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絆の力でソシャゲ攻略 決めろ!友情のユニオン・テクニック

作者: 御崎周
掲載日:2026/06/17

 桃内幸平は薄暗がりのダンジョンの奥地で、《鬼》と対峙していた。禍々しい角と牙、右手には巨大な棍棒が握られ、何よりこちらを睨みつける鋭い目が恐ろしい魔物であることを際立たせる。手に汗を握る中、棍棒による最後の一撃を受けた。そして――スマホの画面にGAME OVERと表示された、プレイヤーキャラのHPゲージが底をついたのだ。幸平は落胆のあまり自室の床に寝転び、涙ぐんだ声が自然と漏れた。

「また負けたぁ、どうしてだよー。」

中高生を中心に大流行中のゲームアプリ《ホットバトル・レジェンド》通称〈ホバレジェ〉は、プレイヤーが勇者となりダンジョン内を探索・魔物の討伐をしながら攻略するロールプレイングゲームだ。中学三年生の幸平は少し流行に遅れる形でそのアプリをインストールし数時間はプレイしているのだが、初級クラスの最後のステージ《鬼の洞窟》のボス《オーガ》が何度挑戦しても倒せない。ふと時計を見るともう夜の二十三時半を過ぎていた。

「やば!もうこんな時間か!そろそろ寝ないとな」

ゲームをまだ遊んでいたい気持ちは山々なのだが学校生活に影響が出てはまずいと思い、その夜はしぶしぶベッドに入った。


翌日

日中の学校を終え飛ぶように帰宅し、スマホを握りしめ近所の運動公園へ向かった。桃真は地域のバスケットボールの中学生向けサークルに所属している。ただ最近はバスケをする傍ら、同じ年齢でもありチームメンバーの友人三人と、スマホを持ち寄って毎度ホバレジェをプレイするのもお決まりになっていた。

――練習が終わり、幸平はばつが悪そうに未だ《鬼の洞窟》をクリアできていないことを三人に告げた。

「お前まだクリアできてないのかよー」

ハハッと笑うひょうひょうとした性格の猿橋健吾が、面白おかしくからかってくるのは昔から変わらない。だが不思議と嫌味っぽくは聞こえない、そんな天性の明るさが健吾にはある。

「どれ、キャラのステータスを見せてみろ――レベルは十分だな。となると問題はプレイヤーの腕ということか」

 眼鏡が似合い、三人の中で一番学業の成績が良い雉ヶ谷令二がスマホの画面を注意深く見ながらクリアできない原因を分析したようだった。

「幸平くんはまだ始めたばかりだし仕方ないよ。でも、この初級クラスをクリアしないと僕らと協力プレイできない訳だし……」

 人懐っこく、いつも温和で大人しい犬飼聡志も少し残念そうな声色で言った。彼の言う通り、初級クラス最後のダンジョンである《鬼の洞窟》をクリアしなければ三人と協力プレイで一緒に遊ぶことはできない。

「俺だって、早くみんなと一緒に遊びてえよ。だけど《オーガ》までようやくたどり着いても、なぜか思うようにダメージを与えられないんだ」

 令二がそれを聞いて何かに気づいたようだった、

「幸平、《KBダンゴ》を使っていないのか」

 《KBダンゴ》のKBは〈keep the benefits〉の略称で、このアイテムを使えば本来は時間経過と共に消えてしまうステータス上昇効果の持続時間を延ばすことができる、日本語訳通り〈恩恵を維持する〉のだ。初級クラスのダンジョンは入ると最初に「勇気が湧きステータスが上昇した。《KBダンゴ》を手に入れ、《カタナ》を装備した」と表示される。所謂、初心者救済の処置である。そのダンゴがアイテム欄に十数個とあった。

「おいおい。そんな便利な効果があったのかよ、これ!」

 幸平の初々しいリアクションが微笑ましいとも感じられる三人は内心、どうにかクリアさせてあげたい気持ちだった。バスケットボールの上達のためのシュート練習は誰よりも欠かさず、試合でも常に周りを鼓舞しリーダーシップを発揮するのは幸平なのである。言葉にはせずともスポーツを通してできた信頼関係が四人にはあった。幸平を手助けする秘策の用意があった。健吾がにんまりと笑い、話し始めた。

「このゲームには便利機能があってだなぁ、《アイテム交換》だ」

「《アイテム交換》ってあの……」

ゲームのトップメニュー画面に確かにそのアイコンはあるのだが、もちろんまだ利用したことはない。

「その機能を使って俺たちの余っている《テクニック・シール》をお前に渡すのさ」

 令二がこと細かに説明してくれた。中級クラス以上のダンジョンで入手できるそれは攻撃や防御に使える呪文や窮地を脱する特技のことを指し、そういった新たな能力を自分のキャラに付与することができるのが《テクニック・シール》だ。

「それを使えば幸平くんのキャラがパワーアップするんだよ!」

 聡志の目が輝いていた。

「僕があげるのは《マッスルアップ》!ステータスの攻撃値が上がるから、敵に与えるダメージが増えるよ」

バスケットボールでもゴール下で力比べを行うことの多いポジション〈センター〉の聡志らしいテクニックだと笑みが漏れた。

「ほら、受取りな《ナイスジャンプ》だ!ダンジョン内でジャンプの高さが上がるから穴の空いた場所を飛び越える時や、高い所にあるアイテムも取りやすくなる。初心者さんにはうってつけだろう」

 身体能力が高く機敏にコート内を駆けまわる〈スモールフォワード〉の健吾のイメージにぴったりなテクニックだ。

「俺が渡すのは《エネミーサーチ》だ!その名の通りマップ上で敵の位置が表示されるから必要のない戦闘は避けていけばいい」

 これまた、令二らしいテクニックだ。コート全体を見渡しチームメイトに的確なパスや支持を出す〈ポイントガード〉が彼のポジションである。

「これをお前のアイテム欄の肥やしになっている《KBダンゴ》と交換してやるからよ」

「そうだな、俺も《KBダンゴ》と交換なら構わないぞ」

「《KBダンゴ》は中級ダンジョンでも使えるアイテムだからね、嬉しいよ」

 十個以上持っているわけだし、またダンジョンに入ればもう一つ入手できるアイテムなので全く問題はなかった。こうして桃真のアカウントに三つの《テクニック・シール》が集まった。

「三人ともサンキューな!充電少ないから家に帰ってからやってみるわ!」

 自分のキャラが強化され、今度こそクリアできると弾む気持ちを抑え帰宅することにした。

「今度こそ《鬼》なんて倒しちまえよ!お前がこのチームのナンバーワン〈シューター〉なんだからな!」

 健吾に発破をかけられ、いっそう気合が入る。

「あぁ、鬼退治はまかせな!じゃ、また明日な!!」

 幸平を見送った後、三人もまた心を躍らせていた。

「あいつ《アレ》にちゃんと気付くかなぁ」

「《アレ》はその時になればゲーム画面に表示される。心配ないだろう」

「必ずクリアできるよ《アレ》を使えば!ファイト」

 どうやら三人にはまだ伝えていない《とっておき》があるようだった。


 その夜

幸平はダンジョン《鬼の洞窟》の攻略に挑んだ。「勇気が湧きステータスが上昇した。《KBダンゴ》を手に入れ、《カタナ》を装備した」と幾度となく見せられた表示をスキップし、マップを進んでいった。

《ホバレジェ》のダンジョン内での敵との戦闘は〈シンボルエンカウント〉である。これは表示された敵の姿にプレイヤーキャラが接触することで戦闘が発生するシステムだ。 まず《エネミーサーチ》でマップ内の敵の位置を確認した。初級ダンジョンと言えど厄介な魔物は何匹かいたので、それらとの戦闘を避けつつ進んでいく。

今度は、床に小さな穴がいくつも空いたマップが出現するが、ここは《ナイスジャンプ》のおかげでゲームに不慣れな桃真でも楽々と進むことができた。道中、避けては通れない敵との戦闘も発生するが、《マッスルアップ》で強化された攻撃によって効率よく戦闘をこなすこともできた。

「そうそう、《KBダンゴ》も忘れずに使っとかないとな!」

 順調にダンジョン内を進んでいき、遂にラスボス《オーガ》の待つマップの前までたどり着いた。一呼吸置き、意を決してボス戦へと挑んだ。

 このゲームの戦闘はターン制であり、プレイヤーと敵とで交互に〈攻撃〉〈防御〉〈テクニック〉〈アイテム〉いずれかのコマンドを選択しその行動を行っていく。

順調にダメージを与えていき、《オーガ》のHPゲージを四分の三ほど削り切ったところでそれは起きた。《オーガ》の攻撃ターンに「大きく振りかぶった棍棒が振り下ろされた」と表示され、ズガンというゲーム音と共に通常攻撃よりも強力な一撃を受けた。

「おわっ」

HPゲージの三分の一以上を減らすダメージを受け、思わず声が出た。残りHPは四分の一ほど余裕のある内に回復アイテムを使えば良かったと後悔するが、次の行動をどうするべきか。悩みながらコマンド選択画面に切り替わると〈テクニック〉コマンドが赤く点滅していた。

「戦闘中に使えるテクニックなんてあったか?」

ユニオンテクニック《スカイハイ・インパクト》と表示された。詳細を開くと三人から譲り受けたテクニック三つを持つことが条件で使用できるここ一番の大技のようだ。

「あいつら、こんな奥の手まで用意してくれやがって!」

 これでとどめだと言わんばかりに画面をタップする。派手な演出の一撃が見事に決まり《オーガ》を倒し画面に念願のCLEARが表示された。

「おっしゃー!」


翌日

 いつもの公園に聡志、健吾、令二が待っている。胸を張った桃真の様子を見て三人も察したようだった。

「《鬼》に勝ったぜ、俺!」


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