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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
三章エピローグ拓編短編
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「船出」1 第三章エピローグ

「船出」1



三章最後に拓香港編の出発編。

篤志の演奏会。そこでちょっとした事件が。

だが全て拓の計算の上だった。


***



 香港 尖沙咀 スターフェリー乗り場。


 その夜の演奏会は、ちょっと赴きが違った。



 これまでは少年のヴァイオリンと女性の歌い手だけだが、この日は数人の日本人が共にいた。


 それだけではない。


 この日、特別なゲストがあった。


 <香港>の組織の人間が大勢来て、一角を占拠していた。そのため観衆たちの間にも緊張感があった。


 日本人……篤志が挨拶し、演奏会が始まった。


 素晴らしいヴァイオリン演奏だ。


 他の日本人も、英語で歌う。曲は誰もが知っている陽気で美しい歌ばかりだ。

 演奏会は、大体1時間ほど続いた。


 最後の曲を弾き終わった篤志は、静かにヴァイオリンを置くと、一礼した。


 すると、篤志の傍にいた一人の日本人……拓が一歩前に進み出た。



「everyone. Thank you for coming to the concert today. (皆さん。今日は演奏会に来てくれて感謝します)

I ’ll let you know. The last concert is today. We will go on a trip tonight. (皆さんにお知らせします。演奏会は今日が最後、俺たちはここを出て行きます)」


 香港の住民だ。英語が分かる人間は多くいる。皆思わぬ展開に戸惑う。


 拓は手を上げて皆を静めると、話を続けた。


「Since this is a special day, we invited people from <Hong Kong> organization. We are glad if you are pleased. (今日は特別な日なので<香港>のメンバーも招待しました。楽しんでもらえていれば嬉しく思います)」


 すると<香港>組織の一団の中から、一人の男が、拓の言葉に応じて手を上げた。背はやや低く小柄な40代の男だ。この男が<香港>のリーダーだった。


「I hope everyone enjoys the concert. It's a very difficult time, but I'm glad if you want. (今はひどい時代です。この演奏会で、少しでも皆の気持ちがよくなれば俺たちは満足です)」


 拓は、群衆の中にいる一人の男……楊を指差し、手招きした。


「He is Yang, who was taken care of in this land. He is a very nice man. (彼はヤン、俺たちの世話人で、とても世話になった、いい男です)」



「…………」

 楊はニコニコと微笑む。


「The last concert was done to thank the boss of <Hong Kong> and everyone. (この最後の演奏会は、彼から<香港>のボスと、住人皆さんへの感謝の印しです)」


 そういうと、拓は振り返った。


「This is the last song."WE ARE THE WOLD" (最後の曲です。「WE ARE THE WOLD」!)」


 拓は手を叩く。


 篤志は再びヴァイオリンを取ると弾き始めた。


 そして周囲にいた時宗、優美、啓吾も一緒になり、四人で「WE ARE THE WOLD」を歌い始めた。


 「WE ARE THE WOLD」は有名な歌だ。世界の平和を願った歌だ。そして一人の歌手が歌うのではなく、米国の有名なアーティストが皆で集まり合唱する曲だ。


 拓たちの合唱が、埠頭に響き渡る。

 けして一流ではないが、皆精一杯歌った。


 そしてそれが歌い終わると……これまで無言で笑みを浮かべるだけだった<香港>のボスの男が無邪気に手を叩いた。やがてそれが呼び水となって、辺り全体が巨大な拍手の渦に包まれた。


 その拍手が止んだとき……<香港>のボスは静かに立ち上がると、静かに拓に向かって歩いてきた。


「Be moved. It was a very nice party. I'm Chen Lau (感動した。とてもいいパーティーだった。私がチェン・ラウだ)」


「Taku Nakamura (仲村 拓です)」


「It was a good song. What is the meaning of this song? (いい歌だったが、これに意味はあるのかな?)」


「Peace. We love peace.(平和だ。俺たちは平和を愛している)」


「Peace? (平和とは?)」


「You are the target. It is targeted at this last concert. Someone wants to kill you.

(アンタは上手く誘き出された。この最後の演奏会に。そして命を狙われる)」


「Kill me? Who is planning it? (命を狙われる? 誰に?)」


「Is me. But I do not do that. No problem. What I want is peace.

(俺たちに。だけど心配いらない。俺たちはやらない。俺たちが望むのは平和だ)」


 その拓の告白を聞いた瞬間、楊は舌打ちした。


 楊は思わず懐に隠していたワルサーP99を抜いた。チェン=ラゥが無防備に姿を見せる機会はこの時しかなかった。


 その時だ。


 一発の銃声が鳴り響いた。



「!?」


 ワルサーP99が地面に転がり、腕を撃たれた楊がその場に蹲る。


 狙撃だ。


 このフェリー乗り場の向かいのビルに、暗視スコープ付きのライフルを持った姜が密かに潜んでいたのだ。そして楊と<香港>、双方の動きを監視していた。拓は全て予期していたのだ。


 突然の狙撃劇に騒然となる<香港>の組織の手下や住民たちを、拓たちは「大丈夫!」と身振りで静める。


 さすが大物は違う。チェンも拓たちに殺気がないことを知り、手下たちを鋭く叱責し武器を下げさせた。



 一瞬騒然となった現場が、再び落ち着いた。


 元々の話は違う。


 拓たちがチェンを殺す計画だった。


 この演奏会は<香港>の組織が目を光らせていて、武器の有無もしっかり見張られている。だが演奏する篤志たちは無警戒だ。そして最後の演奏会ということであれば、普段は中々姿を見せない<香港>の首領チェン=ラゥも姿を出すだろうと楊は踏んだ。そして予想通り現れた。暗殺して<香港>の組織を乗っ取り、拓たちに罪を被せて追放する……それが楊の計画だ。


 だが拓は、楊には従わない事を皆に打ち明けた。


 しかし断らなかった。断れた楊は口封じに自分たちを殺そうとするだろう。だから拓たちは一計を講じた。


 実は<香港>との窓口は楊だけではない。レンが別の幹部を知っていた。だからそのルートで密かに拓はチェンたちと裏で連絡を取り、この狂言を仕組んだ。


 内密に楊を始末させず、わざわざこんな大げさな事件を巻き起こしたのは、楊の命を守るためだった。



 拓は楊の命も助けたかった。



「船出」1 でした。




三章のラストシリーズです。

とはいってもエピローグ的シリーズで、前・後編の2部しかありません。

三章拓編で楊がもちかけたのが、暗殺の依頼だったわけです。そして今回<香港>のボスであるチェン・ラゥさんが登場していますが、実は! この人「黒い天使」にも出てくるキャラです。主人公・主役格のぞいた、初の「黒い天使」とクロスオーバーしたキャラ登場です。どこで出ているかと説明すると実は壮大なネタバレの一端が知られるので秘密デス。


ということで次回は後編。

ついに拓たち、香港脱出! それで三章終了です。


これからも「AL」をよろしくお願いします。


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