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AL地球侵略編  作者: JOLちゃん
第一章・エダ編
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「転がり始める危険」1

「転がり始める危険」1


遺体の埋葬。

それは多くの危険を伴う行動。

しかし雨が幸いし、うまくいくかに思えたが……

段々計算が狂い、ついに被害が出た。

そして窮地に陥る子供たちだが……。

***




「あのままほってはおけない。セナリー先生は皆にとって大切な教師だし、ウォルターやメリーアンたちは大事な友達で、僕の生徒だ。このまま捨てておけないだろう」



 フィリップ=パミロがそう皆に提案したのは15時を少し回ったときだった。


 賛成ではないが反対もしなかった中立がトビィとバーニィー。

 反対したのはエダとジェシカと12歳のデービット=デッグス。

 残り9人は賛成だ。


 当然、賛成に投じた子供たちは反対したエダとジェシカを猛然と非難した。特にエダへの反感は強い。元々余所者だということが余計に子供たちの感情を激化させていた。


 エダは余所者扱いに心が張り裂けそうなほど辛かったが、それでも「危険は侵せない。もっと友達が死ぬのは嫌!」と自説を曲げなかった。勿論祐次の警告があったのも理由だ。下手をすれば全滅の危険だってある。



「全員エダを責めちゃ駄目だ。彼女の言葉も正しいんだよ」


 フィリップはエダの見解の正しさを認める。


「だけど、僕はやっぱりウォルターたちをあのまま放ってはおけない。これは僕の判断だ。それで納得してくれるかい?」



「ただ収容するっていうんなら俺も賛成しない。そこはエダと同意見だ」


 この件については沈黙していたトビィがようやく口を開いた。


「プランはあるのか? 先生」

「エイリアンに見つからないよう、一気に出て一気に回収する。それが一番いい」

「良くないよ。それならやらないほうがいい。この中で遺体を触ったことがある奴はいるか? 遺体はもう人じゃない。ただの肉の塊だ。血が流れたっていったって一人30キロ。一人で運べるのは俺たち14歳組の男子と先生だけ。つまり7人を収容しようとするなら二人で一人を抱えて、ようやく運べるんだ。14人いて足りるか? 静かに出来るか? 警戒や護衛が必要ないならできるだろうけどそこはどうなんだ? 拳銃はともかくライフルやショットガンを持って遺体を運ぶなんてできないぜ?」


「それは……そうかもしれないが」


「あとのB棟には収容できない。上限12人の小屋に今15人いるんだぜ? どこに寝かせる? そんな場所はないよ」

「収容するならC棟ね」とジェシカ。「7人分の毛布もあるし、ベッドもあるし」

「遺体は……腐敗するから衛生面も考えないと」とバーニィー。


 そう、遺体は腐る。夏場ではないから一日くらいはどうもないかもしれないが二日にもなれば匂ってくるだろう。

 これがただの事件であればいい。だが今世界は崩壊し政府や警察がやってきて収容してくれる見込みはない。



「だったら……埋葬するほうがいい。違うか? 先生」

「確かにそうかもしれないが、穴を掘るなんてとてもできないぞ?」

「穴は掘らず、土を持ってきて上からかける。ひとまず簡易的にするだけで、落ち着いたらちゃんと

埋葬しなおす。ログハウス裏のアスレチック・エリアに砂場がある。そこで土を取ってリヤカーで運ぶ。それなら最低限の人数だけでできるかもしれない」


 リヤカーは管理小屋の横に三台ある。あそこまでいけば取りにいける。


「外のエイリアン……ALは、今のところ湖面近くと森にいる。作戦を三段階にして、一つずつクリアーすれば先に進む。一回でも頓挫したら止める。まずC棟に行って毛布を7つ取ってくる。第二段階でリヤカーを取って来る。それがクリアーしたら、埋葬を実行する」


 トビィは周りを見回した。皆異論はない。

 埋葬というより、これ以上友達の無残な遺体を野ざらしにしたくない。だからせめて視界から隠そう……それがトビィの真意だ。視界に常に遺体があるという状況は皆の精神が参ってしまう。


「ついでに管理小屋で携帯トランシーバーも取ってこよう。それで連携できるし安全も確認しながらできる。どうだい、先生」

「わかった。それで行こう。人選は僕が決めていいかな?」

「男女差別はしなくていいが、エダは外す事」

「え?」

 と顔を上げるエダ。

 だが、すぐに当然だと気づく。エダしか祐次の窓口はいないし、基本13、14歳組から選抜するから11歳のエダは選外だ。



「エダは残る皆の面倒を見てあげて」

 とジェシカも立ち上がった。この中で14歳から選ぶとなればジェシカは当然その中に入る。


「決まりだ」


 そういうとトビィはポケットの中に入れていたスタームルガーSP101をジェシカに手渡した。





***




 何もしていない時間が耐えられなかったのかもしれない。

 何かをしていたほうが気は紛れるし、その間不安や恐怖を感じないで済む。

 たとえその結果に後悔することになったとしても。



 まず、最初にB棟を出たのはジェシカ、ロドリー、マイルズの三人だ。C棟は女子用だからジェシカが案内役だ。


 ログハウスB棟の玄関前でトビィ、二階でバーニィー、裏をフィリップが見守る。銃を持っているのはこの三人とジェシカだけだ。


 エダはログハウスの二階から、静かに見守っている。


 トビィが観察していた通り、ALはC棟やその奥にあるアスレチック・エリアにはおらず、距離もそう離れていない。幸い三人は見つかることなくC棟に行くことができた。


 そこで7人分の毛布を男子のロドリーとマイルズが背負い、ジェシカは大きなリュックを背負い拳銃片手に警戒しながら出てきた。ジェシカはC棟にあった非常用食料をリュックに詰めてきたのだ。


 三人は無事戻ってきた。ここまではいい。 


 第二段階から危険は増す。


 トビィ、ジェシカ、カイルの三人が管理小屋を目指し、その間ショットガンを持ったフィリップがそっとB棟を抜け、他の子供たちと連携しながら無残な姿となった遺体を毛布で包んでいく。今度はALの徘徊エリアに入る。少しでもALが反応すればその場に伏せる。



 祐次の忠告……「音、動くものに反応し襲ってくる」の通り、動かず認識されなければ反応しない。眼の仕組みが違うようだ。



 僅か120mの距離を10分ほどかけて、なんとかトビィたちは管理小屋に無事辿り着いた。


 トビィが一人中に入って小型携帯トランシーバー3つと大型シャベルを手に入れ、十分様子を伺いながら小屋横に並んでいるリヤカーのところに行き、ゆっくりとそれをアスレチック・エリアに運ぶ。



 フィリップのほうも遺体を毛布で包み終え、一旦B棟に戻ってきた。体は霧雨ですっかり濡れている。だが体を拭っている暇はない。今ALが裏手のほうにいないのを確認すると、トビィたちの援護のため、13歳のライアン=ストーンをトビィたちのサポートに走らせた。


 ここからは慎重を要するし、連携も体力も使う。7人を埋めるにはリヤカー三台分では足りないから、リヤカーは往復しなければならない。


 まずリーダーであるトビィが最初にリヤカーを押してB棟近くまで行き積んでいた土を遺体の傍に下ろす。そして近くで待機していたフィリップにトランシーバーを渡し、戻っていく。



「5往復くらいは必要だぜ」

「気をつけなさい」


 トビィはゆっくり戻っていく。フィリップは周囲をよく警戒し、デービット=デッグスを呼んで二人で土をかける作業に入った。


 皆エイリアン……ALの襲撃が怖い。全員が360度全方向を見て警戒している。



 エダは、森の中を徘徊するALを見つめた。


 そこからアスレチック・エリアまで80m。人間の眼だと十分トビィたちが視界に入っている。が、ALは気づく様子はない。



「眼が違うんだ。視力がいいわけじゃない」

 エダはそっと呟く。


 祐次は「動くものと音」と言っていた。今トビィたちが気づかれていないのは小雨がその気配を殺してくれているからかもしれない。祐次も「雨のときは活動が弱まる」とも言っていた。今の状況は条件としてはいい。


 しかし雨は何もいい事ばかりではない。

 雨に打たれ続けるトビィたちの焦燥は高まるばかりだ。


 そして「奴らからは見えていない」という事が、次第に子供たちを大胆にし始めた。


 誰かがB棟の倉庫から2本のシャベルを発見した。


 するとバーニィーの制止を振り切り、4人の子供たちがそれを持ってフィリップのところに駆け寄った。そして周囲の土を掘り、遺体に掛け始めた。


 驚いたのはトビィとジェシカ、そして二階でそれを見ていたエダだ。



「作戦変更だ! 次運んだら、俺たちもあっちで土を掘る!」

「気づかれない?」

「フィルのモヤシがガキ共をちゃんと制御できるものか!」


 トビィの心配した通りだった。


 無残な友人たちの悲惨な姿を目の当たりにした女の子が、思わず悲鳴を上げ泣き出してしまった。それがすぐに周りの子供たちに伝播し、一瞬だけだが騒然となった。



 ほんの僅か……ちょっとだけ声が上がっただけだ。



 だが連中はその声を聞き逃さなかった。



 周囲半径300m……その範囲内にいたAL凡そ20体が、一斉に反応した。テレパシーでもあるのか、全て同時に、だ。連中は人を殺すことだけを生き甲斐にしているような殺人のプロフェッショナルだ。

 他には目も暮れず、B棟前方40mのところに集まっている人の群れ向かって駆け出した。


 それが、二階で監視しているエダの目に飛び込んだ。


 駄目だと分かっていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。




「エイリアンが来てる!! 逃げて!!」



 エダは叫ぶ。その声は前方のフィリップたちにも、トビィやジェシカにも聞こえた。


 トビィは舌打ちすると、リヤカーを捨て、ズボンに押し込んでいたコルト・キングコブラを抜く。


「馬鹿教師っ!!」


 こうなるから一人でやれ、と言ったじゃないか! 


 結局現実をちゃんと理解しているのはトビィとジェシカとバーニィー、そしてエダだけだ。



「トビィ!! こっちも来るよ!!」


 ジェシカは背後のアスレチック・エリアを指差した。

 さっきまでいなかったのに、そこには3体のALが姿を見せていた。もう連中はトビィたちを認識したのだろう、まっすぐこっちに向かってくる。


「カイル! ライアン、B棟まで走れ!!」


 もう身を隠していても仕方がない。ここからB棟まで100mはある。今は武器を持たない二人を帰らせることが先決だ。


「カイル! 馬鹿教師とガキ共にログハウスに戻れといえ!」

「お前はどうするんだよ!!」

「いいから行け!!」

 そういうとトビィは走るのを止め、銃を両手で握り構えた。


「ジェシカ! お前は周囲を警戒しろ! 10秒くれ!」


 トビィは銃を構えた。もうALは30mくらいまで迫っている。

 トビィは大きく息を吸い、そして呼吸を止めた。

 引き金を引いた。

 357マグナムは発射された。そして見事迫るALの胴を撃ち抜いた。

 続けて他の2体にも照準をつけると、トビィは撃つ。4発撃ち、残る2体も仕留め破裂させた。


「やるじゃん! トビィ! あんた、銃が使えたの!?」

「保安官助手の息子舐めンじゃねぇー。マグナムからAR15まで射撃訓練は一通りやったよ」


 そういうとトビィはシリンダーの弾を交換する。残った一発だけを掌に残し、撃ち終えた弾はその場に捨てた。そして二人は走り出す。


 だが、B棟の前はすでに修羅場と化していた。


 AL2体が飛び込み、瞬く間にロドリー=ペップを切り刻んだ。それを見た子供たちは悲鳴を上げ、フィリップは声を上げながらショットガンを放つ。しかし普段銃など触らない学校教師がいきなり反動もきついショットガンを落ち着いて使うことなど無理な話で、全然ALを撃退できない。逃げ戻ろうにもログハウスとの間に入り込まれ戻ることも出来ない。バーニィーも接近するALをライフルで狙撃し、なんとかここにこさせないよう奮闘する。だが普段銃を触ったことのない人間がいきなり動く標的を撃つことは不可能だ。ましてやALは非常に敏捷ですばしっこい。


 そうする間にALの数は増えていく。


 そして当たらない。空しい銃声が、余計に子供たちをパニックにさせた。



 ……駄目だ! これじゃあ全滅する……!



 エダは蒼白になりながら、駆け出そうとした。その時、足元にある無線機を思い出した。




 ……どうにもならないかもしれないけど……!!



 エダは無線機の電源を入れた。


 そして大声で祐次を呼ぶ。


 祐次は待機していたのだろう、僅か5秒で出た。




「ALに襲われています!! 至近距離です! みんなが外で襲われてパニックが起きています!!」



『外だな。侵入されたわけじゃないんだな? 雨は小雨で変わらずか?』

「はい!」

『水を撒け! ALは水に当たれば消滅する!』

「え……?」



 水……というが、今雨の中で暴れているではないか。どういう意味だろう。

 だが祐次は断言する。


『ホースでもスプリンクラーでもなんでもいい。大量の水をかけろ!! それで奴らは死ぬ!』


 考えていても仕方がない。いや、もはや考えているようなときではない。


「はいっ!!」


 エダは大声で返事をすると、そのまま電源を切らず駆け出した。


「転がり始める危険」1でした。



そりゃあ目と鼻の先に友達の遺体があって、それを埋葬するなんて子供たちだけで冷静にはできないですよね。

悲劇はある意味予想できたことでした。

こういう計算狂いが、少しずつ出てきて、そして大きなダメージになっていきます。

エダの行動はどうなるのか!?

ということで次回です。

次回は埋葬編終了と、もう一つのショッキングな事件が起きます。

子供たちの窮地はこれからが本番です。


これからも「AL」をよろしくお願いします。

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