プロローグ1「崩壊」
崩壊した世界。
拓たちは、生き残るため、異星人のUFOに向かう。
そこで待ち受けている惨劇を知らずに……。
物語はここから始まる。
全4編のプロローグ第一話です。
***
プロローグ 1 「崩壊」
***
パシャリ……。
スマホで写した一枚の写真。
仲村 拓は、その写真を言葉なく見つめていた。
目の前には、横浜スタジアムがある。初めて直に見る横浜スタジオだ。
風が吹く。
人の声や歓声は聞こえない。
聞こえてくるのは、おぞましい高音の侵略者であり破壊者である奴らの奇声だけだ。
「そんな写真撮って、楽しいか?」
背後で声がした。
「半分以上吹っ飛んでるぜ、アレ」
「知ってる」
拓は苦笑した。
そう、横浜スタジアムは酷く破壊され、元の姿はない。巨大な何かが降ってきたのか、それとも強力な爆撃にでも遭ったのか、ドーム部分の半分は砕けてなく、観客席も吹っ飛び、野球場が露出していた。
いや、横浜スタジアムだけではない。周囲の街も、かなり広範囲に渡り破壊されていた。山下公園から桜木町駅周辺にかけて、巨大な爪痕のような破壊の跡があり全長数百メートルに渡り破壊が続いている。これはもう何が起きたのか推測すら出来ない。
しかも昨日今日破壊されたわけではない。もうかなりの月日が経過しているようだ。周辺の風化と無造作にコンクリートとアスファルトの合間から伸びている緑が、それを物語っていた。むろん、人の気配は全くない。完全な死の街だ。
「折角横浜に来たんだ。記念だよ」
「今時スマホなんて使えねーもん持っていてどうするよ?」
拓の手元を覗き込む男……福田 時宗だ。時宗は揶揄うように笑っている。
そう。文明の最先端技術が詰まっていた、この四角い液晶電子機器は、もう通信機としての能力はない。電話はどこも通じず、インターネットも使えず、ほとんどのアプリも使えない。残された有用な機能はせいぜいデジカメくらいのものだ。MP3プレーヤーとしても使いづらい。何せPCが使えない。いや、PC自体は使えるが、肝心の電気が貴重で有用ではない。
拓は時宗との妙に現実的な会話が楽しかった。
まるで平和だった時代のようだ。
そして色々思い出の詰まった<旧文明時代の遺物>を上着のポケットに入れると、<もっとも貴重な旧文明時代の遺物>……拳銃を握った。
ベレッタM9。米軍制式モデルだが、使い込まれていて、表面のブルーフィニッシュは禿げ、半ば銀色に光っている。
このベレッタM9を使っていた米軍も、もうこの日本には存在しない。
現代文明はほぼ滅んだ。そして人類も、あと少しで滅ぶだろう。
生き残った拓たちが抵抗を止めた時……人類は6000年の文明生活を終える。もう終焉は、ほんのそこまで迫っている。
拓はベレッタの残弾を確認すると銃をショルダーホルスターに戻し、地面に置いていた89式自動小銃を掴み、歩き出した。
すぐ近くに車が二台。若い男が8人。皆銃を持っている。ライフルだったり自動小銃だったりショットガンだったりとバラバラだが、全員腰にはスナブノーズの38リボルバーをホルスターに入れ身に着けていた。銃は日本警察採用のものだが、もちろん全員警察官ではない。世界が滅び、生き残った彼らが自分の命を守るため、警察署から強奪して装備しているのだ。それを咎める警察も、滅んで存在していない。
「何してるの、そこのスケベ。第八班じゃないでしょアンタ。相棒が待っているわよ?」
「俺、偵察って柄じゃねーからサ。そういうのは任せてるだけ。それにエスコートなら女性をエスコートしたいね。どう? 中華街で飯でも食わね? 奢るけど?」
「見る限り……中華街もほとんど吹っ飛んでいるようだけどな」
拓は遠くに見える半壊した横浜中華街の赤門を見つけ笑った。それにどうせ行ってもどの店も開いていないだろう。
「早くいったら? 祐次に蹴飛ばされても知らないわよ?」
明るい茶髪のボブショートとぱっちりとした目元が魅力的な、日本人女性にしては172cmと長身な太田 優美は、呑気な拓と時宗を見て笑いながら親指を立て後ろを指さした。
すでに斥候として第六班は向かっている。時折奇声と銃声が聞こえるから、戦闘は始まったのだろう。せめて<あの場所>には辿り居ていてくれることを願う。
「第六班でも俺たち第八班でもいい。どちらかが成功しなれれば、どっちにしても俺たちは終わりだ」
30代半ば、無精ひげを生やしショットガンを抱いているのが第八班班長矢崎浩一だ。一応この中では最年長で責任者になる。他は皆二十歳前後の若者で構成されているのが調達係第八班だ。
「作戦が終わったら仲良く一杯やろうぜ! な? 先日特上のウイスキーと生ハムを一本見つけたンだ。パーティーやろうぜパーティー」
笑いながら時宗は仲間たちに手を振り去っていく。時宗は前から色々見つけてくる達人だ。高級食材から日本ではまずお目にかかれないコルト・パイソン357マグナムまでどこからか調達してくる男だ。
「私、ギリギリ未成年だからウイスキーはパース!」と優美は「あっかんべー」と舌を出した。
「このご時勢、未成年もへったくれもねぇーだろー?」
「美味しいパンが食べ放題なら喜んで参加するんだけどね」
「そんなパーティーなら俺も喜ぶぜ」
時宗は笑った。きちっとしたパンなどもういつ以来食べていないだろう。
小麦はあっても、それを焼く知識と機械がなければ本格的なパンを作るのは難しい。さらに卵やバターや牛乳は貴重だ。だからパンは今では贅沢品だ。
「俺は21歳だから付き合うよ。だけど本当に怒られるぞ、あいつに」
拓は笑いながら、少し先の歩道で時宗を待つ重武装をした長身で長髪の青年のほうを見た。
黒部 祐次。時宗の親友で遊撃第六班に所属し、いつも時宗と一緒に行動している。この男は有名人だ。生き残った日本人の中でも屈指の戦闘力を誇る。そしてどこで手に入れたのか日本で唯一DE44マグナムを持っている変わり者だ。もっとも有名なのは戦闘面というより彼が警官や自衛官より貴重な医者だからだ。いや、正確には医大生だが、このご時世学生だろうがなんだろうが「人を治療できる人間は医者」である。
祐次は拓たち第八班を見回すと、「先に行くぞ」と声を出し、すぐに時宗と並んで駆け出した。二人が所属する第六班はすでに先行している。
第八班はまだ動かない。
肝心の<お客さん>が来ていない。彼を連れて行かなければこの遠征の意味もなくなる。
拓は、第六班たちが先行して向かった、自分たちが攻略すべき巨大な建物を見上げた。
それは、正しくは建物ではない。
大きな円盤型のUFOが大地に突き刺さっているのだ。自分たちが向かうのはそこだ。
UFO……地球のものとは明らかに違う巨大宇宙船は墜落していた。全長は200mはありそうだ。しかしあれが飛んでいるところは誰も見ていない。
今更異星人など驚くような事ではない。
エイリアンは、そこいら中にいる。湧くほど……吐き捨てるほど……数を数える気すらなくなるほど、もはや嫌悪しかない存在。非常に攻撃的で残忍で獰猛。知能も人格もなく、言語もなく、性別も恐らくない。それどころか服すら着ず、その攻撃は噛みつくことと爪で引き裂くこと。恐怖で怯むことはなく、人間を切り刻む事に一欠けらも躊躇せず容赦もしない。ただ人類を殺戮することだけのため生きているような存在。タイプは確認されているだけで5種。
それを、人類は『AL』と呼んでいた。
その数……推定、200億。
生存人類……推定12万人。むろん全世界で、である。
人類は、日に日に減少している……。
「AL」プロローグ1でした。
プロローグは全部で4章になります。
この作品は文明崩壊した世界が舞台です。
そして戦闘特化の謎のエイリアン<AL>が跋扈する世界になっています。
今回のプロローグでは、あまり<AL>については語りません。その描写は本編でしっかり描く予定です。
「AL」ですが、主人公は三人です。
日本人で若者チームのリーダー的存在でいつも冷静なアジア・ルートをいく仲村拓。
日本人の現状最強で医者でありエダと共に北米ルートを進む黒部祐次。
人類滅亡とAL襲撃から生き延び世界の謎に接する米国人少女エダ=ファーロング。
ルートとしては拓ルートとエダ・祐次ルートの2ルートを交互に描いていき、最終的に一つのルートになる予定です。
本格サバイバル、本格ガンアクション、本格SFの長編です。
最後まで楽しんでもらえればと思います。
これからも「AL」を宜しくお願いします。