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寝て起きたら死んでたんだがwww  作者: まみむめも。
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違和感

 同じ人間なんていない。

 こんなの分かりきっていることだけど。人を構成する要素なんて、山ほどあるから。優しくてカッコいいのに浮気性とか、男好きのぶりっ子だけど彼氏には一途とか。年齢、性別、性格、容姿。組み合わせは山ほどあって、どんなに似ていてもイコールじゃ結べない。

 個性は大切だと思う。それは長所を生むから。歌は下手だけど数学は得意、って人もいれば、勉強はさっぱりだけどスタイル抜群、って人もいる。長所は短所をカバーして、自信になってその人を支えている。自信に変わった長所は、辛いとき、成長を望むとき、揺るぐことなくそばにいてくれる。きっとこれは大切なもの。人生を楽しむためには欠かせない成分。

 じゃあ、長所って、自信ってどこから生まれてくるんだろうって考えることがある。それで、いつもこう思う。下がいるからだなぁって。劣った人しか、自分が優れていることを証明できないんだよなぁって。自分が得意だって思ってる根拠は周りにあって、例えば皆歌が下手だから、自分は歌が上手いとか思っちゃう訳で。

出会う人によって、何一つ長所として認められない人もいるのかもしれない。全てにおいて欠陥品のレッテルを張られる人生って、どんなものなんだろうか。

世界は無情で、不平等だ。


***


ピピピピピピピ………

「……んん」

いつもの聞きなれたアラームで目を覚ました。時計は午前6時半を指す。朝は強いほうじゃない。本能に従ってアラームを止めて布団をかぶりなおす。もう一寝入り…

「寝すぎなんだよバカたれが!」

「!?」

聞きなれない声に、急に視界がクリアになる。

「だれ!?」

取りあえず一番の疑問を叫びながら飛び起きてあたりを見まわした。

付き合いが長い割にさほど使ったことのない勉強机の上にはいつぞやの模試の結果と分析表が無雑作に広げられ、その横に立てられたかわいいライトブルーのカラーボックスの中には、お気に入りのテディーベアや、世話が少なくて良いからという理由で購入した小ぶりのサボテンの鉢などが、丁寧に並べられている。

クリーム色の壁も、朝日を遮る空色のカーテンも、目玉焼きのような電灯も、やはり目に映るもの全てが私の日常の一部だ。

「お前、死んだんだよ」

「!?」

声は、私の問いを無視してさらなる爆弾をぶん投げてきた。

状況がつかめないままベットから飛び降りたそのとき。

「うげっ」

さっきの声と同じ声が足元から…。それでいてこの足の感触は…

「わああああああ!」

「人の腹踏みつぶしといてわああ、じゃねえよ!…ってぇ…。」

ベットのすぐ下に寝ころんでいた。見知らぬ男が。グレーのスーツがよく似合ってはいるけど着こなし方はテキトーで、いかにも気に入っていないといって感じだ。動けずにいる私をちらっと見ると、男はオーバーにお腹が痛い、のジェスチャーをして起き上がった。ポケットからはしわくちゃのネクタイが飛び出している。

「昨日の夜、お前は死んだ。あの世へ案内するからついて来い」

私は…死んだ…?

「死んだって私、どうやって…? さっきまで寝てたのに…?」

「知らねぇよ。ただこの部屋はお前の記憶が作り出したもんだ。ここはもう死者の次元だよ」

信じられるはずがなかった。この男を除いては、今日もいつもの朝なのだ。

というか…

「あなた何者!?」

そう叫ぶと走り出していた。少しの不安をかき消すため。本当にいつもと同じなんだって、自分に言い聞かせるために。

「ちょ…おい!!」

ドアへ駆け寄った勢いそのままにノブに手をかける。

ガシャンッッ

キィッッ


「……?!」


何もなかった。

いや、正確には、果てしなく真っ白な空間があった。だけどそこにはなんの情報もなくて、立っているのが下なのか上なのか、あるいは右なのか左なのかさえもわからない。まるで、神様が世界を描く前の広すぎるキャンパスに、突然放り込まれてしまったような。動くことを拒絶されたようなその空間を前に、呆然と立ち尽くした。


***


「あちゃ~…。でも分かったろ?死んだんだよ、お前は。」

「そんなことって…。」

どうしても信じられない。だけど、いくら心が拒絶したところで、私の目が映しだす景色はピクリとも動かない。

「早川ひなの、16歳、A型。身長153㎝、体重は、えぇっと38㌔。」

私の感情なんてお構いなしに、彼は小さな手帳を開いて私のプロフィールを読み上げた。体重まで知っているなんて、一体どこで情報を手に入れたんだろうか。「合ってるな?」と確認するようにこっちを見るから、オドオドと頷く。彼は満足げに手帳を閉じると、今度は自己紹介を始めた。

「俺は下崎空翔。かれこれ百数回はお前みたいな魂を神様のとこへ連れて行ってる。これからそこへお前も連れて行く。迷ったりは絶対しない。だから安心してついて来い。」

「そらと?」

なんだかカッコいい名前。改めて彼を見る。私より頭3個分くらい背が高い。見た目は20代後半といったところか。男の人だけど、年を聞くのは気が引ける。軽くウェーブがかった黒髪は耳の上あたりでしっくり収まっていて、しなやかな筋肉をつけた体はまるで海外セレブのガードマンのように力強い。

「実は神様がいるのもこことは違う次元でな。別に遠いわけじゃないんだがこのままじゃ行けねぇ。こことあっちを繋げる道を作らなきゃならないんだ。」

そう言うと空翔はさっきの手帳から私の情報が書かれたページをちぎり取って足元に置いた。そのまましゃがみ込むと、慣れた手つきで空に魔方陣のような模様を描いて何やらぶつぶつ唱え始める。すると紙切れがふわりと浮かび上がり、さっき魔方陣を描いた場所に飛んで行く。その周りが薄く光り、じんわりと白い空間が崩れ、真夜中のような暗闇の穴が姿を現した。

「わぁ…」

あまりに綺麗に進んでいくから、思わず見とれてしまった。でも、こうやって具体的になっていくにつれて、死んだ、っていうのが心を置いて現実味を帯びていくみたいで、なんか嫌だ。

 空翔はついて来いと言うようにこっちを振り返ると開けた穴の中に消えていく。悪い人ではなさそうだし、置いて行かれるのも嫌だから、空翔に続いて穴のないかに入った。

「怖いんだけど…。」

「我慢しろ。すぐ着くから。」

かろうじて空翔が歩いてるのが見えるだけで、あとは真っ暗だ。やっぱり怖い。たまらず空翔に駆け寄って袖を掴む。

「お前なぁ。」

呆れたような声は聞こえるけど、嫌がられたりはしなかった。なんだかんだ言って、優しい人なのかもしれない。

「だって暗いの嫌いだもん。まだ16歳だよ…ってあれ?」

私、まだ16歳なのか。

「ねぇ空翔、私16歳で死んだの?」

「そういう事になるな。」

冷静になって考えると、かなり早死にのような気がする。どうして死んでしまったんだろうか。思い出をさかのぼる。確か死んだのは昨日。昨日は何をしたんだっけ。思い出そうとするが、どうしても頭にもやがかかって思考を塞ぐ。そういえば、家族の顔が…思い出せない…?

「…あれ!?」

そして重大なことに気がついた。それは今まで違和感がなかったことが信じられないほど、大きなこと。

「どうした?」

「ない………!生きていたころの記憶が…ないの…!」


***


何一つ思い出せないのだ。それどころか、私が空翔と会った部屋の記憶すらさらさらと消えていく。部屋の間取りは?サボテンの種類は?私は寝ていたのは本当にベット?すべてが限りなく広がった霧の中に溶け込んでいく。私はなす術もなく狼狽えた。

「待ってよ!」

焦る暇すらくれず、ずんずんと歩いていく空翔の袖を引く。とにかく頭の整理がしたかった。空翔は歩くペースを緩める。

「死んだ人間は、生きていたころの自分に関する記憶を徐々に無くしてくんだよ。お前も俺と会った時点で結構な記憶をなくしてるはずだが、時間がたって更にそれが進行したんだな。」

当たり前のように空翔は言った。

「記憶があると、魂が上手く肉体から離れられないんだ。そんでそのまま死んだ土地とかに縛り付けられて、条件がそろえば根がいくら善人でも悪霊になっちまう。実際そういう魂も多くないんだが、多分お前みたいにこっちの世界へ来れたほうが幸せだよ。」

空翔は、最後まで歩みを止めなかった。そのまま、徐々に緩めたスピードが元のリズムを刻み始める。小さな不安が心の隅を叩く。

「私…なんで死んだの? 」

「知らん。」

感情のこもっていない返事に興味のなさが表れていて少し寂しい。…ん?寂しい?そうこうしているうちに空翔が歩みを止めた。まだ暗い道が終わった気はしないんだけど、ここが終わりなんだろうか。

「上だ。」

「上?」

指示とも説明とも取れない呟くような言葉に、反射的に上を見上げる。

「っ… ! 」

途端に猛烈な熱気が頭を貫き、衝撃波とともにたちまち全身を覆った。

「もうちょっとだ」

何がもうちょっとなのか聞こうと口を開いたのと同時に熱気がごぉごぉと大きな風になって足をさらった。

「やっ! 空翔!! 」

目を固く閉じ、体を丸めて嵐の晩のような状況に必死て耐える。間もなく瞼の奥に光をとらえて、そこがもうあの道てはないことを知った。光を感じてからは嵐は終息の一途をたどり、やがて静かに私を固い地面におろして散った。あたりは静まり返り、それはあの、真っ白な空間を思わせた。肩の力を抜いて、大きく深呼吸する。空翔の話が正しければ、この先に神様がいるはずだ。理由はどうであれ、私は死んだ。これからの運命は、きっとここで決まるんだってなんとなくわかるから、一回気持ちをリセットして臨みたい。立ち上がる足に自然と力がこもる。覚悟を決めて、瞼を持ち上げた。


「…なに…ここ…。」


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