
そして、ついに拓たちは日本への航海に!
***
チェンと拓の堂々とした態度によって、この場に危険はない……と知らしめている。
チェンは楊を一瞥した。手下たちが楊を連行しようと詰め寄る。それを拓は制した。
「Please forgive Yang's sins. Don't kill him. (楊さんに手を出さないで欲しい。殺さないでくれ)」
「He planned to kill me. I'm a traitor. He will be sentenced to death. (彼は裏切り、私を殺そうとしたのだろう? ならば死ぬしかない)」
「We have stopped the assassination. Exile him from the wait. The handgun he has is a gift from me. It is needed for selfdefense.(俺たちが止めた。追放にしてやってくれ。拳銃は俺たちが彼に渡したギフトだ。護身用のため持たせてやってくれ)」
そういうと拓は懐から一枚のメモを取り出し楊に手渡した。それは<新世界>への紹介状だった。あそこであれば拓たちの頼みは聞くだろうし、<香港>の管轄の外だ。
一瞬、チェンの顔から笑みが消えた。
だがすぐにいつもの笑顔に戻り、頷いた。この瞬間、楊の処罰は決まった。
「You have saved my life. Is that true? (君たちは命の恩人、といったところかな?)」
「We only love peace. (ただ平和が好きなだけです)」
「Peace ……very favorite word. Are you going to Japan? (平和か。いい言葉だ。君たちは日本に旅立つそうだな?)」
「Yes. We have a reason to travel. (ええ。目的があるので)」
「Are you looking for a <hero>? (<英雄>を探しにかね?)
日本人、英雄、違う?」
「なんだって? どこでそれを?」
思わず拓の口から日本語がこぼれた。
チェンはニヤリと笑った。
「老人言った。『この世界を救うことが出来る日本人の英雄が世界のどこかにいる』と。こうも言う。『その英雄を探す人間が世界中にいる。主に日本人たちである』と。君たちは、<英雄>ですか?」
なんと……チェンは日本語を喋れた。
やや外国人訛りでナチュラルではないが、日本語だ。
日本語に切り替えたのは、この会話は拓だけに聞かせたい、という事のようだ。
このチェンも、<BJ>に会っている! チェンの言う『老人』とは、自分も会ったあの<BJ>に違いない。
拓の驚いた表情を見たチェンは満足気に頷いた。
「你是我的同志 (どうやら君は同志のようだ)」
そういうとチェンは静かに右手を差し出した。
「私、ここ、いる。<英雄>探すのできない。だけど面白い話です。貴方たちは<英雄>を探す。私の代わりに応援したい。今回、命助けてもらった。老人にも助けてもらった。ならば君たちを助けます」
「じゃあ軽油が欲しい。それが手に入ったら、すぐにでも旅立つ」
「今夜1000L用意する。OK?」
「ありがたい。受け取ったら出て行くよ」
「君たちの旅、成功を」
二人は手を握った。
「貴方も、平和を忘れないで。世界が救われるまで頑張ってください」
「<英雄>を見つけたら、私にも連絡があると嬉しい。会ってみたいです」
「手紙を書きますよ」
最後の会話はむろんジョークだ。この世界で手紙を書いても届くことはない。
二人はもう一度強く手を握り合うと、ゆっくりと離れた。
こうして香港の最後の演奏会は終わった。
<香港>の組織の人間が住民たちに中国語で何か告げていた。多分、これが最後であることや日本人たちが去ることを言っているのだろう。もう拓たちはその事に興味はない。
篤志の周りに、時宗たちも集まっていた。
「よう。上手くいったか?」
「ああ。今夜軽油をくれるそうだ。それで今夜にも出発しよう。1000Lもあるなら、一気に沖縄を目指す」
この香港は敵地ではないが、滞在すればその分滞在費を消費する。食料はたっぷり手に入れたが、それでも精々12日……節約して15日だ。船のプロはいないし衛星や通信機器も使えないから、一つのミスでも大変な事になる。何かトラブルがあっても救助は呼べない。
「命懸けね。ま、分かっていたけどさ」
優美はため息をつく。
いざ出発となると不安がないわけではない。距離は短いが外洋航海だ。
「心配ないさ。1500年前は大きな木造船で中国から日本にやってきた。その頃よりはいい船だ」
「僕の記憶だと生存率50%だったけどね」と啓吾が皮肉る。
「陸を進んだほうが危険だし、どっちにしても海は渡るんだ」
「覚悟しようぜ、皆。楽しい航海になるよう祈ろうぜ」
そういうと時宗は海のほうを見つめた。
「祖国に帰ろうぜ!」
「ああ、日本に帰ろう。それで……ようやく……ゼロ・スタートだ」
そう……日本に帰ることが最終目的ではない。
北米に渡り<ラマル・トエルム>を探す。
そっちのほうが大きく困難な旅だ。危険も桁違いで、本当に命懸けだ。
そして全員が行くわけではない。
今のところ、この無謀で馬鹿馬鹿しい冒険に参加する意志を持っているのは拓と時宗だけ。他は全員日本までだ。
しかし、それでいい。
今は日本に向かおう。
少なくとも、拓たちは貴重な経験をした。そして<ラマル・トエルム>という存在を知り、この世界にまだ希望があることを知った。
希望があるのならば、生きる価値がある。
「帰ろう。伊崎さんたちが心配しているだろうし」
「そだな。後のことは日本で考えようぜ」
「ああ、行こう」
拓は仲間たちの肩を叩き、歩き出した。
仲間たちもそれに続く。
拓たちが香港を出発したのは、明け方近くだった。
空は晴天……海も穏やかだ。
だが、拓たちの困難な旅はまだ始まったばかりだ。
「船出」2でした。
ということで第三章終了です。
実はチェン・ラゥさんは<BJ>に命を助けられていた!
もちろん拓たちの爆発ではなく、別の理由で瀕死になったとき<BJ>が助けたのでしょう。ということには世界中でももっと沢山の「英雄見つけろクエスト」を受けた人間がいるのか?
そして! 拓たち、ついに船を手に入れ日本に向かう!
まぁ素人の航海ですが、ぶっちゃけ近いですし、船は大きいですし、篤志君は一年航海してなれてますし……日本にいくことはそんなに苦労はないです。
ということで、実は第四、第五章は拓ちん編はいつもより短く、エダ編がメインになります。
といいつつ、第四章の第一話は拓編ですが。
第三章まで来ました!
まだまだ本編は続きます。まだ実は半分もきていません。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




