表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/141

黒髪に戻したら、尻尾で制裁された件

エンデが言葉を理解しているのか?


 一瞬そう思ったが、すぐに俺はその考えを捨てた。


 猫って、やたら空気を読む。


 というか、読んでるように見える。


 エンデもその類なんだろう。


 ……たぶん。


 そう思うことにした。


 すると、しずかが俺の袖を軽く掴み、静かに言った。


「……元の色に戻す?」


 さっきまでの不安そうな雰囲気は消え、もういつものしずかだった。


 俺は少し安心して笑う。


「しずかはどうしたい?」


 しずかは少しだけ考えた後、淡々と答える。


「……外に出る時は、この色に変えてほしい」


「うん」


「でも、家にいる時は……いつもの髪色でいい」


 ……それ、俺も助かる。


 黒髪のしずかが、やっぱり落ち着く。


 俺は素直に頷いた。


「わかった」


 そう言って、以前覚えた魔法を思い出す。


 色を変える魔法――簡単な幻術みたいなものだ。


 俺は指先をしずかの髪へ向け、イメージする。


 “夜の闇みたいな、あの黒髪を。”


 ふわり、と。


 しずかの金色の髪が、淡い光を帯びながら色を落とし――


 元の黒へ戻っていった。


 しずかは髪の先を手元にたぐり寄せ、自分の髪を見つめる。


 そして、確かめるように小さく頷いた。


「……戻った」


「うん」


 俺も改めて見て、思った。


 やっぱりこれだ。


 この黒髪が、しずからしい。


 落ち着く。


 しずかの存在が、ちゃんと“ここにある”って感じがする。


 俺は思ったまま口に出してしまった。


「……やっぱ俺、こっちの黒髪の方が好きだわ」


 しずかは一瞬だけ目を伏せ、ぽつりと返す。


「……そう」


 声はいつも通りなのに、どこか柔らかい。


 嬉しいのか、安心したのか。


 ほんの少しだけ、空気が温かくなった。


 その瞬間だった。


 バシッ。


「痛っ!?」


 頬に何かが当たった。


 反射的に横を見ると、エンデが尻尾をふわりと振り下ろしていた。


 ……俺の頬を叩いた。


 完全に叩いた。


「お前、今の絶対わざとだろ」


 エンデは何事もなかったように目を細め、すました顔をしている。


 ……こいつ。


 俺は仕方なくエンデを抱き上げ、首元を撫でた。


「はいはい。悪かったよ。構ってやるから機嫌直せ」


 エンデは喉を鳴らし、満足そうに目を閉じた。


 ちょろい。


 いや、俺がちょろいのか。


 特にやることもないので、俺はエンデを撫でながら、しずかに料理の感想を聞いたりして過ごした。


「スープ、美味かったな」


「……うん。あれは、反則」


「反則ってなんだよ」


「……美味しすぎる」


 淡々と言うのに、内容が可愛い。


 そんな時間が流れていると――


 勢いよく扉が開いた。


「ただいまです!!」


 ゆなが元気よく帰ってきた。


「おかえりー。どうだった?」


 俺が聞くと、ゆなは胸を張って言った。


「本当にルナさんに会えました!」


「マジかよ……」


 あの勘、当たるんだな。


 ゆなは続ける。


「理由を話したら、すっごく面倒くさそうな顔をして……」


「想像つく」


「でも、すぐ城へ走って行きました!」


 俺は深く息を吐いた。


「……また何か言って金稼ごうとしてるだろ、あいつ」


 ありがたいんだけどな。


 ただ、そのたびに面倒ごとが増える。


 俺がそんなことを考えていると――


 ゆなの後ろに、見知らぬ影が立っていることに気づいた。


 いや、見知らぬじゃない。


 見覚えありすぎる。


「……コウヘイ?」


 そこには、泣きそうな顔をしたコウヘイが立っていた。


 俺の肩に手を置き、震える声で叫ぶ。


「たける!!金がねぇ!!」


「第一声がそれかよ!」


 俺は思わず突っ込んだ。


 コウヘイは肩を落とし、悲壮感たっぷりに語り出す。


「最近土木の仕事がなくてよ……それに……」


「それに?」


 コウヘイは遠い目をした。


「ルナを口説こうと思って、何回も飯に連れて行った……」


「……あー」


 なるほど。


 原因は完全にそれだ。


 俺はため息混じりに言った。


「それ、いいように使われてるだけじゃないか?」


 コウヘイは即座に顔を上げた。


「そんな事はねぇ!!」


 全力否定。


 いや、全力否定できる要素がない。


「もう少しで口説き落とせるはずなんだよ!!頼む!!」


 その姿は――


 現代でいうなら、脈なしキャバ嬢に全財産突っ込む男。


 俺は思わず同情してしまった。


 ふと見ると、ゆなとしずかの目も、なんだか哀れみを含んでいる。


 俺は咳払いして言った。


「……わかった。協力はする」


「おお!!」


「ただし、俺ができるのは討伐依頼とか、金になる仕事の情報を回すことだけな。あと、俺の方でもいい仕事があったら声かける」


 コウヘイは感動したように両手で俺の手を握った。


「たける……お前、いいやつだな……!!」


「やめろ、泣きそうな顔で握るな」


 コウヘイは何度も頷き、帰っていった。


 扉が閉まると、ゆながぽつりと言った。


「コウヘイさんって……顔はいいんですけどね」


「言い方が残酷だな」


 俺は苦笑いする。


 少し気になって聞いてみた。


「ゆなはコウヘイみたいなのがタイプなの?」


「私ですか?」


 ゆなは顎に指を当てて考えた後、あっさり答えた。


「顔はいいと思いますけど、タイプではないです」


 バッサリ。


 俺は笑ってしまった。


「そうなんだ。じゃあ逆に、どういう男がいいとかある?」


 すると、ゆなは何の迷いもなく言った。


「結婚するなら、たけるさんみたいな人がいいです!」


「……俺?」


 一瞬、頭が止まった。


 嬉しいのか、困るのか、判断がつかない。


 すると、ゆなは慌てて手をぶんぶん振り出した。


「あっ!違います違います!!」


「え?」


「たけるさんのことは好きですけど!そういう好きじゃなくて!」


 早口すぎて逆に怪しい。


「頼れるおにいちゃんって感じなので!好きと言ってもちょっと違う好きというか!」


 俺は苦笑いした。


「わかってるよ」


 そして、正直に言った。


「俺もゆなのこと、妹みたいなもんだと思ってるし」


 ゆなはぱっと顔を明るくした。


「そうなんですね!」


 そして、目を輝かせて言う。


「じゃあ今度から、おにいちゃんって呼んだ方がいいですか?」


「いや、それはやめろ」


「ですよね!」


 笑いながら頷くゆな。


 平和だ。


 ……平和なんだけど。


 その瞬間。


 俺の横から、冷たい視線が突き刺さった。


 ゆっくり顔を向けると――


 しずかが、無表情で俺を見ていた。


 静かに。


 鋭く。


 そして何より――


 明らかに不機嫌だった。


 俺は背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。


「……しずか?」


 しずかは、ただ一言。


「……ふぅん」


 その声が、妙に低かった。


 俺は確信した。


 ――これは、今夜、何か起こる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ