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王はまともで、王女はテンプレだった

王と王女の御前にて、俺は膝をついたまま頭を垂れていた。


「お待ちしていました!」


 先に声を上げたのは、やはり王女アスタナだった。


「あの時は助けていただき、ありがとうございます。

 討伐依頼を終えた方が報奨金を受け取りに来ないと聞きまして……。

 わたくしの方で、王女特権を使って調べさせていただきました」


 にこり、と無邪気に笑う。


「依頼をこなしたのであれば、しっかりと報告してくださいね?」


 ……王女特権で個人調査。

 この国、個人情報という概念は存在しないらしい。


 俺が遠い目をしていると、王が軽く咳払いをした。


「依頼の達成を報告するかどうかは、個人の自由だ。

 そなたが報告しなかったことを、咎めるつもりはない」


 そして、少しだけ声を低くする。


「こちらの判断で、君のことを調べた。

 その点については、こちらが謝罪しよう。すまなかった」


 その言葉に、左右に控えていた貴族らしき人物たちがざわめく。


 ――あ、これ、ちゃんとした王様だ。


「滅相もございません」


 俺は、慎重に言葉を選んだ。


「報告について知らなかったとはいえ、

 こちらの認識不足でもありました。

 謝罪していただく必要はございません」


 テンプレの異世界主人公なら、ここで軽口を叩くのだろう。

 だが、この世界が中世なのか何なのかも分からない以上、生意気な態度は首が飛ぶ可能性すらある。


 俺は深く頭を下げた。


「そうか」


 王は静かに頷く。


「通常、討伐できない依頼を放置すれば、

 報奨金目当てに役所が混雑することもあると聞いておる。

 次に同じようなことがあれば、報告だけは早めに頼む」


「承知いたしました」


 内心では、

 ――話が通じる王で本当によかった。

 などと、不敬なことを考えていた。


 その空気を、見事にぶち壊したのが王女だった。


「お父様?」


 アスタナが一歩前に出る。


「彼は魔法が使えると聞いております。

 土木工事などさせておくのは、もったいないのではありませんか?

 魔物を討伐する隊に加えても、よろしいのでは?」


 ……出た。

 テンプレ思考。


 頭がおかしいというより、世界が見えていない。


 王は一瞬、困ったような顔をしてから、俺に視線を向けた。


「アスタナもこう言っておる。

 待遇は約束しよう。

 だが、決めるのは私ではない」


 そして、穏やかに問う。


「どうしたいか、教えてもらえるか?」


 ――苦労してるな、この人。


 そう思いながら、俺は自分の考えを口にした。


「ありがたい褒章だとは思います」


 一拍置き、続ける。


「ですが、土木工事は街を支えるために必要な仕事です。

 家を建て、修繕し、

 国や街が当たり前に暮らせるのは、

 土木工事を行う者がいてこそだと考えております」


 自分でも、少し真面目すぎると思ったが、言葉を止めなかった。


「短い期間ではありますが、

 私はこの仕事に不満を感じておりません。

 ですので、このまま仕事を続けさせていただければと思います」


 王は、しばらく俺を見つめ――

 そして、ゆっくりと頷いた。


「あいわかった」


 その声は、重く、しかし穏やかだった。


「だが、魔法を使える者は少ない。

 もしもの時は、協力を頼むことになるだろう」


「その際には、国のために助力してほしい」


 市民かどうかは分からない。

 だが、国に世話になっている以上、当然の話だ。


「承知いたしました」


 俺はそう答え、再び頭を下げた。


 こうして、俺は城を後にした。


 ――討伐者にもならず、

 ――英雄にもならず、

 ――ただの土木作業員のまま。


 それでも、この世界で生きていくには、

 それで十分だと、俺は思っていた。

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