「怒りの祐次」
「怒りの祐次」
制圧した祐次。
そこに現れたのは……ベンジャミンとアリシアだった。
救出にきたがその必要はなかった。
そして最後の始末を行うベンと祐次。
彼らは誰も殺さず命を救う。
***
祐次は改めて右手に握ったヴァトスを見た。
ただのよく切れる剣ではない。
この剣は、使用者が認識した物だけを切る能力があるのだ。
細かく認識する必要はない。鉄の扉を強く認識すれば扉だけ。人体を認識すれば人間だけ。そしてALを認識すればALを斬ることが出来る。
手術にも使えた。
骨だけをイメージすれば骨だけを切れた。メリッサの手術が大きなトラブルもなく成功したのは、この能力によるところが大きい。まず骨を切り、神経や血管の処置をした後に肉を切ればダメージは最小限だ。
さらに<非殺傷モード>もある。これを使えば、切られた相手は強烈な電撃のような衝撃を受け麻痺する。今回スティーブ含めた8人に使ったのは、この<非殺傷モード>だ。
そして刃の大きさも任意で変えられる。
刃渡りは30cmから最大2.5mまで。それもイメージだ。成程、これでALも切れるのであれば使える武器だ。JOLJUが半分反則だと言い、二日もかけて作った理由はよく分かった。地球のテクノロジーでは到底作れないものだ。確かに切る対象をイメージで決められるのならば、狭い宇宙船内でも船体を傷つけることなく振り回せる。地球の科学では到底作れない最新科学の剣だ。
その時だ。倉庫の扉が開いた。
外にいた見張りが戻ってきたのか!?
祐次は自動小銃を構えた。
だが……現れたのは予想外の人物だった。
「お前、一人でこれをやったのか!?」
「ちょっと。……助けなんていらなかったの? ドクター、あんた、もしかしてアメコミ・ヒーローか何かなの?」
姿を現したのは、完全武装したベンジャミンとアリシアだった。二人ともタクティカル・ベストを着け、フルカスタムのM4カービンを持っている。
だが戦闘の必要のない事は一目瞭然だ。
Banditの連中もベンとアリシアの姿を見て、完全に抵抗の無駄を悟った。
二人は銃を下げると祐次のところにやってきて、無事を祝う。
「救援の必要はなかったな。しかし一人でやるなんて信じられんな」
とベン。褒めていいのか、呆れたらいいのか、驚いたらいいのか。
「でもない。ここがどこか分からん。車もないし、どうやって帰ったらいいやら。今更あの連中に送ってくれ、とは言いにくいしな」
時々真顔で笑えないジョークを言うのが、祐次の口癖だ。
「ドクター、無事でよかったわ。でも一人でやっちゃうなんて思わなかった」
「それより、よくここが分かったな。エダとJOLJUが戻ったのか?」
「まだみたい。でもエイリアン君がついているのなら大丈夫なんでしょ?」
祐次は頷く。戦闘の役には立たないが、JOLJUは頼りになる。
「二人で今頃どこかの店にでも行って、晩飯の買い物でもしているよ」
くだらない冗談を叩くくらい余裕はあって、その点は心配もしていないようだ。
「クロベ。後の始末は俺に任せてくれるか?」
「ベン。俺から二つ頼みがある。一つはメリッサのことだ。今日治療して腐った左腕を切断した。手術は成功したが重傷で、妊娠している。術後処置と定期的な検査と経過観察が必要だし、出産は病院でなければ危険だ。彼女が病院に通院することを認めてくれ」
「やっぱり患者はメリッサか」
それを聞いたベンはあまりいい顔をしなかった。
メリッサは言った。
ベンの友人を殺した、と。元々NY共同体にいたが軋轢を起こし追放されてBanditを作った。その話は聞いた。
だが、祐次はもう決めた。
「話は聞いた。だが産まれる子供に罪はない」
メリッサのためではない。生まれる赤ん坊のためだ。こういう点、祐次の倫理観は戦闘者ではなく医者だ。
「分かった。お前には借りがある。で、もう一つは?」
「連中は女性を監禁して慰安婦にしている。助けてやってくれ」
「分かった。後は全部俺に任せろ」
ベンは祐次の肩を叩く。そしてスティーブの前に立った。
「女性はどこだ? スティーブ」
「共同体の女じゃねぇー。俺たちの女だ。お前らのトコから攫ったンじゃねぇーぞ? デラウェアで命を救ってやった。食わせてやる代わりに奉仕でさせているだけだ。俺たちだってSEXする権利はある」
「お前らが仲間内で乱交するのは自由だ。だが生存者の弱みに付け込んでレイプするなんて人のやることじゃない。俺たちで保護する。いいな?」
「そこまで口を出すのは協定違反だぜ? 干渉しすぎだ。そこまで干渉はしないって決めたじゃねぇーか」
「ああ、そうだな」
ベンは頷く。
「だがこれを見て、まだそれが言えるか?」
ベンが右手を上げ、大きく振った。
その瞬間、倉庫の外から無数のレーザーサイトが乱れ飛んだ。
その数は20以上だ。
夜だからレーザーははっきり見える。
ここに来たのはベンとアリシアだけではない。自警団のほぼ全員がやってきていた。そして全員レーザーサイト搭載の自動小銃で武装している。そして全員が自動小銃で中を狙っている。
「合図一つで銃弾の雨が降る」
これだけの銃に狙われ、Banditたちは今武装がない。到底勝ち目はない。
「お前たちを皆殺しにすれば、協定もへったくれもないぞ?」
「くそ……分かった。連れて行け」
実は、ベンたちは15分前にはこの周辺の見張りを制圧し、取り囲んでいた。だから祐次がBandit相手に無双するのも全て見ていた。
いくらスティーブやBanditたちが無鉄砲でも、レーザーサイト搭載の自動小銃20以上に狙われていてはどうする事もできない。
レーザーサイトは夜間の照準に最適だが、人を脅すのにも最適だ。狙われている事が即座に分かる。
外で監視していたBanditたちもこの方法で降伏させた。
祐次とアリシアが問題の部屋に行き、二人の女性を救出した。狭い部屋に監禁されて、一枚の布も纏わせてもらえず、顔や体にいくつも痣があり、意識は朦朧としていた。まだ20歳前後の若い娘だ。
反吐が出るような部屋の匂いと惨状に、アリシアですら怒りのあまり一度は思わず銃に手をかけたが、なんとか堪えた。
二人は着ている上着を脱ぎ、哀れな女たちに着せると、二人を連れ出した。アリシアは警官だと名乗り、祐次は医者だと名乗った。彼女たちは涙を流しながら自分たちの身に降りかかった悲劇が終わった事を知った。
部屋から出たときには、自警団の人間が数人迎えに来ていた。祐次は彼らに二人の女性を引き渡し、二人の食事と入浴と入院を命じた。
祐次は戻ってきて怒鳴った。
「いいか! 次こんな事をしたら、お前ら全員殺す!! 女をレイプする奴は俺が絶対に許さない!!」
祐次は怒りを漲らせ怒鳴った。
その迫力は、ベンジャミンたちですら恐怖を感じるほど凄まじく、本気だ。反論しようものなら、飛び掛って八つ裂きにしかねないほど凄まじい殺気だ。
連中は完全に萎縮した。
ベンジャミンが連中を睨む。
「お前たちの仲間にできないのならばウチの共同体に連れて来い。人を殺すな、犯すな」
「…………」
「医者が必要になったら病院に来い! 非武装なら俺が責任を持って受け入れてやる! それが医者だ。医者に敵味方はない! 俺は金も取らないし見返りも求めない! 赤十字の精神くらい知っているだろう!? その代わり二度とエダに手を出すな! 女を犯すな! 平和に暮らしている人間に害を与えるな! お前たちの生き様までは否定しないが、病院では俺がルールだ! 従えない奴は勝手に野垂れ死にしろ!!」
祐次は言い捨てると出口に向かって歩き出した。もう祐次はここの連中に興味はない。
この男は怒らせてはいけない。間違いなく次は殺させる。その場の全員がそう思った。
「俺としては、そこまで寛大な気持ちになれないが……ドクターがそういうのならば、認めよう。病院は解放する。いいな、スティーブ?」
「ああ。好きにしろ」
「今回特別サービスだ。NY共同体に移りたい人間がいるか? いれば連れて行く」
ベンの提案に、Banditたちは動揺した。そして7人ほどが静かに前に出た。その中にはニックとコリーン夫妻の姿もあった。二人は今回スティーブに殺されかけた。もうこの連中に対する仲間意識を失ったのだろう。それにNY共同体の存在を知らず、仕方なくBanditと一緒になった人間もいる。
「勝手に出て行け」
スティーブはそう言い捨てると、面白くなさそうに床に寝転んだ。どうせ体は動かないし、銃も取り上げられた。
「怒りの祐次」でした。
後(「黒い天使」にて)の<死神捜査官>を彷彿とさせる祐次の怒気!
祐次は一見クールですが、ワリと感情的で、怒りだすと徹底的です。祐次がキレると相手が悪なら徹底的にやります。元々それくらい正義感が強いキャラです。ただちょっと公平的ではなく自己中心的判断ですが。
そして逆鱗の中にさらっと自然にエダが入るくらい、祐次にとってエダは特別な人間になっています。
前回エダは祐次に恋していると自覚しましたが、祐次にとってもエダは特別なわけです。
こんなカンジで、当人たちはそんなに自覚はないですが、相思相愛なワケですね。
ということでBandit編も解決です。
が
この後、祐次にもエダにも驚きの急展開、本当のクライマックスが待っています。
第三章クライマックス真っ只中!
ということでこれからもお楽しみに!
これからも「AL」をよろしくお願いします。




