媚薬は罪の味
もう時間がない。私はどうしようもない焦燥感に駆られている。原因はそう義務感……だろうか。
このことに感づいたのは出会った時、確信を得てしまったのは彼女がここいらが夜と言った時。
この森は常に桃色の霧が濃い場所で、空は何も見えることはない。ここが魅惑の森と呼ばれる原因の一つに催淫効果のあるピンク色の霧がかかっている、なんてことがある。だから彼女はここが夜だなんて確信をもって言えるはずがない。
ここから推測されることは一つ、彼女は霧が見えていない。それも最初から。ああ、もう言い訳なんてできなくなってしまった。
信じたくはなかった。ちらほらと判断材料は散見していたが見て見ぬふりを決め込んでいた。名づけという保険をかけたから、もしもがあっても大丈夫、なんて楽観的に物事を決め込ん……いや最初からこのことがわかっていた私はただ思い込みたかったのだろう、ただの偶然だってことを。
私は弱い生き物だ。こんなに感情を散らかしてしまう。
そんな私は彼女をたびたび思う。
ほんの少ししか過ごしていないが、とても騒がしい時間だった。アンインストールしたはずの喜怒哀楽をぐちゃぐちゃにかき乱した彼女は、探す手間が要らないくらいキラキラしたいる。
私の真っ暗な世界に降り立った、今にも消えそうな光。彼女のことを一言で表すなら、私にとってのアイドル。アイドルはいろいろなことをして人を喜ばせるものだ。私だけを喜ばしてほしいときたない独占欲が私をなでる、私は何も気づかないふりをした。
えっちぃことをたまに言ったりしてビッチを装っているけど、本当はとてもピュアで純情なアイドル。ふふっ。アイドルねぇ。
私は空笑いをした。整えられたアルバムを見るように、都合のいいことばかりを見ていたら、味わいたくない喪失感に苛まれた。絵空事は絵空事でしかない。絵に描いた餅は誰の幸せにもならない、描いた本人はむなしくなるだけ。じゃあ私はあと何回これを繰り返す?
ああ、私はちゃんとやりきれるのだろうか。
妖精の数がタイムリミットだが、たびたび確認しておりこの調子だったらまだ余裕がある。
このことは誰にもばれていない。ばれてはいけない。
順調な計画もきっかけ一つで崩れ去ってしまうことはほろ苦い記憶だ。
臆病であれ、この言葉は私の教訓であり、楔だ。
計画、環境は問題ない。弱い弱い私がどうしようもない最大の障壁だ。最後でしくじってしまうかもしれない。甘い、甘い言い訳が出てきてしまうかもしれない。とても甘い声で寂しいでしょなんて……いや寂しいなんて嘘、ウソ、うそ。
リアはここにいてはいけない。リアはここにはいてはイケナイ。リアハココニいては……はぁ
気持ちが悪くなった私は誤魔化すようにコップの中のワインを飲みほした。なにも味がしない、そのことが気持ち悪さに拍車をかけた。
気分が悪くなった私は窓を開けた。風が私のほほを伝う。伝う。伝うだけで気分は晴れることがない。
ああ、吐きそうだ。