「山場」1
「山場」1
ついに佳境!
総力戦!
全員で釘付けする優美や篤志やレンや啓吾。
そして地下道を逃げる拓たちの前に、ALの塊が。
完全に行く手を遮られた拓たち。
もはや戦うしかない!
***
香港ディズニーホテル 沖合 120m
漁船の上で、篤志、啓吾、レンの三人が銃を握っていた。
やや波が出て流された。
これまで海は静かだったが、天候の悪化に従い少し風と波が出てきたようだ。漁船は錨を下ろしているわけではない。
「当たらない」
レンは握っている54式拳銃を見つめ呟く。
「銃……やっぱり難しい。私、才能、ない」
レンが使っているのはトカレフT33の中国コピー品の54式拳銃で、口径は9ミリ版のものだ。9ミリ拳銃の有効射程距離は50m……もちろんただ飛ぶだけなら斜めに撃てば1kmは飛ぶし、当たればいいというだけならば300mくらいまでは当たる。
今、ホテル近くの岸にはALが溢れ返っている。なので、届けば当たっているのだが、あまりに数が多くなったのでよく分からないのと、元々レンは銃を使い慣れていないから感覚がよく分からないのだろう。それに雨もあるし、この中の銃では一番精度が悪くグリップの感覚も悪い。使い心地のいい銃ではない。それに三人は戦闘のプロではない。
「こっちを使いますか? レンさん」
篤志がズボンに挿したCZ75Bを差し出した。これも9ミリだが、グリップは握りやすく精度は高い。
レンは頷く。
「うん。こっちがいい」
レンは慎重に構え、一発一発確実に撃っていった。少し慣れてきた気がする。
「篤志君、銃あるのかい?」
「ええ。祐次さんがくれた銃が……」
そういうと篤志は苦笑すると、腰のホルスターから一丁の大きな拳銃を抜いた。
それを見た啓吾は、篤志の苦笑の意味が分かった。
「祐次はそんなものギフトで渡したの? あいつらしいというかなんというか」
「大きな拳銃」
「ええ」
篤志はまた苦笑した。
握っていたのはDEだった。祐次が愛用する拳銃だ。ただしこっちは黒だ。
「篤志君、44マグナム撃てるの?」
「これは357マグナム仕様です。重いけど、撃ちやすい銃ですよ? 『357マグナムは狩猟用としても対人用としてもAL用としても優秀だから』って祐次さんが言っていました」
357マグナムならば有効射程は100m。狙い撃ちでなければこの距離でも十分使える。それにマガジンに9発入る。それにノーマルバレルではなく、反動軽減用のマグポートがあり、357マグナムの反動を幾分マイルドにしてくれる。重くて大きい事を除けばこの世界で使うのには適した銃だ。
「あいつらしい。あいつマグナム馬鹿だからね。もう一人マグナム馬鹿はいるけど」
このことを知れば時宗は喜ぶだろう。マグナム仲間が出来た、と。
「弾は沢山持っています。僕はこれで大丈夫です」
「弾のことは黙っておいたほうがいいよ。横取りする馬鹿がいるから」
篤志はクスリと笑った。357マグナムを愛用している馬鹿は、357が手に入らず38口径を使っている。357マグナムがあるとしれば大喜びして要求するだろう。
「道理で……祐次さんも言っていました。『隠しておけ』って」
ちなみに元々は篤志用ではなく祐次が祖父に手渡したものだ。
今となってはもうこれは祖父の形見となってしまった大事な銃だ。
***
「マジかよ、これ」と時宗。
「どうにもならないのか? 回り道は?」と姜。
「ない。もう一本道だし上にあがればALの群れのど真ん中だ。ここしかない」
拓はそういうと地図を懐にねじ込む。
「上と変わらねぇーじゃん」
時宗は嘆きながら懐から煙草を取り出し咥える。
が、ライターがない事を思い出し、仏頂面でガンベルトに突っ込んでいたパイソンを抜いた。
三人はハリウッドホテルに続く地下通路にいる。通路は広く、ちょっとした地下鉄の通路くらいの広さがある。元々搬送などするためだ。
問題はそこではない。
目の前……約15m先に、巨大なALの塊が蠢いていた。
奥は見えない。
「なんで奴らがここに侵入できる? 封鎖していたはずだろう? 来たときはなかった」
「そういう不思議がよくあるのよ。封鎖しているはずの建物内にいたり地下道にいたり」
「あのゼリー状になっている時は、僅かな隙間があれば侵入する。だから油断できない……と、JOLJUが言っていたな、確か」
スライムのような形態であれば、水のように移動して狭い隙間から入り込むことが出来る。その後また塊に戻り、そして敵を認識したらALの姿に戻る。敵としてこれほど厄介な存在はない。
拓は後ろを振り向く。
姿は見えないがALの唸り声が聞こえる。
連中は<眠れる森の美女の城>の扉を破壊し、地下に侵入したのだろう。数は圧倒的だ。ここで立ち止まっていてはいずれ見つかり殺される。この地下で大量のALを相手にしてはとてももたない。
しかし目の前のALは通路目一杯で、すり抜ける隙間はない。ゼリー状のときは水をかけても効果がない。
拓は両手のベレッタの弾を確認する。そして残った予備マガジンを全てベルトに差し込んだ。
「こうなったら賭けだ。クイック・アンド・ドロー……そしてゴーだ」
拓の言葉を聞いて、時宗と姜は黙って銃の弾を確認する。
「て事はナニか? 目の前のアレがALになるのを待って、蹴散らして走り抜けるってか?」
「他に方法あるか?」
ALは敵を認識すればすぐに変化する。ここにこれがある以上もう拓たちを認識しているだろう。
すでにゼリーの中でタイプ1の姿が蠢いているのが見えるから、出現は時間の問題だ。
この一塊で、大体20から30体生まれる。
拓たちはまだ銃が残っているし弾もある。30体くらいであれば制圧できる。少なくとも追いかけてくるALよりは少ない。
時宗は拓の考えが分かった。ALのことをよく知っている。
「でもよ? あの塊の後ろにまた別の塊があったらどうするよ? 追加で合計60だぜ?」
「後ろからも来るしな」
「一人30発。計算上90体まで対応できる。60なら対応できる」
どうやら拓の決意は変わらない。それに他に手はなさそうだ。
「成程。だからクイック・アンド・ドローか」
ALが変化し襲い掛かるのが早いか、撃退する射撃が速いか。さらに後ろから迫るALより早くクリアーできるか。
時間が全てだ。
そしてALの攻撃が速いか、より自分たちの射撃の腕が速く正確か。
まさに一瞬の勝負になる。
「時宗。弾は?」
「MP5は2マガジン! オートマチックは銃にあるだけ。38口径は40発」
「リロードする時間はないぞ。後ろを頼む」
「おうよ」
「私はSIG4マガジン。AKは2マガジンだ」
「俺は70発ないな。まず三人で正面突破! 正面が空いたら走り抜ける! 俺が右側で姜が左側を」
「了解だ」
三人は身構えた。目前のALの塊は今にもALが生まれそうだ。
やるしかない。
「山場」1
拓編佳境!
ついに総力戦です!
もうこうなればやるしかない!
しかし、拓たちの出口を塞いだAL。ゼリー状態だからすぐには襲い掛かってきませんが、この状態はある種完全無敵で、攻撃は効かないしどんな隙間が小さくても液化して侵入してくるという、ALの怖さが物語っています。
そして背後からは追ってくるALも迫る!
完全に挟まれた拓たちの命運は!?
ということで、拓編クライマックス!
今回はバトル編です。
これからも「AL」をよろしくお願いします。




