妹のカラメアブラゾンビマシマシ
ゾンビは死なない。
そのことを偽妹に教えると、
「本当に死なないか試してみて良い?」
と聞いてきた。
「やめとけ」
とおれは言った。
「近所迷惑だから」
「そっか」妹はいじける。「やってみたかったのにぃ」
おれは偽妹の手から拳銃を奪った。
おれの偽妹はゾンビだ。
ゾンビだからまだ死んだことがない。
○
おれの町にはたくさんのゾンビがいる。
おれ以外は全員ゾンビだから当然だ。
来週くらいに、ヒトが襲ってくるという噂がさいきん出てきた。
だからみんな思い思いに、武装している。斧とか、包丁とか。
ヒトは容赦がないからみんな怖いのだ。
偽妹には友達がひとりいる。ハナちゃんという。偽妹のひとつ上だ。
ハナちゃんは可愛いが、たぶんまだ町の誰もハナちゃんとちゅうしたことはない。
ハナちゃんが妹を好きなのをみんな知っているからだ。
「野門くん、いまユメちゃんいます?」
おれが玄関のハナちゃんに返事をしようとすると、
「いるよー! ちょっと待っててー」二階から偽妹が声をかけてくる。
今日もハナちゃんは笑顔で偽妹を連れて行ってしまった。
どこで遊んでいるか詳しくは知らないがきっと公園とかだろう。
それくらいしか行くところも遊ぶところもない。
ゾンビたちはみんな、のんびりしている。
以前、ひとりあそびだろうか、家で偽妹がカラメアブラマシマシと唱えているのを聞いたことがある。
そういう遊びがあるのかもしれない。かごめかごめみたいな。
いずれにせよ、ゾンビの町には大した娯楽はないのだ。
○
ゾンビは冷たい。偽妹が風呂に入ってきてもおれは拒まないが、身を寄せられると死ぬほどひやっとする。
「今日ねー、ハナちゃんと一緒に海に行ったんだよー」
「海?」
「うん、海!」
おれはまだここに来てから海に行ったことはなかった。
「楽しそうだな」
「うん、あったかかった!」
「あったかかった?」
「海はおっきいからねー」
「すごいじゃん」
「ね、ええとね」
「なに?」
「今日、ハナちゃんとちゅうしちゃった」
そうか、とおれは思う。
「いいじゃん、ちゅう」
えへへ、と偽妹は笑い、
「マシマシでね」
「なんだそれ」
偽妹の頭を洗ってやって、一緒に風呂を出る。
○
翌日、ヒトがたくさんやってくる。十五人くらい。ゾンビは百人くらいいる。でもおれたちに拳銃は一丁しかない。
○
ゾンビは五十人減って、十四人増えた。十五人のうちの一人は偽妹が撃った。
ゾンビに噛まれたヒトはゾンビになるが、ゾンビに撃たれたヒトはただ死ぬだけだ。
○
ヒトにやられたゾンビは死ぬことはない。ただ土に埋められる。
偽妹はヒトにやられたハナちゃんを自分の家の近くに埋めた。
ゾンビたちはそのあと、呪文を唱える。また身近な仲間を失わないように。
きっと来月くらいにはなにかしら咲くだろう。土の中から。
<完>