体育祭
事の発端は体育祭で起きた。
俺が通っている学校は中高一貫校で、一つの大きな校舎の中に中学生高校生ともに在籍している。
そのためか、体育祭は中高合同で行われる大型イベントであった。
けど今回の体育祭は俺個人にとってつまらないイベントだった。
と言うのも、俺は今回は種目に参加出来ないからだ。
さっきも言ったけど、中学高校と一緒にいるから在校人数は軽く1000は超えてる。
下手したら2000に届いているかもしれない。
それほど数がいるのだから必然強制参加種目以外参加出来ない奴が出てくるわけで。
ええ、俺のことです。
同じクラスの写真部の奴が写真部の仕事のせいで二年の時には種目に参加出来なかったらしく、そうぼやいていた。
そこで心が広くてイケメンの俺氏は障害物競走の枠を譲ってあげたわけだ。
そんなわけであぶれた俺含めた種目に参加しない奴、参加はするがまだ先の奴はスタンド待機を教師陣より命ぜられ、観戦している。
ちな俺の隣に座っているのがクラス1どころか学校1と言っても過言ではない美少女である畠中未来だ。
なんで俺の隣にいるのかと言うと、俺と彼女の間がちょうど男女の境目なだけだ。
俺以外の男子が座る選択肢もあったのだろうが、他の男子は彼女の隣に座ることが気恥ずかしいのかなんなのかは知らないが、ウロチョロしているだけだったので俺がサッサと座ってやったわけだ。
下心の類が一切無かったとは言わないが、それも美少女の隣に座れるとかその程度のもので、あわよくば懇ろな仲になりたいだとかそういうのは一切無かった。
と言うのも、畠中さんは正統派黒髪美少女と言った感じで、オタクである俺とはとんと無縁の存在だと思っていた。
住む世界が違うから仲良くなれるわけねーべなと言った感じで。
——だがそんな関係が変わりはじめたのは、高校の200m走の時だった。
☆
「あっち〜……」
まだ5月初頭だと言うのに真夏日だと言われても納得しそうになるぐらい、その日は気温が高かった。
雲一つない快晴なのは体育祭日和なのかもしれんが、微風がちょこっと吹く程度じゃ体感温度も下がらない。
お陰で汗がダラッダラと流れ落ちている。
持参してきたタオルで汗を拭き、水筒に入っている冷えたお茶を飲みながら俺はボケーっとした表情で目の前の熱い戦いを観戦中なう。
暑いから頭に内容はほとんど入ってこないけどね!
時間が過ぎて、プログラムも幾つかこなされてから、高校の200m走が始まった。
流れる音楽の中、選手らが必死に走り自らが所属するブロックに貢献せんとする。
こういう流れる音楽は小学生とかだったら天国と地獄とかだけど高校生にもなるとちょっと趣向を凝らしたくなるのか色んな音楽が流れる。
確か騎馬戦はなんでか知らないがアレンジしたパイレーツ・オブ、○リビアンが流れていた。
で、今流れている音楽はと言うと、どうにもアニメとかゲームの曲くさい。
つーかどっかで聞いたことあるぞこれ。
普段はあまり使わない頭をそれなりに捻り、出てきた答えは——。
「「あ、デレ○スの曲だ」」
そう、これデレ○スの曲なんだよな。
これはop曲か。 これは放送部にオタクがいますねえ……。
……ん?
今隣で同じこと呟いた奴がいましたねぇ……。
はて? 俺の右隣には今は男子はおらず、左隣に美少女がいるのみなのだが……?
まさかと思いながらバッと左隣にいた畠中さんの方に振り向く。
そこにはこの猛暑の中にも関わらず顔をひどく青ざめさせていた。
俺、なんかやばいことしちゃったわけじゃないよね……?
「き、木原くん……。い、今の……聞いてた?」
「お、おう。 しっかりと聞いちゃったぞ。 しかし意外だったな、畠中さんがデレmむぐぅ」
何言ってんだ俺。
ここは嘘でも聞いていないと言うべき場面だよな。
真のイケメンは目で殺すらしいが俺はまだまだそれには至れないらしい。
それよりも女の子の手って柔らかいのな。
彼女の手が俺の口を塞ぎ、言葉を喋らせまいとしている。
これはアレかな? 舐めてもいいって意思表示かな?
あ、そんなわけない? ですよねー。
「き、木原くん。 体育祭が終わったら、お話、しましょ?」
おーっと、これは……俺、どうなるんだろうな?