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だから俺たちは夏を繰り返す。

【第143回フリーワンライ】本日のお題

そして僕(私)は幸福の姿を知る

賽は投げられた

幻獣夜話

「さようなら」を言わないで

夢喰い


#真剣文字書き60分自主練編


使用お題:「さようなら」を言わないで

「あっっっつーいッ!!」

「溶けそうー!!」

「っていうか溶けてるー!!」

「やべー!!」

 坂の上、柵の真下にある海に向かって大声で叫ぶ俺ら。海岸に押し寄せる波の音とその声は混じって静かに消えていく。炎天下のなか何やってんだ、なんてぼんやり俺は思う。きっと隣で一緒になって叫んでるこいつも同じことを考えてんだろうな、とも。けれど互いにそれは口には出さなかった。出したって意味がないから。だから俺らはこうやって、意味もない言葉をただ叫ぶ。

 今この現状を無視するように。目を背けて、考えないようにするために。

「あーあ。昨日も暑いし今日も暑いし、もうなんなの。もーなんなのー!!」

 再び彼女は叫んだ。もうなんなの、と言われても。

「仕方ないだろ。夏なんだから」

「夏だけどこの暑さは異常じゃない? そろそろ飽きてきたっていうかぁ」

「飽きてきたってお前……」

 俺が柵に凭れかかると、彼女は不貞腐れたような顔をする。納得がいってないような、困ったような顔。そんな顔がほんの少しだけ俺は好きだった。

「もう飽きたよ。ずーっと夏じゃん」

 ボソリと呟かれる言葉。俺は彼女の横顔を見てからアスファルトの地面に視線を落とした。

「いつまで続くんだろうね」

「……さぁ」

 答えの分からない問いには曖昧に答えるしかない。

「他の人たちも帰ってこないしさぁ。電車も来ないしさぁ。何とかあるもので過ごせてるけど。いつそれが切れるか分かんないし」

 元々この街は俺たちが住んでいた街だった。田舎だけれど活気はあって、街の中では知らない顔はいないくらいには仲も良かった。交通の便も買い物も、不便だと思うことは何度もあったけど。それでもこの街は好きだった。海が見えるこの街が、ここに住んでる人たちが好きだった。

 ――それが、ある日突然。目を覚ましたら周りに誰もいなくなっていた。

 隣にいるこいつと、俺以外。街の中にいた人も、野良猫でさえも。みんなみんな忽然と姿を消していた。

「長い夏休みだよなぁ」

 にしては長すぎる気もする。というか明らかに長すぎる。

 休みはいくらあっても足りないと思っていたけれど、これだけあると何をしたら良いのかも分からなくなる。

「夢かなあって思ったけど、寝ても起きても私たちしかいないもんね」

「でも電気と水は平気なんだよな。切れてない」

「そう!! 不思議だよね。どうなってんだろ?」

 こてり、と彼女は首を傾げ、こちらを見上げてきた。

 視線と視線がぶつかる。一瞬だけ息が止まるかと思った。

「……お前も辛いよな。俺しかいないっつーのも」

 慌てて視線を逸らした。言い終わった後に、その言葉があまりにも酷いセリフだということにようやく気付いた。衝動的に顔を手で押さえたくなるのをグッと堪える。何言ってんだ俺の馬鹿。

「辛くはないよ」

 心臓が跳ねる。視線を戻すとにっこりと笑う彼女の顔がそこにあった。

 あぁ、その笑顔に弱いんだ。眩しすぎる程のこの笑顔が。

「だってこれで知らないおじさんだったりするよりかはマシ」

 ――一瞬すごく期待した気持ちを返してくれ。

 そんな俺の気持ちを彼女が汲めるはずもなく。不思議そうに瞬きをして、それから。

「そろそろ帰ろう。アイス食べたくなってきた」

 先に彼女は歩きだす。鼻歌交じりに、ローファーを鳴らしながら。

 

  ――あの時と、同じように。


 だから俺は何度も夏を繰り返す。

 終わりの見えない夏を何度も。

 「さようなら」を言わせない為に。


 それでしか、彼女を繋ぎとめる方法が見当たらないから。



熱中症にはお気を付け下さい。

クーラーきちんとつけて寝るんですよ!!

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