星空の下の本音と、交差する視線
俺たちは馬車へと戻った。
クレアが状況を簡潔に説明し、護衛の二人が俺の倒した熊のような魔物を確認しに向かう。結果、回収が必要との判断が下され、一人の護衛が馬にまたがって街へ引き返した。
護衛が減ることに少し不安はあったが、
「たけるさんがいますから問題ありません」
アスタナがそう断言したことで、残りの三人で目的地へ進むことになった。
先ほどの件がよほど恥ずかしかったのか、アスタナは無理に話しかけてくることもなく、静かに外の景色を眺めている。そのおかげで、俺も久しぶりに穏やかな移動時間を過ごせた。
夜になると、少し開けた場所で野営を行い、交代で就寝と見張りを担当する。
こういう光景は小説や漫画では何度も見たが、実際に自分がその場にいると感覚がまるで違う。
「次は頼む」
そう言われ、俺は見張り番として腰を下ろした。
夜空には無数の星が輝いている。
(……綺麗だな)
少しわくわくしている自分がいるのがわかる。
都会では絶対に見られない景色。澄んだ空気、虫の音、遠くで鳴く獣の声。
スマホもなく、やることもないはずなのに、ただ空を見上げているだけで心が満たされる。
この世界に来てから、もう随分時間が経った。
最初は戸惑いばかりだったが、今は普通に生活できているし、現代では味わえなかった経験もできている。
俺が何のためにここに来たのかはわからない。
でも、工場で何となく働き、同じ毎日を繰り返していた頃より、今の方が確実に充実している。
(便利な生活が悪いわけじゃないけど……)
少し不便で、予想外の出来事に巻き込まれて、誰かと助け合って生きる日々。
こういう方が、人間らしいのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、
「たけるさん、交代の時間です」
声をかけられて振り返ると、ウィルが立っていた。
「もうそんな時間か。後は頼むな」
立ち上がろうとすると、
「……少し話しませんか?」
引き留められた。
まだ眠気もないし、俺は再び腰を下ろした。
並んで座ると、しばらく沈黙が続く。
嫌な空気ではない。
やがて、ウィルが口を開いた。
「たけるさん。色々ありましたけど、僕は今、たけるさんに感謝しています」
「そうなのか? 別にいいよ。俺も事情を知らずに面倒を押し付けたからな」
ウィルは小さく笑う。
「じゃあ、この紋章のことは……たけるさんが何かした結果ってことでいいんですよね?」
ああ、その話か。
今なら大丈夫だと思った。
「悪かった。面倒になりそうだったから、とっさにな」
「いいですよ。僕も稼げるようになって、家族に仕送りできてますし。最初の目的は達成できましたから」
「それならよかった。何かあったら頼ってくれよ。できる範囲で力になる」
「はい。その時は遠慮なくお願いします」
「おう」
笑顔で言葉を交わし、俺は寝るために別の場所へ向かう。
だが――
俺が去る背中を見つめるウィルの視線が、あの時と同じ鋭さを帯びていることに、俺は気づかなかった。
夜空は相変わらず綺麗で、何も変わらないように見えた。
けれど、その静けさの中で、確かに何かが動き始めていた。




