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第12話:聖女と死神

 ヴェリウスさんの屋敷を後にしてから、五日ほどが経過していた。

 私たちは、北東の渓谷へと続く街道を歩いて向かう。


 道中、いくつか林や森を抜け、野宿を繰り返しながら進んできた。出発前日に野宿用のアイテムや保存食などの買い出しを済ませておいて、本当に正解だったと思う。


 空間魔法のおかげで、保存用の食料も大量にストックできたのは大きい。当分は食料不足になることはないだろう。


 支払いに使ったのは、ワイルド・ウルフ討伐で得た銀貨と銅貨だ。

 そもそも金貨は価値が高すぎて、この付近の町での買い物には基本的に向かないらしい。それに、あのお金はヴェリウスさんからすれば「投資」かもしれないが、私たちからすれば実質「借金」だ。

 万が一の時まで、手をつける気にはなれなかった。


「……ねえ、ずっと気になってたんだけどさ⋯⋯」


 舗装された街道を歩きながら、私は二人に切り出した。


「あの金貨のこと。やっぱり違和感あるというか、変だよね?」

「あ、僕も思ってました」

「ああ、俺もだ」


 意見が一致したところで、私は核心を口にする。


「たぶんだけど、あのお金……」


「あの男性が」「あの男が」「あの青年が」


 三人の声がピタリと重なった。

 私たちはしばらく見つめ合い、そして思わず吹き出した。


「やっぱり不自然すぎるよね。あそこで金貨を受け渡して、そのまま私たちにスライドさせてただけなのかも」

「あ、僕は途中からそうだろうなあと思ってました。だけど、あの人、えーと、あー、あのおじさんのメンツを重んじて黙ってたんですよ」

「……ヴェリウスさんね」


 分かった。たぶん人の名前覚える気がないな、この男は。人の名前を覚える労力を、極限まで省エネして生きていくタイプ。

 元役者だから、普段からお芝居で、役の名前とかセリフを沢山覚えないといけないのかも。それなら許しておこう。


「そうすると、あの人は中途半端に投資された金貨を、自分の懐に入れるわけにはいけないって感じなんですかねー」

「どういう取り決めがあったかは分からんが、金貨を俺らが30枚稼いだら、受け取るとか言ってたよな」

「まあ、また私たちがお金貸してくださいって泣きつかれるのも、面倒なだけかもしれないけどね。さて、これからの計画だけど⋯⋯」


 私は町で買った地図を見ながら歩く。


「渓谷までは、まだまだ道のりがありそうだし、途中の町でクエストをこなしながら、のんびり行きましょ。それまでに金貨が稼げちゃえば、無理してドラゴンを倒さなくてもいいわけだしね」

「そうですね。命の保証がないとか脅されてましたし、安全第一で!」

「ああ、同感だ!」


 街道を歩いてきたが、以前ならワイルド・ウルフが出没したであろうエリアも、今は静まり返っていた。


「もしかして、私たちがこの間、結構駆除しちゃった感じなのかな」

「50体以上ですからね。町の平和と観光に貢献できましたね」


 そんな話をしていると、前方から馬に乗った人の姿と、蹄鉄ていてつの音が聞こえてきた。


 甲冑姿の一人の男。


 こちらへ向かってくる。勇ましく堂々とした、いかにも「中世の騎士」といったオーラを放つ人物だ。


 すれ違いざま、軽く会釈をすると、向こうも爽やかに挨拶を返してくれた。


「なんか、今の人は『本物の騎士』って感じでしたね! かっこいいなあ!」

「やけにテンション高いね、君」

「憧れるじゃないですか。いつか僕もあの格好、してみたいなあ」

「似合わないと思う」

「即答!?」


 あの人は王国を警備している人だろうか。こんな辺境まで見回りに来るなんて。立派だなぁ。

 そして、馬をる彼の姿は、あっという間に小さくなっていた。


「馬、いいよねぇ。乗り物として欲しいな」

「そもそも、姐さんは馬、乗れるんですか?」

「乗ったことないけど、でもこういう異世界に来たら、デフォルトで乗れるスキルとか身についてるんじゃないの?」

「いやー、どうでしょ。僕は無理な気がします」

「俺も乗れない方に賭ける。金貨1枚」

「あ、僕もそっちに1枚」

「賭けるな。っていうか、黒田さんまでそっち側に回るとやりづらいので、次から禁止で」


 なんだか冒険者パーティーの旅路というより、トリオ漫才の巡業みたいになってきた。


 そんなおふざけをしているうちに、前方に森が見えてきた。

 それほど深くはなさそうだが、街道を外れれば何が出てくるか分からない。


「警戒していこう」

「ええ!」

「そうですね!」


 道は舗装されているが、周囲は高い木々に覆われている。鳥の鳴き声が響く中、特に異変もなく進んでいた。

 だが――。


「……待って。何か聞こえない?」


 道から外れた奥の方で、荒っぽい声が響いた。


『金を出せば命まではとらねえからよ!』

『お、お許しを……このお金は家族のための大事な……』

『口答えするな!』


 何かが叩かれるような、鈍い音が聞こえる。


「……もしかして」


 私は声を潜め、二人にアイコンタクトを送る。


「どうする?」

「放っておけないですよ」

「ああ、様子を見てみよう」


 私たちは茂みを避け、足音を殺して近づいた。

 そこには、刀のような物を持った野蛮な男たちが、男女の一般人を囲み、脅している光景があった。


(……盗賊とか、そんな感じかな⋯⋯)


 小声で確認し合い、どう動くか相談しようとした、その時。


「おい、お前ら。そこで何をしてる」


 背後から別の男に声をかけられた。

 ――しまった。別の見張りがいたのか。


◆◇◆


 男に促され、私たちは茂みから引きずり出されるように、盗賊たちの前に立たされた。


「持ってる武器も杖も、全部よこせ。変な真似をしたら命はないぞ」


 私たちは指示に従い、中村さんの双剣や私の杖を差し出した。


 盗賊の一人が、脅されていた男女に尋ねる。


「こいつらはお前の仲間か?」

「い、いえ、知らない方です……!」

「ほう。じゃあ、茂みに隠れて、俺たちを出し抜くつもりだったのか」

「いえ、そんな。物音がしたので通りかかっただけで……」

「黙れ。許可なく喋るな」


 リーダー格の男が、手元でナイフを弄びながら、私を値踏みするように見た。


「お前らも、有り金全部出せば、命だけは助けてやる。装備からして、旅を始めたばかりのヒヨッコか? お嬢さんは、薬草でも摘みに来たのかな?ええ?」


(確かに、ちょっと前まで薬草採集してたけどっ!)


 悔しさがこみ上げる。

 それに、金貨を沢山持っている状況で、カツアゲなんて冗談じゃない。


 私は目配せをして、二人に合図を送った。


(行こう⋯⋯!)


 杖は取り上げられたが、これまでの特訓で基礎はマスターしている。杖なしでも、やれる!


「……喰らえ」


 私は左手で、盗賊たちの集団に向けて、蓄熱式レーザーを広範囲に見舞った。

 同時に、背後で私たちを捕まえていた男に向けては、右の指先を立て、ピンポイントで熱破壊式レーザーを放つ。


「ぎゃあああ!?」

「う、うおおおっ! 熱っ、熱いいいい!」


 盗賊たちが絶叫を上げ、地面を転げ回る。


「大丈夫。死なない程度に加減したから」


 あれ、思っていたよりも悶えている。

 ちょっと出力が高すぎたかも⋯⋯。ごめん⋯⋯。


「……なんか、姐さんのレーザー⋯⋯。海外の特殊部隊が持ってるスタンガンみたいですね。撃たれると動けなくなるやつ」


 中村さんが感心したように漏らす。


 熱破壊式レーザーの直撃を受けた男はそのまま気絶したが、他の連中は全身を襲う激痛と痺れに怯え、震えていた。


「お、お許しを……どうか命だけは……」

「もう二度と悪さしない? 誓える?」

「は、はい! すみませんでした! なので、命だけはお助けを⋯⋯」

「次に見かけたら、こんなもんじゃ済まないから」


 私はさらに脅しとして、出力を上げた極細のレーザーを男の足元の地面に放った。硬い地面が、一瞬で溶けて小さな穴が開く。


「ひいいいっ! 化け物っ!……死神タナトス、死神だ……!」


 男の一人がそう呟き、気絶した仲間を担いで、一目散に逃げ去っていった。

 

(なんか悪口言われた⋯⋯?気のせいかな?)


「ふぅ⋯⋯一件落着ですね。杖なしでもスキルが出せるように特訓しておいて良かった。ヴェリウスさんに感謝だね」

「ああ、基礎は大事だな」


 私は腰を抜かしていた男女に歩み寄った。


「大丈夫ですか?」

「は、はい! おかげさまで助かりました。なんと御礼を言えばよいか……」

「無事で何よりです。あ、怪我をしてるじゃないですか。黒田さん、お願いできますか?」

「もちろんだ」


 黒田さんが男性の肩に手をかざす。『パーフェクト・アライメント』による、青白い光が包み、一瞬で癒していった。


「あ、痛みが消えた……! ありがとうございます!」

「いえいえ、大したことはしていないので」


 助けられた女性が、涙ぐみながら私を見上げた。


「なんと慈悲深い方々……。それに、あなたは⋯⋯。まるで『聖女様』のようです」

「いや、いやいや……そんなぁ⋯⋯」


 聖女。

 悪い気はしない。ちょっと嬉しい。よし、このまま聖女を目指すのも悪くないかも。

 なんて内心でニヤけていると、さらに尋ねられた。


「あの、あなた様のお名前をお伺いしても……?」

「え? いや、その、えー……名乗るほどのものでも、ないのでぇ……」


 ……キョドった。完全に挙動不審だ。妄想に耽っていたからか、心の準備ができなかった。

 こうして、私の「聖女計画」は、秒で崩壊した。


「僕たちは、『ダリオスの翼』という者です」


 後ろから、中村さんが、無駄にいい声で名乗りを上げた。


「ダリオスの……翼、ですか。本当にありがとうございます⋯⋯!」

「お二人も、道中お気をつけて」


 爽やかな笑顔で男女を見送った中村さんに、私は冷たい視線を向ける。


「なんか、いいところ持っていったね?」

「姐さんが名乗らないからですよー。 恩人の名前を知りたいっていうのは世の常ですし、パーティー名ですので!」


 まあ、それは一理あるか。


(っていうか、『ダリオス』とかいう、謎のネーミングのせいで、本当の魔導師さんの名前、忘れそうになるんだけど……)


 まあ、いいか。誰も怪我しなくて済んだしね。


「さあ、行きましょうか」

 

 私たち「ダリオスの翼」は、再び歩き始めた。


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