VSヤサギ君 5
「お姉さん!いろいろ聞いてもいいですか?」
リアが私に語りかけてくる。今日も昨日と同じで午後に修行を行う予定だったので、午前中は特に予定もなく、周りに視線があるので何をしようかななんて思っていた。思っていたのだけど……
「いいわ?リア、何か理由でもあるのかしら」
「いや、知りたいと思ったからですけど、ダメですか?」
リアが、計算されているように思えてしまう上目使いを私に向けた。その上目使いは、異性ですら恋の奴隷に落としてしまうのではないかと思えるほどドキッとしてしまう。最近のリアの魅力は反比例のようにぐんぐんと上がっているような気がして、このままだったら……
「リア、ヤサギ君のことは答えられないけど?いいかしら」
「いいですよ?」
リアは両手をぶんぶん上下に振りニコニコした。いちいちリアのあざとさは私の視線を釘付けにさせる。……てっきり、ヤサギ君のことを聞く思っていたのに……いったい何を聞くのかしら。私が今答えられるものだったらいいけど。
「お姉さん、私とお姉さんってどんなことが違うでしょうか」
「?どういうことかしら」
「なんでもいいですよ?私よりお姉さんの方がラブリーだとかこんなでも」
「ああ……そういうことね」
私の方がラブリーそんなわけないじゃないと思い、受け流すことにした、じゃないと……まぁ、いい。おそらくリアはヤサギ君のとっかかりを何か見つけたいらしい。差し詰め、私は襲われているのにお姉さんには無反応なのはなんで、こんな感じだろうか。いい線を行っているとは思う。ただ、リアは知らないがそもそも前提がはき違えている。
「うーん、そうね、リアは料理が上手だとか?」
私は、リアがヤサギちゃんを倒せるなんてひとかけらも思っていない。言い換えよう、私はリアに無理難題を押し付けている。それこそかぐや姫の7つの難題のようなものを。
決して気づかれてはいけない。そう。そうなの、つらい。はぁ。
――――――――――――――――――
「リアは料理が上手とか?」
お姉さんは、私の質問の意図をしってか知らないでかは知らないけど、私が欲しい答えの360度真逆の答えが出てきた。いや、料理が上手と言われたのは嬉しいよ?けどね、私が欲しいのはそういうことじゃないけど。
「あははー、褒められたのはうれしいですけど、他に何かありませんか」
「じゃあ、私よりも魅力的とか」
「はっ。冗談はその美貌だけにしておいてください、うれしくなってハグしちゃいますよ」
へたな豆でっぽーはなんちゃらら。私はどうやら真後ろに弾丸を放ち続けているみたいだけど。……唐突に思い出したけど、そういや私職業アイドルだった気がす……気のせい、気のせい。
「あら、ハグされちゃうのは怖いから、ふざけるのはやめましょうか」
お姉さんは、いつものニコニコとした顔の中に、どこかニヤッとといういたずら娘がするような笑みが含まれているような気がした。ハグしてやろうか、おらー。……なんでもない。
「そうね……リアの聞きたいことを考慮するとね……」
「うん」
「ないわ、期待通りの解答をしてあげられなくてごめんね」
やはり、お姉さんは私の言いたかったことをすでに見透かしていたのだろう。それを見越してのこの返答。うーん、本当にないのかなぁ。手掛かりがほどんどゼロも今の状況から脱したいのだけど……リアルも今日は休日で雪と話すこともできなかったし、ネットも私使いなれてないから、ウサギとヤギについて調べることもできなかったし、今日もだめかもしれない。
「お姉さん、ヤサギ君本当に倒せる強さなんですか?無理だと思うんですけど」
もう何度めかもわからない、愚痴を吐き出した。私のこの愚痴に対するお姉さんの返答も決まっていて、
「私はリアだったら、倒せると信じているわ」
「それって、暗に倒せないかもしれないっていってますよね」
ほんと、どうしたものか。
「まぁ、いいですけど、私絶対にヤサギ君を倒してお姉さんからご褒美もらいますからね」
「期待せずに、期待するわ」
「いや、どっちですか」
お姉さん恒例の意味の分からない言葉に呆れと愛おしさが混ざり合った。
「はっ」
知らない天井だ。嘘だけど。私は気が付いたらお姉さんの(ry)。これで3回目だよ、もう。
「おはよう、リア?気分はいかがかしら」
お姉さんは、いつも通りニコニコしたその中に申し訳なさが……3回目となるこの問答だけど、お姉さんもうそろそろなれてもいいころだと思うんだけど。
「悪いので、ハグさせてください」
「…………」
「いや、黙り込まないでくださいよ、私が困るじゃないですか」
お姉さんは、少し顔を赤らめ、腕をプルプルさせている。私とハグしたいけど、したくないといった感じで葛藤しているのだろうか、よくわかないけど。
そういや、翡翠ちゃんは肩の位置ででピターとくっついているんだけど、今日もなんかおとなしいね?翡翠ちゃんを相手できていないのは申し訳ない気持ちがあるのだけど。仮に私がお姉さんといちゃいちゃしていたら、私もかまってと言わんばかりに点滅する光景が繰り返されていたことを思い返すと、今の翡翠ちゃんは謎の不気味さを演じさせている。……あとでしっかりとかまってあげよう。今日は昨日よりも目がさえているし、追いかけっこで体力がついてきたのかな。
「ところで、今何時ですか?」
「5時ね」
もう、そんな時間か。2時あたりにヤサギ君とバトって、3時に気絶、2時間眠っていたといったところかな?……気絶を受け入れ始めているのもおかしいけど。5時とは6時から、晩御飯を食べたいので、もうそろそろ準備をしないといけない時間帯なので、うずうずし始めている。
「じゃあ、さっそくご飯作ってきますね」
「リア、少しくらい休みなさい。あなたさっきまで気絶していたのよ」
「もう、3回目ですし」
「回数なんて関係ないわ、リア?」
確かにそれはわかっているのだけど……体がうずいてしょうがないのも事実。どうしようかなぁ。あっ、そうだ。
「今日の私はどうでしたか?」
「今日のリア?どういうことかしら」
「昨日、一昨日の私よりも成長できているのかなぁって」
今日も私はヤサギ君の突進をよけ続けることしかできなかったのだけど、なんというかヤサギ君のスピードに慣れてはいるのだけど、依然として倒すことの道しるべが何も見えない。
「リアの回避は目を見張るものはあるわ」
「回避はということは」
「今日攻撃しないのはなぜかしら、隙があったはずでしょう、リア」
……やはり、ばれてたか。今日は昨日と比べても、ヤサギ君が遅く見えた。それが私自身の成長なのか、それともヤサギ君が単純に疲れているのかはわからないけど、少なくとも最初は無防備だった。当然私は、チャンスと思い、失敗をしないためにもヤサギ君をじっくり観察した。すると、わかってしまったのだ。
「自分が甘ったれたことを言っているのはわかっているんですけど聞いてください。昨日よりも今日、私はヤサギ君をゆっくりと観察できるようになったんです。昨日と一昨日よりもずっと」
「観察してわかったんですけど、ヤサギ君、私に敵意を抱いていないんじゃないかって」
ズンとこの空間の空気が突如重くなる。お姉さんを中心に重力が捻じ曲げられているんじゃないかと錯覚を覚えてしまう。重い。とても重いけど、軽い。
「それで、リアは何が言いたいのかしら」
「戦闘継続不可だったらなんでもいいんですよね」
「ええ」
ふっ、と空気が軽くなった。お姉さんは、まるですべてのことを見通している女神様のようなに微笑んでいる。結局私はお姉さんの掌の上でくるくると回っているだけなのかもしれないけど、それもいいかなぁなんて思っていた。