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7.声

 ……助けて

 ……だれか、助けて!!


 お願い、私の声を、だれか、届いて……


 たいして広くも無い真っ白な部屋の中。

 窓は無く、三面を純白な白壁に囲まれ、残りの一辺はやはり滲み一つ無い白いカーテンで囲まれている。

 そう、文字通り「真っ白」な部屋。まじりっけの無い純粋は白は、時として人間に残酷なまでの冷酷さを伝える。

 地鳴りのように、小さく、低く、それでいてはっきりと、部屋を満たす雑音の唸り声。その中心にひとりの男が椅子に腰かけている。痩せてはいるが、脆弱さは見られず、日の光をどれ程浴びていないの疑いたくなるほど真っ白な細面の顔は銀色に冴えわたる月光下の新雪の淡雪を想像させる。長い睫、薄い唇、切れ長な目は、底の見えない湖のようにゾッとするほどの深い色を湛えていた。

 式倉氷雨しきくらひさめである。

「……そうなんだね、今日はそんなことがあったんだ」

 式倉の声は何も無い虚空に向かって放たれ、そのまま真っ白な部屋の壁の中に吸い込まれて行く。

「……ははは、それは面白いね。でも、そっか、喜んでもらえて何よりだよ」

 その笑い声は春風のように軽やかに、明るく、飛び跳ねる子猫のように無邪気な色に満ちていて、だからこそ余計にこの空間を異質な空気で満たしている。場違いな程、明るい笑い声……


 ブー


 どこからともなく、呼び出しのブザー音が鳴り響く。男は軽い溜息をつき、音も無く立ち上がった。

「……さて、残念だけど、もう時間だ。また来るまで元気にしてるんだよ……」

 式倉は白衣の胸ポケットから血のように真っ赤な眼鏡を取り出し、そのまま片手で掛ける。

「……今度のは期待に応えてくれるといいんだけど、ね?」

 そしてザッとカーテンを開く。

 とたんに、赤、青、黄と蛍のように明滅する、無数に光のシグナルが部屋全体を照らし出した。

 その明滅する光点が行き着く先は、ただ一点…… そこには無数の触手のようなケーブルに繋がれた、ベッドに横たわる少女の姿があった。

 低い機械の作動音の中で、微かに聞こえる呼吸の音。男は少女の横に立つと、血の気の失せたその頬に手を触れる。その瞬間、少女の頬が、ほんの僅かだけ、ピクンと動く。

「……さぁ、君は何者だい? お姫様? 救世主? それとも魔王? 願わくは、私をガッカリさせないでくれたまえ」

まるでピアニストのように細く長い指先を、無数に頭に繋がっている蛇のようなケーブルの隙間をかいくぐり、愛おしむかのように少女の幼さの残る頤を滑らせる。大切に、大切に、それこそ触れたら壊れてしまうのではないかと思わせる程に、最新の注意を払って……

 ブチッ!!

 と、そのうちの一本、こめかみに繋がっているケーブルを無造作に引きちぎった。ツーと反動で指先から赤い血が滴り落ちる。

 とたんに、耳をつんざかんばかりの非常ベルの音が、気が狂ったかのように部屋中に響き渡った。

 式倉は、しかし少しも気にした様子も見せず、血が流れ落ちているその指先で、少女の小さく赤い蕾のような唇をなぞる。

 まるで命亡き人形に生命を吹き込むかのように、薄青く血の気の無かった唇が紅に色づく。

 式倉の顔がベッドの上の少女の顔に近づいて行く。

「……美しい。 ……なんと美しいんだ」

 もはや少女の吐息さえも触れる程に唇と唇が近づいて……


 ブー! ブー! ブーブー!!


 けたたましい非常ベルの中、先ほどと同じブザーが連打された。

「やれやれ……」

 ため息だけを残し、式倉は立ち上がると、部屋を後にした。

 どれ程名残惜しくとも、色々やらなければならないことがある。そしてそれらをすることの重要性を、式倉は誰よりも理解していた。

 扉が開き、閉まり、部屋の中は不気味な静寂に包まれる。聞こえるのは、ただ、悪戯に部屋を騒ぎ立てる、機械の音だけ。

 生きているものは、いや、意思を持って動くものは誰もいない……

 そんな騒音の静寂の中、再び声が響き渡る。


 ……助けて

 お願い、だれか……

 お願い……



久々の更新です。

今回は短いですが、しばらくは頻繁に更新します。


夏星はる

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