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天才博士シリーズ

天才ハカセと雪まつり

作者: 杉村 祐介

 私は天才発明家だ。依頼主の話を聞くだけで、期待通りの発明品を作ることができると自負している。これまで幾多の機械を作り上げ、人々の願いをかなえてきた。……クレームをつける依頼主もいたが、それは使い方を間違えただけで、断じて私の責任ではない。私の発明は絶対的なのだ。




 ある雪の日の事。前に作った機械の修理をしながら新しい発明のアイデアを考えていた私のところへ、隣町の町長がにこやかな顔でやってきたのだった。


「町長か、依頼の品はすでに出来てるが……。ずいぶんと嬉しそうだが、なにかあったのかね?」

「明日、町で雪祭りを開催するのですよ。ハカセさんも是非きてくださいね」


 そう言って、町長は一枚のポスターを渡してくれた。


「町の皆さんで雪像をつくって、美しさを競うコンテストなのです!」

「ほぉ、面白そうだな」

「一応当日参加も可能ですので、ハカセさんもまだ間に合いますよー」

「ほぉ……」




 町長が『絶対焦げないトースター』を持って帰った後も、私はポスターを眺めていた。中央に大きな雪だるまが、その周りには色々な雪像が並んでいるが、どれも一般人が作った程度の物だ。


「私ならば、最高の雪像を作り上げる事が出来るのではないだろうか。いや、私の発明ならば……」


 そう思ってしまっては、もう手が止まらないのが私だ。依頼されている機械の修理などそっちのけで、新作に取り掛かる。なぁに、寝なければ明日に間に合わせるなど簡単だ。

 そして一晩中、研究所の明かりが消える事はなかった。




 次の日。雪がいい感じに積もっているが空は晴れていて、最高の雪祭り日和といったところだ。

 雪祭りの会場にはすでに大勢の人と何体もの雪像が並んでいて、大盛り上がりだった。発明の最終チェックに時間がかかってしまい開会式には間に合わなかったようだが、当日参加の人達が雪だるまを作っているのを見ると、今からでも遅くはないようだ。私は背負っていた箱型の発明品を、雪の多そうな手ごろな場所に設置した。


 この発明品は、作りたいもののイメージと材料を入れるだけで、箱の中であっという間に形を整えてくれるという優れものだ。最終チェック時には雪ではなく土で作ってみたが、その仕上がりは上々の物だったのは忘れられない。

 私はイメージを入力して発明品が動き出したのを確認してから、周りの雪をせっせとかき集めていった。見慣れない機械とその音に驚いた人々がこちらを見ていたが、中でも子供達からの興味の視線が多かった。


「ねぇおじさん、何やってるの!?」

「この機械は何?」

「雪を入れて壊れないの?」


「はっはっは、今に見ていろ。すごいものが出来上がるからな!」


 私もいつもより期待していたのだろう、わくわくしながら雪をかき集めては機械に放り込んでいた。




「これはこれは、ハカセさんも参加されていたのですね!」


 ふと声をかけてきたのは町長だった。手には採点シートがある事から、作品を見に来たのだとすぐにわかった。


「町長、今回の優勝はいただいたぞ」

「といっても、見えているのは何かの機械だけですが?」


 町長が眉をひそめて発明品を指差したとき、それは合図を受けたかのように「プシュー」と煙を吹き出した。私は待ち遠しくなって歓喜の声を上げた。

 その言葉に、その場にいる全員が期待に胸を膨らませ発明品を見た。私は一瞬「しまった」と思い、期待を押し殺してあくまで紳士的に振舞うと、発明品のスイッチを幾つか押して動作をとめて、箱を台座から取り外した。


「さぁ、これが私の雪像だ!」




 しかし台座の上にあるはずの雪像は無く、ただ水が滴っているだけだった。


「なーんだ、水たまりを作る機械だったのか」

 そう子供が言ったのを、私は一生忘れる事は無いだろう。

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