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Act.2:撫でる元勇者、馳せる想い

 馬車に揺られながら、俺は外を見ていた。


 青空は流れていき、馬車の中の静かな雰囲気も相まって、本当に今の世界が平和なんだな、などと思ってしまう。


 事実として今は平和で、今後もおそらくは平和だ。それこそ、同族同士で争い始めたりしない限り。


 起きないといいな、と思うが、それでも起こってしまうのが戦いだ。今は戦いにつかれているから剣を鞘に納めている状態。回復しきってしまえば、互いは剣を抜いて互いの武を競い合うことだろう。



「……すぅ」



 ……まぁ、でも。俺にとってあまり関係ない話だ。


 魔王の侵攻に疲弊した世界の諸国が、完全に復興するまでに百五十年かかるという。無論完全に復興しないうちに宣戦布告をする国はあるだろうが、そのレベルまで国力が回復するころには俺やオルカはもうぽっくり逝ってしまっている。


 だから、俺が気にするのは、今俺の膝に寝ている狼族の少女が如何に幸せに生きるかくらいでいい。少なくとも今は幸せそうに、俺のふとももに頬を擦りよせている。


 ……こんな四十近くのおっさんの膝枕の何がいいんだかはさっぱりわからないが、本人が幸せらそれでいいのだろう。



「……それにしても、まさか乗り物に弱いとはな」



 オルカの以外な弱点を発見してしまった。


 ちなみに、今の俺の膝の上で寝ているのも、オルカが乗り物酔いで気持ちが悪くなったので横になろうとしたことが起因だ。


 このままのペースで進むと、中間地点の村まで着くのは夕暮れ時になりそうだ。それまでの間に何かできることはないか探すが、オルカが俺の膝の上で寝ている限り、できることは限られている。


 手持無沙汰だ。とりあえず手慰みにオルカの頭を撫でる。



「……んぅ」



 気持ちよさそうに喉を鳴らし、オルカはふとももに頬をこすりつける。俺がゆっくりと撫で続けると、耳はぴこぴこと嬉しそうに動いた。


 耳を優しく、優しく触る。オルカは一瞬だけ反応したが、頭を動かして位置を調整した後、もう一度深い眠りに落ちた。


 ……にしても、オルカの耳は仄かに温かい。それでいて、触感は柔らかい中に芯がある感じで――筆舌に尽くしがたい。もしかして、俺の中にはこういう嗜好があったのだろうか、などと思ってしまう。


 違う。流石にそれは違う。


 俺は断言し、否定する様にオルカの耳をゆっくりと触り始める。オルカはくすぐったそうに声を漏らし、尻尾をこれでもかと振っていた。……本当に喜んでいる。


 段々と楽しくなってきたので、オルカの頭や尻尾を撫で続ける。手触りが心地よくて、ずっと触っていたくなる。



「……んぅ」



 そうこうしているうちに、オルカの眠りが浅くなったらしい。呻き声を漏らして、とろんとした瞳をこちらに向けた。


 そして、にへら、と崩れた笑みを浮かべながら俺の腰へとゆるゆると抱き着いてくる。


 俺はオルカを離そうと思ったが、俺もオルカの耳を触ったりしたので仕方ないと好きにさせた。



「……あべる、さん?」


「おはよう。まだ寝ててもいいんだぞ」


「いえ……あべるさんと、ゆっくりおはなしできるきかいなのに……ねむっているわけにもいきませんから……」



 そう言いながらも、瞼は降りてきているあたり本当に眠いらしい。もしかしたら撫でてしまったせいで起こしてしまったのだろうか。


 ……村まではまだだいぶ距離がある。俺はオルカの頭を自分の膝の上に落とし、頭を一つ撫でた。


 心地よさそうな声を上げるオルカ。俺はそんなオルカの頭を、ずっと撫で続けた。



「……んみゅ」



 とろんとしていた瞳が、ゆっくりと下がっていき――次の瞬間には気持ちよさそうな寝息を立て始めた。


 オルカが寝たのを確認して、俺はオルカの頭から手を離した。にしても、こうしてずっと頭を撫でていると、なんだか俺が父親になってしまったような気持ちになってしまう。


 ……尤も、俺はもうオッサンと呼ばれてもいい歳と風貌だ。結婚なんて考えられないし、まして子供を設けることもないだろう。そもそも、俺なんかを好いてくれる存在なんていないだろうし。


 いや、いるにはいるのだが。



「すぴ……」



 さすがにオルカが俺に向ける好意は父親や近所の年上の男性に向ける憧憬や親子愛と言ったものだろう。流石に異性に向けるような好意ではない。


 無論、俺も三倍くらい年が離れている子供を恋愛対象におもったりはしない。今俺がこうして触れ合っているのも、子供と親のような関係に終始する。



「……ま、ずっと独りだったんだ。構いはしないさ」



 俺は一つつぶやいて、馬車の外を眺めた。


 青空が眩しいくらいに、平和を人々に振りまいていた気がした。

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