雷を纏う剣なき男、祖父王の一撃
ウィルから剣を手渡された瞬間、たけるの掌にずしりと重みがのしかかった。
(……重いな)
鉄の塊を握るというのは、想像していたよりも現実味があった。だが、日頃の力仕事で鍛えられているせいか、軽く振ると予想以上に刃は空気を切った。
土の匂い。風の音。遠くで見守る人々の気配。
その全てが妙に鮮明だった。
ライアンが構える。
その姿勢には無駄が一切ない。
「いつでもかかってこい」
低く響く声に、空気が張り詰めた。
喉が乾く。
どの瞬間に踏み出せばいいのかわからず、足が止まる。
――次の瞬間。
ライアンの身体が動いた。
迷いも予兆もない、一直線の踏み込み。
剣が振り下ろされる。
(やばい!)
咄嗟に、さっき見た護衛の動きを真似るように剣を掲げた。
金属がぶつかる激しい音。
受け止められた――が。
「っ……!」
腕に雷が走ったかのような衝撃。
剣って、重さじゃない。力のぶつかり合いだ。
次の瞬間、横薙ぎ。
防御は間に合った。
だが、身体が宙に浮いた。
ざざぁっと土の上を滑る。背中と腕に鈍い痛みが走る。
(冗談だろ……)
歯を食いしばり、剣を握り直す。
立ち上がるより先に、影が迫る。
再び剣が振り下ろされる。
受ける。
止める。
飛ばされる。
その繰り返し。
時間の感覚が曖昧になっていく。
息が荒くなる。
肩が焼けるように痛い。
手の皮が剥けそうだ。
剣を地面に突き立て、片膝をつく。
「誰がやめていいと言った」
ライアンの声が落ちる。
「立て!」
容赦のない命令だった。
観客席の空気が凍る。
「たけるさん! 頑張って下さい!」
アスタナの声が飛ぶ。
その瞬間、ライアンの眉間に深い皺が刻まれた。
「さっさと立て!」
叱責が雷のように響く。
たけるは歯を食いしばり、立ち上がった。
だが状況は変わらない。
防ぐだけ。
受けるだけ。
吹き飛ばされるだけ。
痛みが積み重なり、意識がぼやける。
その中で、何かが煮え立つ感覚があった。
(なんで俺が……)
アスタナの強引さ。
理不尽な試練。
八つ当たりのような鍛錬。
胸の奥が熱くなる。
倒され、距離が開いた瞬間。
たけるは息を整えた。
(……一発でいい)
雷を纏うイメージを描く。
何度か練習した感覚を思い出す。
身体の内側から光が滲む。
パチッ、と空気が弾ける。
ライアンの表情が変わった。
鋭い。
本気の目。
たけるは地を蹴る。
一瞬で距離を詰める。
剣が振り下ろされる。
ライアンは受け止めた。
だが、驚きはあった。
すぐに距離を取り、再び加速。
斬る。
弾かれる。
また詰める。
何度も。
何度も。
それでも届かない。
ウィルが見せたフェイントを思い出す。
剣を振り上げ、途中で軌道を変える。
(いける!)
だが――止められた。
完璧に。
次の瞬間、腕を掴まれる。
鋼のような握力。
「小賢しい!」
腹に衝撃。
空気が抜ける。
雷が霧散する。
喉が焼けるように熱い。
視界が暗くなる。
最後に見えたのは、空と、揺れる木々だった。
そして、意識は静かに途切れた。




