Act.2:鈍重な気持ち、城壁のような旅路
「……で、なんでついてきてるんだよ」
「着いていきたいから、ですよ」
夜が開けた林道で、俺は後ろからぴったりとくっついてくるオルカへと話しかける。
少しの話をしてお別れ――という流れだったはずなのだが、何故かオルカは、頑として俺から離れようとしなかった。
なぜかと聞けば、着いていきたいから、の一点張り。
気持ちは否定しないし、俺としても少し嬉しさを感じるけれども――子供が歩む道としては不適当だ。
オルカはぱっと見、12から14くらいの少女だ。
普通の人間には見られない、銀の髪と海色の瞳――そして獣耳と尻尾がなければ、今頃親の仕事の手伝いをしているのが当然の年頃である。
もちろんだが、まだまだ魔物が蔓延る世の中で、女子供がまともに生きていけるわけがない。
俺が守れるだろう、と言われても、限度があるとしかいいようがない。
いずれ守れない時も来てしまうだろう。
……あとは、主に精神衛生的な問題で、オルカを連れていくことは難しい。夜盗とか、強姦とか。血とか肉とかに耐えられるかどうかもわからない。
ともかく。
「着いてくるなって言っただろ。俺はお前を連れていく気は無いし、お前と一緒に暮らすつもりもない」
「……むぅ」
「そんな顔をしたところで無駄だ。救った命を、むざむざ無くすような選択を俺はしたくないからな」
少しきつい言い方だっただろうか。でも、これくらい言わないと伝わらないものもあるだろう。
目線を前から、隣を歩くオルカへと向ける。何かを深く考える様な表情がそこにあった。
酷だっただろうか。……このまま諦めてくれれば良いのだが。
「……わかりました。勇者様がそうおっしゃるなら、私も無理についていこうとは言いません。邪魔になるのは、本意じゃない、ですから」
俯きながら、悔しそうに、吐き出すオルカ。
慰みの言葉は口ずさむことなく、ただ俺は前を向く。
――オルカを街に送り届ければ、また一人の旅が始まる。
今と未来の違いなんて、きっとそれくらいだろう。
気付けば、城壁が目の前に高々と聳え立っていた。
まるで、この世の中のような閉塞感を思わせる、城壁が。