第3話:自己犠牲の男
無事(?)パーティー名が決まり、私たちはギルド登録料として、あの男から投げ渡された銅貨から、その一枚を支払う。
登録所内の掲示板には、この世界の「お仕事」であるクエストというものが並んでいた。
薬草採取からモンスター討伐まで、その内容は多岐に渡るが、やはり報酬が高いのは討伐系のようだ。
『街道に出没するワイルド・ウルフの討伐。その死骸を運搬すること』
「……正直、私にはどれくらい危険か分からないんだけど、これ、大丈夫なのかな?」
不安になって二人に聞いてみる。
「難易度は僕たちのレベルからすると同等か、少し上くらいですね。やってみましょう、危険な時は撤退で!」
中村さんが、舞台俳優らしい通る声で言う。
黒田さんも「やってみる価値はありそうだな」と頷いた。
(……まあ、男の人が二人もいるし、なんとかなるのかな)
私はまだ不安を抱いていたが、二人を頼ることにした。
◆◇◆
出発の前に、町で最低限の装備を整える。といっても、手持ちの銅貨は心もとない。
お金がないので、黒田さんは一番安い『なまくらな鉄の剣』を一本。
黒田さんが、私を案じて声をかける。
「河瀬さんは、装備なくて本当に大丈夫か?」
「うん、私は剣とか扱えないし、武器はいいかな。お金もないしね。それに私の能力、出し方も使い方も分かってなくて装備が合っても上手く使いこなせないと思うから。みんなの食料品にお金を回して」
「分かった。じゃあ、俺が剣で戦ってみるしかないな」
中村さんも「どう立ち回ればいいか分からないなあ」と言いつつ、購入した日持ちのする携帯用の干し肉を、その懐に詰めた。
黒田さんが頼もしく剣を握る。彼は大柄で筋肉質だ。このメンバーの中で、戦闘において先頭に立つのに最も適しているのは、間違いなく彼だろう。
町を出て、隣の町へ向かう街道を歩く。
のどかな風景。平原を歩くが、周囲に人気はなく、この町がどれほど辺鄙な場所なのかがよく分かる。
「河瀬さんは元看護師さんなんですね。……なんでスキルが『レーザー』なんですかね?」
中村さんが歩きながら私に話しかけてきた。
「たぶん、脱毛クリニックで働いてたからだと思うわ。毎日、施術でレーザー照射してたし」
「へえー! レーザーなら、なんか強そうですね!」
「うん、そうだといいけど⋯⋯」
(でも肝心の使い方が分からないんだよね⋯⋯)
そんな私たちの呑気な会話を遮ったのは、黒田さんの鋭い声だった。
「――おい、見ろ!」
その先には、一頭の野生の狼――ワイルド・ウルフが歩いていた。まだこちらには気づいていないようだ。
「どうする、やるか?」
「……怖いけど、大丈夫かな」
「やるしかないですよ、ここまできたら!」
私たちは、剣を所持している黒田さんを先頭にゆっくり近づく。気づかれないように、できるだけ接近して斬りかかる「奇襲スタイル」で行くことを確認し、慎重に距離を詰めた。
しかし、私たちの匂いを嗅ぎ取ったのか、あっさり気づかれる。
「うっ!」
黒田さんが身構える。狼はすぐさまこちらに飛びかかってきた。
すかさず剣で応戦する。
同時に、金属の嫌な音が響く。
黒田さんは狼をいなして、再び物理的な距離を空けた。
しかし、狼の牙によって、安物の剣先はあっさりと折れてしまっていた。
「……俺が相手をしている間に、お前たちは逃げろ! たぶん、こいつは強い!」
黒田さんが折れた剣を構え直し、私たちの前に立ちはだかった。
「逃げろ!!」
彼は強く叫ぶ。
「何言ってるの!?」
「時間を稼ぐ! このままだと、俺たちは全滅するぞ!」
「そんな⋯⋯」
足がすくむ私。
(見殺しにしろってこと? そんなことできないよ。でも、どうすれば……)
中村さんも何をすべきか迷っているようだ。
私たちは、あまりに無力だった。
狼が再び、黒田さんに飛びかかる。
私は思わず、「彼を助けて」と願い、強く念じた。
その瞬間。
私の手から、目も眩むような鋭い光の一筋が、狼に向かって伸びていった。




