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第29話:不敵な交渉人

「中村さんと黒田さんのことを、お話します」


 私はヴェリウスさんの向かいに座り直し、静かに口を開いた。

 この屋敷を旅立ってからのことを、順を追って話した。


 中村さんは、おそらくスキルの影響により、姿形も性別も、女性の魔法使いへと変わってしまったこと。現在も元の姿には戻れていないが、その代わりに強力な魔法を操れるようになったこと。


 黒田さんはスキルによって身体能力を大きく引き出せるようになっていたこと。そして漆黒の竜との戦いでは、私たちの身体能力を引き出すとともに、自分の限界以上の力を引き出していたこと。


 そして、中村さんの魔法と黒田さんの攻撃を駆使して、どうにか漆黒の竜(ブラック・ドラゴン)の討伐をやり遂げたこと。

 だが戦いの後から、二人の様子がおかしくなったことを伝えた。


 心身ともに疲弊し、日常生活にも支障をきたしていること。フィリアという街の診療所で休んでいること。そして一週間が経っても回復の兆しが見えないこと。

 さらに、あの戦いが影響しているのではないかと私が考えていることも伝えた。


 ヴェリウスさんは腕を組んだまま、一言も遮らずに聞いていた。


「……医師はどう言っている」

「黒田さんの回復には、何か別の要因が邪魔しているのだろうと、医師は考えているようです」

「……その医師、魔法には詳しくないのだろう。黒田の問題は、肉体的な要因だけではない」


 ヴェリウスさんは眉を寄せたまま、しばらく黙っていた。


「ところで、なぜ私のところに来た?」

「あなたは、私たちのスキルの本質を、この世界の誰より早く理解してくれた人だからです。そして、私たちのことを誰よりも見てくれた」


 ヴェリウスさんは何も言わなかった。


「それに、あなたにどうしても伝えておきたいことがあります」

「……何だ」

「私たちは、この力を乱用するつもりはありません。確かに漆黒の竜の討伐は、お金のためでもありました。でも、それだけじゃなかった。道中でモンスターに襲われていた人を助けました。困っている冒険者を助けたことだってある。この力は、困っている人のために使うものだと、ずっとそう思ってきました。黒田さんも、中村さんも同じ思いです。それはきっと、これからも変わらない」


 私は続けた。


「私たちは、金貨を持ち逃げすることだってできたんです。でも、そうはしなかった。こうしてあなたのところへ戻ってきた」


 ヴェリウスさんはじっと私を見ていた。


「だから、二人を助けるための方法を教えてください。私たちを信じて欲しい。もちろん、タダでとは言いません」


 私はケースから金貨を取り出し、テーブルに置いた。

 ジャラリと、重い音が鳴った。


「これは、あなたへのお支払いです。これまで私たちを指導してくれたことへのお礼と、二人を助けるための前払いです。金貨30枚です。他に費用が必要なら、追加で出します。二人の合意は事前に得てきました。これが、私たちの出した答えです」


 ヴェリウスさんはテーブルの上の金貨をしばらく見つめた。

 旅立つ前に二人に相談したことは、金貨30枚をあの青年のためにヴェリウスさんを通じて返済すること。そして、ヴェリウスさんに金貨を渡すことで、解決策を見いだすことだった。


 私は内心で息をのんでいた。


(もし断られたら? いや、断らせない。あの時の、救世主みたいな青年は現れない。私が意地でも首を縦に振らせてみせる。私は、彼らのリーダーなのだから)


「仮に私が断ったら、お前はどうする気だ」


 私は一瞬だけ言葉を飲み込んだ。


「……諦めません」

「……諦めない?」

「別の方法を考えます。治す方法を探します。やり方を知っている人間がいるなら、そこへ行きます。絶対にやり遂げます。だけど⋯⋯最初に頼む人はあなただと、ずっと決めていました」


 ヴェリウスさんは私をしばらく無言で見つめ、それから小さく鼻を鳴らした。


「……そんな報酬を目の前に積まれて、断る人間はいないだろうな」

「そのために、ここに来ましたから」

「……フン」


 少しの間があった。


「分かった。お前の覚悟は理解した。その報酬で手を打とう」


 一拍置いて、付け加えた。


「適正な取引だ」


 私は小さく、深く息を吐いた。


「ありがとうございます」

「礼はまだ早い」


 ヴェリウスさんが振り返り、こちらを見た。その目は鋭かった。


「二人の事情を整理する。まずはあいつ、中村の方だが……あのスキル、『メソッド・アクト』は役に成り切ることで能力を引き出すものだったな」

「はい」

「熟練の魔法使いという役を演じることで、本来、長年かけて積み上げられるはずの魔力を、本人の器に関係なく引き出してしまった。もはや中村の器には、その魔力を扱うだけの容量がなくなった。いわば器の中が空になったのだ。だから外から補填してやる必要がある」

「補填ですか……」

「ああ。そして、黒田の方は、問題の構造が違う。あいつは自分の肉体の力を、本来あるべき能力以上に引き出した。『パーフェクト・アライメント』だったか。意図的にそれを願い、維持し続けた。肉体には、いわば負債が蓄積している。それを取り除いてやらないと、じわじわと肉体を蝕み続けるだろう。これから先、何年、何十年とかけてな」


 私は黙って聞いていた。


「つまり、中村には『与える』処置。黒田には『取り除く』処置だ。方法は異なる」


 ヴェリウスさんが、はっきりとこちらを見据えた。


「ここからが肝心だ。これからお前に託す方法は、危険な魔法だ。王都の魔法研究でも禁じられているような代物。中村には自分の魔力を分け与える。黒田に溜まった負債は、お前が引き受けて取り除く。言い換えるなら、お前が彼らの借金を肩代わりするようなものだ」

「……私が借金を返す」

「そうだ。そして、お前に要求するものがある。それは覚悟だ。この先、何を体験することになるか、どんな痛みがあるのか、私にも正確には分からない。もちろん、お前の身の安全は保証できない。それでも、お前はやるのか?」


 迷いはなかった。


「もちろんです」


 それを聞いたヴェリウスさんは、長い沈黙の後、口を開いた。


「⋯⋯それでは教えよう。よく聞け」


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