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祖父王の食卓と、価値観のすり合わせ

侍女や執事が静かに行き来し、料理が次々とテーブルに並べられていく。

 白い皿に盛られた料理はどれも見た目が美しく、どこかフレンチを思わせる構成だ。


(この世界に来てから、こんなちゃんとした食事は初めてかもしれないな)


 これまでは保存食や簡素な料理ばかりだった。

 豪勢というほどではないが、**“整えられた食事”**という印象が強い。


 ライアンが先にナイフとフォークを取り、食事を始める。

 それを合図にアスタナが口をつけ、少し遅れてたけるも同じようにナイフを取った。


 動作は自然だった。

 現代で何度も経験してきた、あの感覚と変わらない。


 ひと口、口に運ぶ。


(……なるほど)


 正直に言えば、味は質素だ。

 現代の洗練された料理と比べれば、どうしても見劣りする。


 だが――


(手抜きじゃないな)


 素材の処理も、火の通し方も丁寧だ。

 王族の食卓に出るだけの理由はある。


 ワインを一口含み、料理を進める。


 しばらく静かな時間が流れた後、ライアンが口を開いた。


「……お前、本当に平民か?」


 唐突な問いだった。


「はい。どこにでもいる平民です」


 そう答えると、ライアンは鼻を鳴らした。


「そんなわけがあるか。この場で当たり前のようにナイフとフォークを使い、物怖じもせず食事をする平民など、わしは知らん」


 言いながらも、料理の手は止めない。


(ああ、そこか)


 たけるは内心で納得した。

 現代では当たり前のことが、この世界では当たり前ではない。


「育った環境の違い、ですかね」


「ほう?」


「たまたま、そういう作法に触れる機会があっただけです」


 嘘ではない。

 ただ“世界が違う”というだけの話だ。


 すると、横から元気な声が割り込んだ。


「流石たけるさんです! これなら私との子を作っても――」


「アスタナ」


 低く鋭い声で、ライアンが即座に遮る。


「食事中だ」


「……はい」


 しゅんとするアスタナ。

 たけるは何も聞かなかったことにして、黙々と食事を続けた。


 やがて、ライアンが再び視線を向けてくる。


「それでだ。お前ほどの力を持ちながら、なぜ功績を立てようとせん?」


「功績、ですか?」


「爵位だ。魔物を討ち、名を上げれば簡単に手に入るだろう」


 たけるは少し考えてから答えた。


「……俺には、今の生活で十分なんです」


 ライアンの眉がわずかに動く。


「欲がない、ということか」


「はい。責任が増える立場になると、面倒なことも増えますから」


 正直な言葉だった。


 ライアンはしばらく黙り、ワインを一口飲んだ。


「……今の世は、確かに平和だ」


 低く、重い声。


「だがな、安寧と思われた日常は、一瞬で崩れる」


 たけるの視線が、自然とライアンに向く。


「研鑽に励め。魔法を“便利な道具”として使うだけでは足りん。守りたいものを守るには、慣れが必要だ」


 そこで一度、言葉を切り――


「経験の差は埋まらん。先ほどの戦いで、分かっただろう?」


 たけるは小さく息を吐いた。


「……はい」


 一太刀も浴びせられなかった事実が、はっきりと残っている。


 魔法を使えば何とかなる。

 そう思っていた自分が、少し甘かった。


(もう少し、考えた方がいいかもな)


 そう感じた、その時だった。


「ちょっと!」


 アスタナが身を乗り出す。


「私をのけ者にしないで下さい! 折角の食事の場なのですから、私とたけるさんの今後について話すべきではありませんか!?」


「……今後?」


 ライアンが一瞬たじろぐ。


「そうですよね? おじいさま!」


「そ、そうだな……」


 完全に押し切られた形だった。


 そこから先は、男二人が相槌を打つだけの時間となり、食事はなんとか無事に終わった。


 その後――


「一緒に寝ましょう!」


 というアスタナの爆弾発言は、当然のようにクレアによって即座に封殺される。


「アスタナ様。控えて下さい」


「むぅ……」


 解散の流れになり、たけるも部屋へ戻ろうとした、その時。


「たける様」


 背後から、執事の一人に声をかけられた。


「こちらへ」


 案内された先の部屋には、すでにライアンが待っていた。


 扉が静かに閉まり、二人きりになる。


 先ほどとは違う、重たい空気がそこにあった。


(……さて、ここからが本番か)


 たけるは、そう直感していた。

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