媚薬は……
「唐突で悪いんだけど、リア、今日午後からはじめりの町に行ってもらうわ」
ヤサギ君と戦い始めてもう6日目、私ことリアはお姉さんと雑談に興じていた。午前はいつものように暇なので、今日は翡翠ちゃんといちゃいちゃしようと思っていたのだけど、珍しく私の肩にいないので愛でることができないでいた、というかどこへ行ったのだろうか、出会ってから私の目に入るところにいないなんて初めてのことなんだけど……肩の部分が少しさみしのはご愛敬といったところだろう。
「唐突ですね、何かあったんですか?」
昨日、私はいつものように翡翠ちゃんといちゃいちゃして、ヤサギ君といい汗かいただけであって、お姉さんから明日何かあるなんて素振りさえ見せていなかった。
「ええ、私の下着がね……わかるでしょ、リア」
……あっ。うん。お姉さんのその申し訳なさそうなその顔に、私はうなずくことしかできなかった。もともとお姉さんに始めりの町に行くこと自体は伝えられていたけど、その理由が下着を買って欲しいといった理由だったのを思い出した。あの時は欲望に従うがままに即答したけど、今実際にどうして買わなければいけないかを知るといたたまれない気持ちになる。
「あと、リア、神殿に行くことも忘れないでね?」
「忘れていませんよ、決して」
始めりの町に行くとなったら、ヤサギ君との決闘もしばらくなしかぁ。しばらくと言ってもすぐに帰ってくるだろうけど……あれ?何か大事なことを忘れているような……まぁいっか。
そんなどうでもいいことばかりを考えている私は……お姉さんが、ぐちゃぐちゃな顔を一瞬したことに気が付くことができなかった。気づけたら……風が吹き荒れ始めた。
ここがターミングポイントだったんだろうか。今気づけたら、どこかしら変わったのかもしれない、少なくとも……
「そうやら世界は私に優しくないみたい」
『我が名は、』
「本当はね、もっと……」
『ラフェクション=ドゥ=ランジュ』
「さようなら……リア」
『命ず、リリアは□□……』
私は何か大切なものが断ち切られたような気がした。それと共に意識が……
「やっぱり来たわね、翡翠。ここまでは想定済みよ?」
飛んだ。
「はっ」
私は目を覚ました。横になっている私にまぶしい光が全身に降り注ぐ。どうやら私は始まりの町の周辺に転移したらしい。これまでいた魅惑の森とは違って昼のように痛いほど日が照っている。周りを見渡すと草原らしく、私はようやくスタート地点にこれたんだなぁと灌漑深くなる。肩に翡翠ちゃんがいないことに違和感を覚えながら、私は……あれ?そういや翡翠ちゃんついてこなかったんだね。直後の記憶が飛んでいる私は疑問を浮かべることしかできなかった。留守番かな?
「で、あそこに町というかいや壁があるけど、あれが始まりの町の入り口なのかな」
私が周りを見渡した時に、私の後ろに大体1キロくらい離れたところに見渡す限りどこまでも続いている壁があったので私は導かれるように立ち上がりそこに向かっていった。あっ、今の私は初心者(仮)だからステータスを確認しないとね。始まりの町に行く私はどこをどうみても初心者に決まっている!ということで、
「state open!」
------------------
【アイドル】リア
HP130/30 MP0/0
職業;アイドル
スキル:歌う
------------------
HPがエラーじゃなくなっているっ!やったぁ。ついでに、純情派とか意味の分からない言葉も消えていることに喜びを隠せなくなる……えっ、HPがオーバーしている?知らない子ですねぇ。
気分がよくなった私は、スキップで壁に向かっていくのであった。
「ここが神殿か……大きい」
私は目の前にある白くて大きな神殿に感嘆のため息が零れ落ちていた。壁についていた大きな扉から始まりの町に入った私は周りの視線を気にすることなくスキップで町の中を駆け抜けていた。スキップをして20分あたりにどこか白い建物がちらっと見えたので、そのままそれを目印にしてここまでやってきた。
神殿に入った私は、なぜか顔を青ざめた受付に案内されるがままになんかとっても神気を感じる部屋に来ていた。お姉さんに神殿に行けとだけ言われていた私は当然不安が募っていく。私何かしちゃったのかなぁ……私の後ろでドタバタしているのも不安を掻き立てる要素の一つになっている。
待つこと5分、私の前に白いひげを生やしたいかにも高い地位にあるだろう人が私の目の前に座っている。そして、おじいさんはこう言い放った。
「おぬし、呪いにかかっておるぞ、それもかなり高位の」
「呪い……?」
「そうじゃ、今回は儂がその呪いを解いてやるが、何か心当たりはあるかのぅ」
「……いや、特に」
呪いという意味の分からないもの聞いたり、触ったり、見たこともないはずだ、少なくともブラックボックスを始めてから。
「うむ、言えないんだったら、もうそんな危ない橋を渡るんじゃないぞ。では始める」
おじいさんは、意味の分からない単語をぶつぶつを話している。その集中した様子を見ていると初めてことの重大さを察し、呼吸が荒くなってしまう。……えっ、あっ、あああああああああっ、やぁあああああああああ。いやぁ。いやぁ。
「より、解呪がお……おぬしどうしたのじゃ、気を確かにせ」
思い出した、思い出した、思い出したっ。
お姉さんっ。なんでっ。私もう戻れないのっ、魅惑の森に。
プロローグは次で完結です