倒した覚えはあるが、依頼した覚えはない
異世界のビール――エールにもすっかり慣れ、
俺は相変わらず、何事もなかったかのように土木工事の仕事を続けていた。
そんなある日、現場の長から声をかけられる。
「おい、ちょっと来い」
行ってみると、そこには見覚えのある顔があった。
ハローワークみたいな場所で、いつも不愛想なあの女職員だ。
「お前、依頼の魔物を倒したのか?」
長が腕を組み、怪訝そうに聞いてくる。
「金も受け取ってないらしいが、何をしてるんだ?」
「……?」
訳が分からず、頭の中に疑問符が浮かぶ。
すると、女職員が一歩前に出て、事務的に告げた。
「討伐依頼の出ていた魔物が倒されました。
それに伴い、報奨金が発生しています」
そして、ぎろりとこちらを睨む。
「倒したと名乗り出る人間が殺到しておりまして、正直、邪魔です」
……なぜ俺が睨まれているのか分からないが、殺意のこもった視線に気圧される。
「は、はい……。
仕事が終わったら行きます」
そう答えると、女職員は満足したのか、何も言わずに去っていった。
仕事終わり、言われた通りハローワーク的な場所へ向かう。
「依頼対象の魔物は、こちらで間違いありませんか?」
提示された資料を見て、俺はすぐに気づいた。
「ああ……。
これ、倒しましたね」
王女だとかいう女を助けた時に、雷で仕留めたあの魔物だ。
「でも、なんで俺が倒したって分かったんですか?」
素朴な疑問を口にすると、女職員は淡々と答える。
「第二王女アスタナ様より報告がありました。
その内容に該当する人物が、あなたでした。それだけです」
相変わらず、感情のない声。
「そうですか」
それ以上聞く気もなく、俺は必要な書類に名前を書き殴り、報奨金を受け取った。
「ありがとうございます」
形式的に礼を言い、そのまま立ち去ろうとした、その時。
「ああ、一つ」
女職員が呼び止める。
「アスタナ様より、城へ来るよう言伝を承っております。
こちらを持参し、明日、指定の時刻に城へ向かってください」
差し出された紙には、日時と簡単な指示が書かれていた。
……来たな。
よくあるテンプレ展開。
国の代表に呼ばれた以上、行かないという選択肢はないだろう。
「……分かりました」
そう答え、宿へ戻る。
部屋で報奨金を確認すると、
土木現場で一か月ほど働いた時と同じくらいの金額が入っていた。
「……雷、コスパいいな」
そんな感想を抱きつつ、俺は眠りについた。
翌日。
指定された時刻に城へ向かうと、門番らしき人物が立っていた。
書類を渡すと、すんなりと中へ通され、客室のような部屋へ案内される。
しばらく待っていると、呼び出しがかかった。
「こちらへどうぞ」
案内役の人物に従い、歩きながら作法を尋ねる。
国の代表と会うのだ。
失礼があってはならない。
簡単な礼儀作法を教わり、扉の前に立つ。
深呼吸を一つ。
扉をくぐると、そこには王と、そして――
見覚えのある顔。
王女アスタナがいた。
教えられた通り、俺はその場で膝をつく。
「お呼びにより、参りました」
そう告げた瞬間、
この世界に来て初めて――
俺は完全に、物語の中心に足を踏み入れたのだと、遅れて実感した。




