VSヤサギ君 1
空 主人公 ブラックボックスの名前はリア 目が覚めたら暗い森に どこかおかしいプレイを満喫
雪 主人公の友人 ブラックボックスの名前はスノウ 普通のプレイを満喫中
ブラックボックスプレイを開始して5日目、私はとてつもない無理ゲーを目の前にして呆然としていた。
今現在、私たちはお姉さんの家の前にある広場に来ていた。翡翠ちゃんもいつも通り私の肩という定位置におり、いつもよりもまぶしく輝いている。正面を向いているのにまぶしいなぁなんて思うほど。今日の修行は午後からと言われたので、午前中は翡翠ちゃんと一緒にごろごろして、仲良くルンルンとしていたからからだろう。
お昼ご飯を食べ終わった後に、お姉さんが今日の修行は外でやると言って、昨日来たばかりの少し開けた場所に来ていた。昨日、お姉さんがモンスター相手に訓練するなんて言ってたからここまでは理解できた。
「じゃあ、リア、まずはこのキメラを倒しましょうね」
お姉さんはいつものニコニコした顔のまま、目の前に見る初めて見る生物(化け物)を指さした。
うん、理解できなくなった。
今私の目の前にはなんかよくわからない生き物、いや生命の冒涜ともいえる生き物がいた。私サイズの大きさで、白いヤギの頭、黒いウサギの身体を持っている生き物と言ったら誰だってそう思うことだろう。
この前のヤギが頭で、体は人という化け物よりかはショックが幾分かないけど……いや、ね、ははは、はぁ。
だから命名!君はこれからヤサギ君ね!なんて思ってしまうのも仕方のない。これは決して現実逃避などではない、ないったらない。
ヤサギ君は、雑魚を見るような目で私を見下ろしたいる。うん、大きいし怖い、蛇ににらまれた蛙とはこのことを言うのだろう。
「今、軽く倒しましょうって言ったけど、これ本当に私倒せるんですか?たぶん無理無理と思うんですけど」
ヤサギ君、なんだか紫色の禍々しいオーラまとってるんだけど、私の幻覚であってほしい。
もうヤギとウサギともいえるシュールさとゲームのラスボスが持っていそうな風格が組み合わさり何とも言えない。
そんな頭の中がぐちゃぐちゃ、混乱状態にある私をまったく気にも留めずにお姉さんは、
「ルールを説明するわね。あなた一人でこのキメラを戦闘継続不可能にしたら修業は終わり、ねっ簡単でしょ」
ニコニコと私に死刑宣告を下した。
うん、無理。戦闘継続不可能って何かのコマンドかな?
もう一度ヤサギ君を見てみる。
デカい、怖い、気持ち悪い。
うん、無理。
「翡翠ちゃんはこっちでいてね」
とぼとぼと翡翠ちゃんがお姉さんの方へと飛んで行った。
あれ?翡翠ちゃんやけにすっと私から離れたなぁ。あのかかし爆発事件の日にあった、お姉さんに呼ばれたにもかかわらず翡翠ちゃんが私の肩にへばりついて離れなかったことを思い出していた。翡翠ちゃん、お姉さんになついたのかな?
「こいつはそうね、前の化け物の数倍強いわ」
私がどんなに平和なことを考えていても、お姉さんの死刑宣告は続いていく。
「あと、あなたにこれを渡しておくわ」
お姉さんはなにか既視感のある鳥の絵がかかれたお守りのようなを私に手渡した。赤いとさかで白い胴体のこと鳥ってもしかしてにわとり?なんでわざわざ鶏なんて選んだんだろうかな。お姉さんのセンスを疑うよ……。
「細かい条件とかはあとあと増やしていくわ、じゃあ開始ね『解除』」
「ちょっと待ってください準備ってものがっ」
言い終わる前に何かざわっとする嫌な予感が悪寒となって私に襲ってきたので、右側の方に飛ぶようにして転がり込んだ。
瞬間、私のいた場所に何か白いものがものすごいスピードが飛んできた。一瞬何が飛んできたのかと思ったが、砂煙が晴れた先にはヤサギ君がいた。
一体何があったのだろうか、単純に考えれば、ヤサギ君が高速で突進したと思うのが自然だけど、その2メートルという大きさのウサギもどきが車のような速さをたたき出しながら移動する?
「うん、意味が分からなっ」
さっきと同じような感覚がやってきたので、大きくバックステップをとった。
摩訶不思議ももいいところ、なぜか左ににいたはずのヤサギ君が私の目の前を右から左へと横切っていった。車が目の前をよぎったかのような風が私を叩いた。
さっきから意味の分からないことが起こりっぱなしなので私の思考がごちゃごちゃに……
…………
……
「はっ」
いけないいけない、考えることをやめたらそれこと死あるのみだ。あの突進に巻き込まれたら一たまりもないだろう。
私は気持ち悪い悪寒を頼りに右、左とよけていく。まるで綱渡りをしているような気分になった私は興奮なのか怯えなのかはわからないが、息をはぁ、はぁと吸って吐く動作がやむことがない。
私は、どうすればいいのだろうか。
「はぁ、はぁ」
最初の攻撃からどれくらい時間が経ったのだろうか。5分かもしれないし、10分かもしれない。
この状況に慣れ始めたのか、直観が冴えてきたのかは定かではないけど少しずつヤサギ君の突進が遅くなってきたような気がする。だんだん避けることに慣れてきたのかもしれない。うん、次は右から来るね。
心に少し余裕ができた私は今の状況を分析することを始めた。
私は今、森の少し開けた周りに障害物がない広場にいる。そして今対峙しているヤサギ君は全長2メートルくらいで灰色のヤギの頭に灰色ののウサギの身体、そしてなにか紫色ののオーラを放っている。
そういやヤサギ君灰色だったけ?今奴は高速で縦横無尽に突進を繰り返しているから色が混ざって見えているだけかなぁ。まぁいい。
私は一つの過程を立てた。ヤサギ君はヤギとウサギの身体を持っているのだからなにかその習性をもっているかもしれない。ただ残念ながら私はヤギとウサギの特徴は詳しくない、ウサギは万年発情期であることくらいしかしらない。
私は今ヤサギ君と呼んでいるが男の子なのかもわからないし、何を食べているか、そもそもどうして生まれたのか、私はヤサギ君のことが何もわからないのだ、THE謎。
謎と言えば、ヤサギ君は私に突進を繰り返すという意味が分からない行動をしている。もしも、私がヤサギ君だとして敵をを倒す立場にあったとしたら、掴み、パンチ、キック、格闘の経験がない私でさえ、こんだけの手段が浮かぶ。もしかして突進しかしない習性でもあるのかなぁ。
会話を試みようかな?でも、私に向かって突進を繰り返しているやつだからなぁ。いや、そもそも話が通じるのか?
このままよけ続けても何も進展しないし……物は試しだ、やってみよう。やってみよう、そうしよう。
「あのっ、あなたって何か好きなものないの?」
私はヤサギ君の突進を避けながら、ヤサギ君に聞こえるように叫ぶようにして尋ねてみた。しかし帰ってきた当たり前の言葉に私は脱力してしまうことになった。
「きゅっ!」
一体全体こいつはなんて言ったのだ?
――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ」
私こと雪は目の前のウサギみたいなモンスターと対峙していた。その黒いウサギは現実世界でもよく見かけるウサギとほとんど同じ容姿をしており、唯一違う点としては全身が真っ黒であるところと尖った角が頭にあることくらいだ。
このウサギみたいなモンスターの名前は、ブラックラビット、まぁ見た目通りの名前をしている。
こいつは初心者御用達のモンスターで、ある程度スライムでレベルをあげた後に、このブラックラビットに挑むというのは、テンプレートとしてなじみ深いものになっていると私の知人Aから聞いた。なお、その知人Aは、空ではない別の人だ(空に聞いてもね……ハハハ)。
スライムは楽勝というかお手軽に狩れていたのだが、ブラックラビットはスライムと違って優秀な思考回路があるのだろう、行動方法が増え私は少し苦戦していた。飛びかかるという一つの行動でさえ、たまにフェイントをかけてくるから驚きだ。
「カットッ!」
私は叫ぶようにしてスキルを唱えると、私の体が勝手に動き始めた。踏み込むように右足を出して、私の右手が左から右に向かって勢いよく一閃した。その一振りから、透明な青い波動が飛んでいき、相手のウサギを真っ二つにした。
このゲームにはスキルというものがある。
メニュー画面からスキルポイントを消費して習得ができるスキルはプレイヤーに様々な効果をもたらしてくれる。例えば、今私が使った『カット』はMPを消費することで、横切り及びその波動を敵に放つといったものだ。なお、スキルポイントはレベルアップでもらえるものであり、一つ上がるにつき一ポイントという感じだ。少ない。
なお、そのスキルの中にどうやらぶっ壊れスキルがあるらしく、自動防御はとりあえず取っとけと知人Aに言われた。効果はそのまま、攻撃を食らいそうになったら自動で防御するのだが、もしもこのスキルをとっていなかったら、ブラックラビットの初見殺しともいえる突進攻撃が私のおなかにクリーンヒットしていたことだろう。これでMP消費なしは確かにぶっ壊れだなぁと戦いを終えた私は知人Aに感謝した。
私はうさぎを倒した場所に目を向けた。そこには死体は残っておらず、そのウサギのドロップ品である石が残っていた。この世界は不思議なことに死体が勝手に消えるらしい。VRMMOではよく見かけること不思議でもなんでもないです。
私の爪くらいの大きさの透き通る透明な石、この石は売ることができるのでしっかりと回収しないといけないのだ。
拝啓、空様
私は今このようにして楽しんでいます。あなたは楽しめていますか?
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【ナイフ使い】スノウ LV4
HP19/27 MP2/3
職業:剣使い
スキル:カット、自動防御
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