「誘拐事件」エダ編
「誘拐事件」
誘拐されたエダとアリシア!
目的は祐次と食料!
つまり医者と強盗だった!
Banditとは何なのか!?
対応するベンジャミンも、怒りを隠せない。
***
NY マンハッタン。
「…………」
祐次は険しい表情で二丁の拳銃と一枚の紙片を睨んでいる。
一丁はエダのHK USPコンパクト。もう一丁はアリシアのM1911カスタムだ。
戦闘の跡や催眠ガスのようなものはないし血痕もない。
恐らく敵は一人ではなく武装した複数の人間だ。それも4、5人ではなく10人以上いたはずだ。圧倒的な数の銃を向けられて取り囲まれ、抵抗することもできず投降したのだろう。アリシアもエダがいては無理な応戦はできなかったに違いない。
遭遇ではない。計画的な犯行だ。
本来ならエダとアリシアの銃を持っていくはずだ。残していったには理由がある。
銃の傍に汚い字で書きなぐったメッセージカードが残されていた。
『女二人は誘拐した。こっちの目的は医者だ。14時、無線回線6で連絡する。ベンを出せ』
「…………」
目的は祐次だった。だがいなかった。だから二人を誘拐した。
「祐次、ごめんだJO。まさかこんなことになるなんて」
「お前のせいじゃない。俺のミスだ。二人だけにした」
マンハッタン南部は危険だと聞かされていたのに……不用意に二人を連れてきてしまった。祐次の判断ミスだ。
祐次はメモをポケットに入れた。
「連中の用があるのは俺だ。しばらくは危害を加えないはずだ」
「オイラに出来ることはなんでもするJO! 許せないJO」
今時間は午前10時過ぎ。連絡がくるまで時間がある。
……少なくとも医者が目的なら、俺が出て行くまでは無事だ……。
そう思わなければ、この怒りと不安を抑えることができない。
***
コロンビア大学前 自治組織<リーダーズ>本部 14時04分。
無線連絡は予定時間を4分過ぎた時、かかってきた。
この部屋にいるのはベンだけだ。他の人間はいない。
『ベンジャミンか? 元気かい』
「ああ、元気だBandit。その声はスティーブだな」
『人を山賊呼ばわりするのはいい趣味とはいえねぇーな。俺たちゃ山賊でも強盗でもねぇ。自由な米国人魂を持つ開拓者だ。自由を謳歌する本当の米国国民だぜ?』
ベンは渋い表情で煙草を噛み、火をつけた。
「アリシアと俺たちの可愛い11歳の看護師の少女を誘拐する連中がBandit(山賊)じゃないって? 笑わせるな」
『二人は無事だ。貴重な<お客さん>だからな』
「大事に扱え。俺たちを本気で怒らせるな?」
『こっちも色々大変なんだ。これから冬になるっていうのにエイリアンは多いし食い物は少ねぇ。飢え死にしたくないんだよ』
「忘れたか? 犯罪には妥協しないといったよな?」
『マンハッタンの南地区は俺たちの縄張りだ。そこにやってきて偉そうに』
「調達をしにいったわけじゃない。それに、ルールは<イースト・ヒューストン・ストリートの南は寝床として認める>だ。お前たちの領土にするという話じゃない。それに誘拐や殺しは認めない」
誘拐や殺人を認めれば、連中は物資探しではなく人攫いを生業にする。そういう不逞行為はしないし<リーダーズ>もそういう取引には応じない、と最後に話し合ったとき決めたルールだ。
『じゃあ、この話はこれで終わりにするか? ベン』
「いいかスティーブ。お前のクソ頭でも分かるように言ってやる。まずアリシアは俺の大事な相棒で<リーダーズ>のNo2だ。そしてもう一人の11歳のお嬢ちゃん……エダ君は、ここに滞在している医者の坊やの相棒で、貴重で優秀な看護師だ。二人とも特別な存在だ。価値は分かるな? だからよく聞け。指一本触れてもかすり傷一つつけることも許さん。俺を本気で怒らせるな?」
『じゃあ今回は特別に取引が出来るって事だな? ベンジャミン』
「……言ってみろ」
『トラック一台分の食料だ。ビールやガソリンも欲しいな。食い物は贅沢いわねぇーが肉は欲しいな。軽トラックじゃねぇーぞ? 宅配トラック分は用意してもらう』
「それで二人は返すんだな?」
『それでアリシアを返す。アリシアにはそれくらい価値があるだろ? アンタの相棒だ。あんまり安いとアリシアに失礼だろ? いい女だし、高い値をつけるのは、俺たちなりにアリシアを評価しているってワケだ』
「女の子は?」
『絶世の美少女だよな。俺も思わずガン見したぜ。そりゃあちょっと幼すぎるが、あれだけ上等な娘なら全身舐めまわしてみたいぜ。出来立てのチーズのように溶けてなくなりそうで美味そうだ。知っているか? すごく甘いミルクとハーブの匂いがするんだぜ? 髪もサラサラで埃一つねぇー。ベジタリアンでも、あれだけ上等な仔牛を見たら我慢出来なくて食いつきたくなるぜ。安心しろ、壊すのが勿体無くて、今はまだ手は出してねぇーよ?』
「彼女に手を出してみろ。お前たちを殺す。俺だけじゃない。自警団は全員あの娘のファンだ。それ以上にお前たちを抹殺したがっている男がいるからな。言っておくが強いぞ」
『その医者の坊やを寄越せ。医薬品と医療具を持たせろ』
誘拐の話を聞いた瞬間、ベンはすぐにそれを思った。
この世界で優秀な医者は美女より貴重だ。
メモにも医者だとあったが、どうやら本気で医者を求めているようだ。
本当は現場で祐次を拉致する予定だったのだろう。だが祐次とJOLJUはUFOの中にいて連絡も取れず、連中では中に入れない。
「病人がいるならコロンビア大学に連れて来い。治療するには施設もいる。特別に診察してやる。金も取らん」
『あいにく病院は嫌いでね。往診を頼みたいわけだ。お前たちが偉く可愛がっている別嬪の看護師ちゃんは、その医者が来たら返してやる』
「保障は?」
『信じろ』
「…………」
何を信じろというのか……自警団の目の届かないところで強盗を働いたり女性を攫ってレイプするような連中だ。
だが今回ばかりは交渉を続けるしかない。決裂すれば連中は二人を殺す。
「分かった。すぐに用意する。時間を言え」
『2時間後だ。ハウストンストリート・ブレイラウンドの北側。2ndアベニューに持って来い。トラックは医者の若造に運転させろ。ベン……お前たちの姿が一人でも見えたり、盗聴器や発信機の類を見つけたら、ガキは返さない。死ぬまで俺たちの奉仕をさせる。分かるよな?』
「了解だ」
ベンは煙草をテーブルで押し消す。
「これだけは覚えておけ。今回は特例だ。何故なら、アリシアはともかくエダ君は厳密にはこのNY共同体の住人じゃない。だからルール外として今回だけは要求に従ってやる。だが次はないぞ? アリシアもエダ君も、何かあれば俺たち3000人全員がお前たちの刺客になると思え!」
『OK。あんたはいいリーダーだ』
「念を押しておく。アリシアは俺の相棒だ。重要性はいうまでもない。そしてエダ君は重要な看護師だ。子供だが医者の坊やの助手ができるのは彼女しかいない。彼女に手を出せば、お前らが治したい人間の命も助からない。助けたければ彼女に指一本触れるな」
『涎を拭いて我慢していよう』
無線通信は切れた。
事件は、始まった。
「誘拐事件」でした。
第三章エダ編後半部スタートです。
誘拐されたエダとアリシア!
目的は祐次でした。エダとアリシアは祐次が出てこないため連れ浚われたワケで不運なわけですが、元々素直に祐次がついていく保証がないので、誘拐することは規定路線でずっと狙われていたんでしょう。
異星人ではなく相手は野蛮な悪党!
ここは米国なので、武器を持ち野蛮で自分たちが生きるためならなんでもする……そういう世紀末的な連中です。当然世界が崩壊したらこういう連中も出てきます。
なので今回のシリーズは、対人の物語です。
どうなるエダ!?
これからも「AL」をよろしくお願いします。
 




