十七歳のレジスタンス
夜の闇をまとって馬車は再び西へ向かう。もう港町が視界に入っていた。
馬の蹄が大地を蹴る音が、背後、東の方角から、つまりは森の方から聞こえた。
「爺さんたちも決起したみたいだ。荒れるぞ」
「ウミナを連れ去るには好都合さ」
「親友を忘れるな。リブラも救出するんだろ」
恋する馬鹿の盲目振りに呆れて溜息をつく。娘とよく似た娘を、よりにもよってこんな男に。もう一発殴ってやりたい気持ちになった。
港町の入口に差し掛かる。魔女と兵隊、それらに抗う別の兵隊たち。既に戦闘が勃発していた。やはり好都合だ。戦闘の空気に呑まれて、誰もかれも私たちの馬車には目もくれなかった。
「マチダ場所が違う。道を間違えたのか」
この町のことは、今すぐ地図に起こせるぐらいには把握したつもりだ。間違いなく、以前ウミナに出会った場所だった。状況を把握したモリノが、苦悶の雄叫びを上げていた。
端的に言うと、前見た屋敷の姿はなくなっていた。魔法の流れ弾でも受けたのだろうか。そう思わざるを得ない大損壊であった。しかし他人事ではない。
モリノに身体を引かれ馬車から引きずり下される。直後の爆発音とともに、馬車の車部分が、屋敷同様に破壊された。間一髪であった。
「お前たち味方じゃあないな」
女の声。ウミナとは違う、太い、戦士の声色だ。
私たちを見据えるように構えているのは、以前出会った、あの女軍団長だった。彼女も多分に漏れず、魔女の一人である。何とかここはやり過ごしたいが──
「私たちはウミナ姫の命を狙ってはいない」
「連れていく、ずっと遠くへ連れ去ってやるけどな」
「馬鹿、今そんなことを言うな」
軍団長の表情が険しくなる。
風を切る音がした。そして軍団長を目がけて、羽根つきの雨が降り注ぐ。よく辺りを見まわすと、男たちが建物の窓から弓矢を構えていた。
「モリノ、マチダ、行けえ」
「無事だったのか」
「早く行けって言ってる」
十七歳のレジスタンスを率いていたのはリブラであった。爺さんたちの味方なら俺たちの敵だが、心配は杞憂に過ぎないだろう。親友は自らの味方であると、信じて疑わない馬鹿がすぐ隣にいるのだから、それに続かざるを得ないだろう。
「海の巫女を攫うんだって、森からの伝書で知ったよ」
「お前は相変わらず楽しいやつだよ。馬鹿といると俺たちも楽しい」
モリノの胸に拳を翳すリブラ。他の連中も気持ちは同じようだ。
「すまん。任せた」
モリノに続いて走り出す。背には、幾つもの弓矢が弦を響かせていた。




